コラム
2016年12月26日

2つの出生力推移データが示す日本の「次世代育成力」課題の誤解-少子化社会データ再考:スルーされ続けた次世代育成の3ステップ構造-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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完結出生児数は語る-「妻は2人産んでいる」

日本というエリアにおける女性の出生力は1993年以降、恒常的に1.50をきっており、日本の女性は長期に約1名しか産まなくなっている。

しかしこの分母には未婚女性も既婚女性も含まれている。そのうちの既婚女性の出生力は一体どのように推移しているのであろうか。これを見るために用いる指標が、完結出生児数である。
 
完結出生児数は、結婚してからの経過期間が15年から19年の夫婦の平均子ども数として計算される。なぜ15年から19年かというと、その期間を過ぎた夫婦は統計的にほぼ子どもを授かっていないからである。つまり、完結出生児数は「夫婦の最終的な平均出生子ども数」とみなさていれる。

日本の完結出生児数は戦後1952年の3.50から急激に低下をした。しかし、1972年の2.20以降、最新調査の2015年1.94まで、徐々に下降しているもののおよそ2で推移している(図表1)。
 
意外なことかもしれないが、この40年以上、日本の夫婦(既婚女性)から生まれる子どもは2人であり、大きな低下を見せていないのである。
【図表1】日本における合計特殊出生率と完結出生児数の推移

大きく低下した「カップリング力」

1970年代以降、少なくとも2002年までは妻の2人までの出生力は維持されており、表の赤線の出生率の低下は、母数である未婚女性の増加(カップリング力の低下)が大きく影響しているだろうことが図表1からみてとれる。
 
昨年あたりから政策的に「ライフデザイン教育」が学校教育分野で登場した。これは次世代育成の3ステップの「妊娠・出産力」に関わる正確な知識の普及も含まれている。

男女がみずから、子をもうけることの有無、タイミングを希望の叶う形でデザインするには、まず何より正確な生物学的知識をもつことが不可欠である。

女子学生が「女性活躍時代だし、資格もとってキャリアをつんで40歳になったら子どもをつくろうかな」などと口にするケースもいまだに見られる日本は、他の先進国と比較するとあまり褒められるレベルではないのである。不正確な妊娠・出産力に関する知識によって、カップリングを含む出産育児の夢の実現が阻まれる可能性は決して小さくはない。
 
今年10月から12月にかけて、長時間労働などの反ワークライフバランスの温床となりがちな企業・団体組織に、「カップリング力」を阻害しないような環境整備を期待する政府の検討会も開催された1。国としてこのステップに着眼したことは、やっとではあるにしても評価したい。
 
 
あくまでも個人のライフデザインの応援の枠を踏み外さず、しかし決してスルーされることなく、学生から老年者にいたるまで新たな3ステップ議論が少子化対策として社会でかわされることを切望してやまない。
 
 
1 結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会の開催について
http://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/meeting/kigyo/index.html

(2016年12月26日「研究員の眼」)

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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向


    【委員歴/ご依頼順(現職優先)】

    1.政府
    ・【総務省統計局】
    「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】
    「若い世代視点からのライフデザインに関する検討会」構成員(2025年度)
    「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024~2025年度)
    「令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員」(2023年度)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】
    「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【内閣府男女共同参画局】
    「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府】
    「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~2018年)
    「地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)

    2.自治体
    ・【富山県】
    「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    「富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員」(2022年)
    ・【高知県】
    「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度~)
    「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
    ・【三重県】
    「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度~)
    ・【愛知県豊田市】
    「豊田市総合計画推進会議 有識者委員」(2025年度~)
    ・【石川県】
    「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【長野県伊那市】
    「伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般」(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】
    「子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー」(2021年)
    ・【愛媛県松山市】
    「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会・結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)

    3.民間団体
    ・【東京商工会議所】
    東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【愛媛県法人会連合会】
    えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】
    「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
    ・【中外製薬株式会社】
    「ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会(通称:研究倫理委員会) 委員」(2020年~)
    ・【主宰研究会】
    地方女性活性化研究会(2020年~)


    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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