- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- ライフデザイン >
- EU(欧州連合)にみる「共生社会」-中欧の街角から(その1):ウィーン
2016年12月07日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
先日、オーストリアのウィーンを訪れた。日本で急増する訪日外国人の中でも中国人観光客が目立っているが、ウィーンも同様だった。今年9月には、オーストリア航空が1989年から27年間運航してきた成田・ウィーン間の直行便が廃止され、代わって香港・ウィーン線が就航した。2015年にアジアからウィーンを訪れた旅行者の宿泊数は日本人が最多だったそうだが、オーストリア航空の日本路線は価格競争の激化などから将来性が見込めないため撤退することになったようだ。
日本とウィーンを結ぶ直行便がなくなり、ウィーンへはドイツやオランダなどのヨーロッパ内での乗り継ぎが必要だ。現在、ヨーロッパではシェンゲン協定1により、最初のシェンゲン地域の国で入国手続きをすれば、原則として域内の移動の際のパスポート・チェックはない。国境を越える際には日本国内の都道府県境を越えるような感じだ。しかし、実際には異なる法律や文化を有する主権国家間の移動であることから、EU(欧州連合)のガバナンスはきわめて複雑であることは想像に難くない。
現在28カ国が加盟するEUでは、原則として人・物・サービス・資本の移動が自由に行われる。そこでは民主主義や法の支配、人権の尊重といった価値観が共有されなくてはならない。EUは市場統合と通貨統合を推進しながら経済的繁栄を通じた欧州全体の平和構築を目指しており、経済・金融政策にとどまらず、環境政策や外交・安全保障政策など幅広い政策分野にかかわる超国家的統治体となった。とりわけEUでは人権尊重や男女平等の規定がきわめて重視されている。
今回、ウィーンの街を歩いていると、見慣れない歩行者用信号機に遭遇した。「青信号」は2人の人が手をつないで歩く緑色の姿、「赤信号」は2人の人が手をつないで立ち止まる赤色の姿だ。ネットで調べてみると、2015年5月に一時的に導入され、さまざまな議論ののちに本格的に設置されるようになった同性カップルを表現した歩行者用信号機だった。近年、日本でもLGBT(性的マイノリティ)の人権尊重が求められる時代だが、改めてEUが目指す多様性や寛容性を感じた。
前述のシェンゲン協定によりEUは域内の国境が事実上なくなり、一層厳密な域外との国境管理が必要とされている。EUは基本的価値観を共有しているものの、シリアなどから押し寄せる難民に対して加盟国の対応には温度差がある。今年6月にはイギリスがEU離脱を表明した。しかし、ウィーンの街角で見かけた歩行者用信号機からは、「多様性のなかの統一」を掲げるEUが、経済的果実だけではなく、なおも互いの多様性を認め合う「共生社会」を求めて苦闘する様子が窺えるのだった。
日本とウィーンを結ぶ直行便がなくなり、ウィーンへはドイツやオランダなどのヨーロッパ内での乗り継ぎが必要だ。現在、ヨーロッパではシェンゲン協定1により、最初のシェンゲン地域の国で入国手続きをすれば、原則として域内の移動の際のパスポート・チェックはない。国境を越える際には日本国内の都道府県境を越えるような感じだ。しかし、実際には異なる法律や文化を有する主権国家間の移動であることから、EU(欧州連合)のガバナンスはきわめて複雑であることは想像に難くない。
現在28カ国が加盟するEUでは、原則として人・物・サービス・資本の移動が自由に行われる。そこでは民主主義や法の支配、人権の尊重といった価値観が共有されなくてはならない。EUは市場統合と通貨統合を推進しながら経済的繁栄を通じた欧州全体の平和構築を目指しており、経済・金融政策にとどまらず、環境政策や外交・安全保障政策など幅広い政策分野にかかわる超国家的統治体となった。とりわけEUでは人権尊重や男女平等の規定がきわめて重視されている。
今回、ウィーンの街を歩いていると、見慣れない歩行者用信号機に遭遇した。「青信号」は2人の人が手をつないで歩く緑色の姿、「赤信号」は2人の人が手をつないで立ち止まる赤色の姿だ。ネットで調べてみると、2015年5月に一時的に導入され、さまざまな議論ののちに本格的に設置されるようになった同性カップルを表現した歩行者用信号機だった。近年、日本でもLGBT(性的マイノリティ)の人権尊重が求められる時代だが、改めてEUが目指す多様性や寛容性を感じた。
前述のシェンゲン協定によりEUは域内の国境が事実上なくなり、一層厳密な域外との国境管理が必要とされている。EUは基本的価値観を共有しているものの、シリアなどから押し寄せる難民に対して加盟国の対応には温度差がある。今年6月にはイギリスがEU離脱を表明した。しかし、ウィーンの街角で見かけた歩行者用信号機からは、「多様性のなかの統一」を掲げるEUが、経済的果実だけではなく、なおも互いの多様性を認め合う「共生社会」を求めて苦闘する様子が窺えるのだった。
1 イギリスやアイルランド等を除く22のEU加盟国と、スイスやノルウェー等を含む4つのEU非加盟国をあわせた26カ国が参加
[参考]
研究員の眼『LGBTの人権意識~ 「違い」を「差別」にしないために』(2014年12月15日)
研究員の眼『都市文化の“魅せる街づくり” ~中欧の街角から(その2):ブタペスト』(2016年10月11日)
研究員の眼『“自由”は、どこから来たのか~中欧の街角から(その3):プラハ』(2016年10月18日)
(2016年12月07日「基礎研マンスリー」)
土堤内 昭雄
土堤内 昭雄のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2018/12/20 | 「定年退社」します!-「生涯現役」という人生の「道楽」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/11/28 | 「人生100年時代」の暮らし方-どう過ごす?! 定年後の「10万時間」 | 土堤内 昭雄 | 基礎研レポート |
2018/11/27 | 「平成」の30年を振り返って-次世代へのメッセージは、「レジリエントな社会づくり」 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
2018/10/23 | 「幸せ」実感できぬ社会-豊かな時代のあらたな課題 | 土堤内 昭雄 | 研究員の眼 |
新着記事
-
2025年03月28日
トランプ2.0でEUは変わるか? -
2025年03月28日
韓国における最低賃金制度の変遷と最近の議論について -
2025年03月28日
新NISAの現状 -
2025年03月28日
トランプ政権2期目の移民政策-強制送還の大幅増加は景気後退懸念が高まる米経済に更なる打撃 -
2025年03月28日
就労世代の熱中症リスクと生活習慣~レセプトデータと健診データを使った分析
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【EU(欧州連合)にみる「共生社会」-中欧の街角から(その1):ウィーン】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
EU(欧州連合)にみる「共生社会」-中欧の街角から(その1):ウィーンのレポート Topへ