2016年12月20日

老いる中国、介護保険制度はどうなっているのか。【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(23)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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中国では、民間の介護事業者による生活介助など有料サービスの供給が先行し、地方自治体による介護保険制度の試験的な導入が開始されたのは、わずか5年ほど前からである。

しかしながら、「高齢化率」という視点からみると、2015年の中国は10.5%で、日本がこれとほぼ同じであったのは1985年、日本と中国ではおよそ30年の時間差がある1。日本は1985年から15年後の2000年(高齢化率:17.3%)に介護保険制度を施行したが、当の中国は5年後の2020年(高齢化率(予測):11.7%)の全国導入を目指している2。国によって制度の佇まいが異なるため、簡単には比較できないが、高齢化率からみる導入時期については、日本よりも相対的に速いといえよう。

本稿では、まず、国が選出したパイロット地区で運営されている制度を参考に、日本の制度との比較を交えながら、全体像を概観する。次いで、北京市(海淀区)などパイロット地区以外の地域の多様性に富んだ制度についても紹介し、中国の介護保険制度の現状を考察する。
 
1 中国の高齢化率については国家統計局の発表による。2015年末時点で、65歳以上の人口は1億4,386万人。中国では60歳以上を高齢者としていることから、国内における高齢者数は2億2,200万人と2億人を超えている。
2 中国の2020年の高齢化率(予測)については、United Nations World Population Prospects:The 2012 Revisionによる。日本の2000年の高齢化率については、厚生労働省「公的介護保険制度の現状と今後の役割」(平成27年度)による。なお、中国の高齢化の進展は日本とほぼ同じスピードで進むと予測されており、高齢化社会から高齢社会へは25年、超高齢社会へは11年で到達されるとされている。
 

1-2016年6月、15のパイロット地区を発表

1-2016年6月、15のパイロット地区を発表

2016年6月、国務院は、全国の15都市を介護保険制度のパイロット地区として発表した。この発表は中央政府が全国の地方政府(各市)に向けて、制度導入を本格的に目指すよう示したことになる。

中国の高齢者福祉政策は、1996年の「老年人権益保障法」制定以降、民間参入による有料サービスの提供が先行していた。日本のような介護保険制度の全国導入は検討されておらず、医療、年金などの社会保険と同様に、各市がそれぞれの実情にあった制度を検討、運営している。2012年に、山東省青島市が試験的に導入した「長期医療・介護保険制度」が中国における最初のモデルケースとされ、それ以降、吉林省長春市(2015年5月)、江蘇省南通市(2016年1月)が制度を創設している。先行して導入しているこれらの3都市は、パイロット地区として今般、政府が追認した。

パイロット地区は、その多くが東部の沿海地域を中心としており、高齢化率、経済規模、制度導入の検討状況などを加味して選出されたのであろう(図表1)。今後、全国の各市は、15のパイロット地区での試行状況を参考に、それぞれ制度を設計、導入することになるが、市によって経済規模や状況が大きく異なるため、給付内容や自己負担割合はそれぞれ異なるであろう。国としては、2020年までに全国の市で導入が完了=皆保険、というこれまでの手法をとるつもりだ。
図表1 介護保険制度のパイロット地区15都市
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

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