2016年11月29日

まちづくりレポート|住宅団地活性化なるか!-広島市戸建住宅団地活性化の取り組み

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎

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図表3 完成後経過年数別住宅団地数、高齢化率 2|住宅団地の特徴
住宅団地は、完成と同時に同年代の若い世帯が一斉に入居することから、高齢化も同時に進行するという特徴がある。住宅団地が完成してからの経過年数ごとに平均の高齢化率をみると、概ね完成から年数が経過するほど高齢化率が高くなっており、経過年数40~49年では30%に及ぶ。50年以上経過する団地の中には、40%を超えるところもある。(図表3)

広島市の場合経過年数30年以上の団地の数が多く、人口比では全住宅団地の7割以上を占める。(図表4)
30年経過というと、例えば親が35歳、子が5歳で入居したとすると親は65歳、子は35歳となり、親世代は高齢化し、子世代はそれまでに就職や結婚などで世帯分離して転出することが多くなる。これが要因で世帯人員が減り、高齢化率が一気に高くなると考えられる。実際に1世帯当たり人員を見ると、完成後経過年数が上がるほど、少なくなる傾向が読み取れる。(図表5)
図表4 完成後経過年数別住宅団地内人口/図表5 完成後経過年数別住宅団地内1世帯当たり人員
3|住宅団地の具体事例
このような住宅団地の特徴を1968年に完成したA団地で見ると、完成後27年経過した1995年をピークに人口は減少に転じ、47年経過した2015年の人口は1985年を下回っている。高齢化率は人口減少に反比例して、2000年以降着実に高まっており2015年は約35%に達している。一方、世帯数は2000年以降も漸増傾向が続いているが3、1世帯当たり人員は一貫して減少傾向にある。(図表6,7)
図表6 A団地人口、高齢化率推移/図表7 A団地世帯数、1世帯当たり人員推移
A団地の2015年の年齢別人口を見ると、60~70代が多くなっている。2005年から2015年の10年間の各年代の増減をみると、20~30代と70代後半から90代にマイナスの山が認められる。(図表8)
図表8 A団地年齢別人口(2015年) 前者はおそらく就職や結婚による転出での減少であり、後者は高齢者施設などへの転居や死亡による減少だと推察できる。これに比較して40~70代前半の増減はわずかである。こうした状況から、施設等に移るまで定住する親世代に対し、転出した20~30代が再び団地に戻ってくるケースはほとんどないことがうかがえる。

そして、10年間で増加した年代は10~12歳など限られたものとなっている。今後の10年間も同様な傾向が続けば、現在最も多い60~70代が70~80代となる中で、全体の人口は減少していくことが容易に予測できる。また、一斉に高齢者施設などへの転居や死亡時期を迎えることで、世帯数も減少していくだろう。
 
 
3 直近の世帯数の増加要因の一つに、一戸建てからアパート・マンションに建て替えたことによる民営借家の増加がある。一般的に民営借家世帯は持ち家世帯より小規模であることから、1世帯当たり人員の減少には、民営借家の増加も要因の一つになっていると考えられる。
4|懸念される状況
市は、市の中心部に近く駅至近にある利便性の高い限られた住宅団地以外、このような状況はすべてに当てはまると考えている。

広島市はバス路線が発達しており、現在はほとんどの住宅団地に、市中心部から路線バスが通っている。しかし、このまま人口減少が続けば、利用者が減り、便数の減少や路線の廃止につながり、同様に、住宅団地内や周辺に立地する店舗などの生活利便施設が次第に縮小していくことが懸念される。

高齢になるほど、自家用車の運転が困難になってくることから、多くの高齢者にとって、著しく生活利便性が失われ、転居を余儀なくされる。転居した住宅に若い世帯が新たに入居すればよいが、不便な環境で活力がなければ、新たに住宅団地に住もうとする若い世帯も少なくなる。ますます人口減少、世帯の減少が進むことになる。このまま対策を講じなければ、大量の空き家、空き地が発生する可能性がある。

5|住宅団地活性化研究会
こうした状況を重くみた市は、2013年5月に学識経験者や団地住民、関係団体からなる「住宅団地活性化研究会」を設置した。研究会は2015年2月までに9回開催され、研究会の意見を踏まえ、最終的に冒頭紹介した「住宅団地の活性化に向けて」を市が取りまとめた。

同時に、関係課の課長を構成メンバーとする「住宅団地活性化庁内調整会議」を設置し、庁内横断的に連携を図り、個別分野の課題に対応する体制を整えた。
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社会研究部   都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任

塩澤 誠一郎 (しおざわ せいいちろう)

研究・専門分野
都市・地域計画、土地・住宅政策、文化施設開発

経歴
  • 【職歴】
     1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
     2004年 ニッセイ基礎研究所
     2020年より現職
     ・技術士(建設部門、都市及び地方計画)

    【加入団体等】
     ・我孫子市都市計画審議会委員
     ・日本建築学会
     ・日本都市計画学会

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