コラム
2016年06月20日

未婚化と少子化に立ちはだかる「まだ若すぎる」の壁-少子化社会データ検証:「逆ロールモデルの罠」-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

文字サイズ

【はじめに】

「生涯未婚率」という統計上の言葉がある。
単に「未婚率」であれば、結婚していない男女の割合であろうというなんとなくの予想はできるが、生涯未婚率、となると初耳という人も少なくはないだろう。
生涯未婚率は、一生涯未婚である人の割合を計算した数値ではない。そうではなくて、ある測定時点において「50歳で1度も結婚経験がない人の割合」を計算した、統計上の数値である。
簡単に表現すると「一生涯独身である可能性が高い人の割合」という統計上の指標となる。
日本において未婚化が進行してきていることは、メディア等で知られるところである。しかしその実態を正確にデータで把握している人は多くはないだろう。
 
婚外子比率が数パーセント台である日本においては、結婚は出産への最初の関門であり、つまり未婚化の進行はそのまま少子化社会の進行へとつながってゆく。
本稿では、未婚化の進行・未婚化の背景となる未婚者の意識を国の大規模データで把握するとともに、その進行をせき止めるため不可欠な「社会の姿勢」について考察してみたい。

【男性に顕著な未婚化現象】

まず日本の生涯未婚率はどのようになっているのか、図表1で見てみたい。
5年に1度の国勢調査に基づいて計算されるため、直近のデータは2010年となっているが、男性の生涯未婚率は20.14%、女性は10.61%である。今の日本では、男性の5人に1人、女性の10人に1人が生涯未婚である可能性が高い、ということが示されている。
生涯未婚率は、特に男性で急上昇してきている。1980年には2.60%であったのが、1990年には5.57%、2000年には12.57%、そして2010年には20.14%と、実に30年前の10倍に一生涯独身である可能性の高い男性が増加しているのである。
一方、女性は1980年には4.45%で男性を上回っていたものの、そこまで割合が増えてはいない状態にとどまっている。
50歳男女のそれぞれの人口はそこまで差がない(2010年国勢調査ではともに77万人程度)とすると、50歳になった時点で、女性生涯未婚者の倍の人数の男性生涯未婚者がいるということになる。つまり、一生のうち、複数回結婚している男性が以前よりも増え、一方で、全くしない男性の割合が増えたということであろう。
結婚しないという選択肢自体は否定されるものでは全くないが、結婚したい男性にとって「結婚経験の格差社会」が生じてきている、と言えるのではないだろうか。
【図表1】生涯未婚率の推移

【結婚したい時には相手がいない-キリギリス的結婚活動】

1度も結婚経験がない人の割合が日本で急増していることは、「個人のライフプランの変化の問題」として手放しで容認していいことではあまりないかもしれない。なぜなら未婚者の9割(2010年男性86.3%、女性89.4%1)が「結婚するつもり」であると国の調査で回答しているからである。
つまり希望が実現しないまま50歳を迎える男女が急増してきている、と見ることが出来る。希望が叶わなくなりつつあることを示す社会現象を、個人のライフプランの問題、とみなしてしまうのはあまりに乱暴である。
 
では、どうして男女ともその9割にものぼる結婚希望が叶わなくなってきているのであろうか。
 
上記の国の調査の中に18歳から34歳の未婚男女が「独身にとどまっている理由」(3つ選択)を回答した結果がある(図表2)。これによると、およそ高卒から大学院卒にあたる年齢の18歳から24歳の場合、男性では「まだ若すぎる」が理由のトップ(47.3%)であった。2位の理由の「まだ必要性を感じない」(38.5%)も「若すぎると思っている」からこそでてくる回答といえるだろう。
一方、同年齢の女性でも「まだ若すぎる」が理由のトップであり(41.6%)、やはり僅差で「まだ必要性を感じない」40.7%が並ぶ。高卒から大学院卒にかけての年齢の男女は「まだ若すぎるから」独身でいるのだ、と思っている割合が極めて高い。
 
ところが、この「独身にとどまっている理由」が25歳から34歳の男女とも一般的に学生である状態ではいられなくなる「就業必須年齢」(学生であるので就業していないといいにくくなる年齢)に達した途端、一変する。
「就学可能年齢」(学生であることに違和感のない年齢)だった時のトップ理由の「まだ若すぎる」が、男性で6.5%、女性で2.7%にまで急落する。
 
そして、「就業必須年齢」に達した独身男女の「独身のままでいる理由」のトップがともに「適当な相手にめぐり会わない」に変化する。男性では46.2%、女性では51.3%と、断トツのトップの理由となる。
上記の独身理由の急激な変化からは、自らが一般的に就学者(学生)の多い年齢であるうちは「まだ若いから」と思って先延ばしにしていたが、「就業必須年齢」に移行した途端、大慌てで相手を探そうと考えるも相手が見つからないでいる、という極端とも言える男女の結婚活動の様相が見えてくる。
残念なことではあるが、童話「アリとキリギリス」でいうところのキリギリス的行動パターンともいえるかもしれない。
【図表2】独身にとどまっている理由(%)
 
1 国立社会保障・人口問題研究所「第14回出生動向基本調査」
Xでシェアする Facebookでシェアする

生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【未婚化と少子化に立ちはだかる「まだ若すぎる」の壁-少子化社会データ検証:「逆ロールモデルの罠」-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

未婚化と少子化に立ちはだかる「まだ若すぎる」の壁-少子化社会データ検証:「逆ロールモデルの罠」-のレポート Topへ