2016年09月05日

未婚の原因は「お金が足りないから」という幻想-少子化社会データ検証:「未婚化・少子化の背景」は「お金」が一番なのか-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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3――本当の原因はお金ではないかもしれない、の検証

1男女とも交際相手がいない割合が着々と上昇
 
前章では、未婚男女が既婚男女より高い年収が必要であると考えていることや、20代30代の未婚女性が求める年収水準の男性はかなり少ないということが示された。また一方で、既婚者は未婚者が考えているよりも少ない年収でやっていけると考えていることも明らかになった。

そうであるならば、例え未婚者であっても、実際に結婚を考えるような交際相手がいるのであれば、金銭的なことをパートナーと当然話し合うため、既婚者に近い年収感覚に感覚修正されるように思われる。

そうすると、未婚者の感覚に現実の感覚が薄いことは、結婚を前提とする交際相手がいない(またはいない割合が増えた)ことによるものではないだろうかとも考えられる。

そこで、未婚者についての交際相手の有無について検証してみたい。

図表8は未婚者に占める交際相手のいない者の割合の推移を示している。

この20年間、結婚希望は安定して男女とも9割(図表3)で推移しているにも関わらず、未婚者に占める交際相手がいない割合が大きく伸び続けてきていることがみてとれる。

1987年では男性5割、女性4割であった交際相手がいない割合が、2010年には男性6割、女性5割にまで増加してきているのである。

このことは、未婚者の中で、結婚イメージが「日常生活においてより非現実的な」男女の割合が増加したとはいえないだろうか。そして、この交際相手がいない未婚者の割合が増加しているということが、未婚者の結婚に関する金銭感覚の現実離れ化に強く影響していると考える。次項ではこのような交際相手がいない者の割合が増加している原因について見ることにする。
【図表8】 未婚者のうち、交際相手がいない割合(縦軸:% 横軸:調査年)
2結婚していない理由の年齢による変化

ここまでの分析で、9割の男女は結婚希望がある一方で、未婚化は着々と進んでいること、未婚化だけではなく、交際相手がいない者の割合も増加していることが示された。

ここで、社会の感覚とは別に、未婚者がどうして結婚していないのかを未婚者に直接尋ねた調査の結果を紹介したい。

図表9は、未婚化と少子化に立ちはだかる「まだ若すぎる」の壁-少子化社会データ検証:「逆ロールモデルの罠」-、でも示した図表であるが、独身でいる理由は男女とも、未婚者の年齢によって大きく異なってくることに注目したい。この調査は「はじめに」で示した図表2の意識調査とは異なり、未婚者だけの意識を反映した結果であるため、より切実な実態を表していると見てよいだろう。
【図表9】 独身にとどまっている理由 上位3理由
まだ学生であることが世間的におかしくはない就学可能年齢(大学院卒業程度まで)の年齢では「まだ若すぎる」という「選択的独身」理由が男女とも多数派を占めている。

しかし、それを過ぎて就業必須年齢に移行すると途端に「まだ若すぎる」理由は急落し5、「非選択的独身」理由である「適当な相手にめぐり会わない」が男女とも約半数を占めるようになる。

結局、20代前半までのんびり構えていたら年齢上昇とともに相手が見つけにくい状態に陥り(あわせて図表6-2参照)、20代後半から焦り始めるという、結婚行動がアリとキリギリスのキリギリス的行動となっていることがうかがえる6

図表9において18歳から34歳までの未婚者について独身のままである理由を見ると、社会の感覚を表した図表2の「お金が足りないから生涯未婚率があがっているのではないか」という結果と異なり、「お金が足りないから結婚しない」と考えている割合は決して高いとはいえない。

それよりも、結婚のための行動が出遅れていることの方を、むしろ未婚化の原因として問題視すべきであるとデータは示しているように見える。

2014年における日本の平均初婚年齢は妻が29.4歳、夫が31.1歳であるが、そのあたりの年齢帯(25歳から34歳)の男女の「独身でいる理由」をみても、「結婚資金が足りない」は男性で30.3%、女性で16.5%となっている。男女とも結婚資金以外の理由が上位に来ていることにあらためて注目したい。

もう一点、未婚者への意識調査の結果から興味深い示唆があるのではないかということを指摘しておきたい。

図表9をみると、アラサーと呼ばれる20代後半から30代前半になっても、女性からは「結婚資金が足りない」という回答が上位にあがってきていない。一方、男性では3位の3割の理由に挙がってきている。

このことは、女性は自分(女性)の問題として「結婚資金」を考えていないとも考えられる。

結婚のハードルとしてお金の問題は男性が解決すべき、という思考が前提にある場合、女性の側から「結婚資金」が結婚の障害としては上がってはこないのは想像に難くない。

図表9からは、お金の問題は未婚者の独身でいる決定的な理由ではないものの、男性が一方的に責任を感じさせられる問題となってしまっている、という日本における固定的な性別役割意識問題が見え隠れしていることを、前章との関係において指摘しておきたい。

以上をまとめると、

(1)年齢への楽観視から来る結婚行動への遅れが、未婚化を推し進めていると思われる
(2)お金の問題はクリティカルな問題とはなっていないが、男性だけに責任を押し付ける傾向がある

ということができる。

これらは未婚者が「結婚していない理由」である。ではその一方で、実際に結婚を決めた男女にとって、その決断に一番影響があった(と本人達が考える)理由は何であったのかを見てみたい。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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