コラム
2015年05月18日

第一子出産年齢上昇はそんなに問題なのか? - データでみる少子化との関係性 -

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【どうして「データで見る」のか?】

筆者は女性活躍と少子化の関係について昨年5つのレポートを発信した。その中で、少子化の進行を阻止するには「晩産化を阻止すること」が全ての少子化対策のベースとなる政策となるであろうと提言した。
   晩産化を阻止することで、その他の少子化政策が少子化阻止により大きな効果を持つようになるとする根拠として、「生殖適齢期への国民的認知の低さ」「医学的な年齢と妊娠の関係」「今までの子育て支援政策に晩産化阻止を主たる目的とした政策がなかったこと」の3点を、適齢期に関する意識調査、医学的データ、わが国の子育て支援政策の個々の具体的な検討を通して紹介した。

では、「晩産化」と「少子化」を実際に統計的にみた場合にも、両者の間に明確な関係があるのであろうか?。

筆者は晩産化と少子化の関係について統計的な観点からも明らかにしたいと考え、OECD加盟国34カ国の「第一子出産年齢」と「出生率」のデータを用いて相関分析を試みることにした。

 

【第一子出産年齢と出生率の相関関係】

分析を行う前にもう一度、過去のレポートでも紹介した、着々と上昇し続けるわが国の第一子出産年齢について確認しておこう。1975年からの40年間の間にわが国の女性の第一子出産年齢は約5歳上昇している。参考までに第一子出産年齢の推移を表したものが、次図である。

第1子出産年齢の推移(1975年-2014年)

第一子出産年齢が40年間の間に約5歳上昇した、という事実を踏まえた上で、第一子出産年齢と出生率iiとの間には一体どういう関係性があるのか、「約5歳の上昇」は統計的には何を意味するのかを見てみよう。’OECD Family Database’を用いてOECD加盟の34カ国について両者の相関分析したものが次の図である。

(上)OECD加盟34カ国 第一子出産年齢と出生率の相関分布図/(下)相関係数

相関分析の結果、第一子出産年齢と出生率の間には-0.491という「中程度の強さのマイナスの相関関係」があることが判明した。
   つまり第一子出産年齢の上昇は出生率を低下させる方向に影響を与えているといえる。
   しかも、グラフから日本の30歳を超えるという第一子出産年齢は、34カ国の中でも出産年齢が高いグループに属している、といえる。
   そして、これが最も重要な示唆であるが、30.4歳という第一子出産年齢は、少なくともOECD34カ国においては統計的に見て、出生率1.5を切る超低出生率を引き起こしやすい年齢水準であることがわかったiiiのである。

相関分析の結果をみても、「第一子出産年齢を引き下げる」ことが少子化進行の阻止に有効であるといえるだろう。しかしながらこれまでのレポートに紹介した通り、今まで行われてきた子育て支援諸策は「若くして生みたいカップルを支えるもの」もしくは「若くして生まないと子ども2人は難しいという当然のことを国民に伝えるもの」ではなかった。

今でも、第一子出産年齢が上昇していることを「その年齢ぐらいでみんな産んでいるから私も」といった日本的横並び意識でとらえる母親希望者や、それくらいの年齢で部下または部下の配偶者が出産することを漠然と前提とした企業の人事管理姿勢は消えてはいない。これではOECD加盟国34カ国のデータからみると、出生率の上昇は困難であるといっていいであろう。

統計的にみても「若い妊娠希望カップルをいかに増やせるか」、このことにわが国の未来の人口がかかっているのである。

 
 
 

 
 i 2015/02/23 「女性活躍推進」=「少子化推進」の失敗を繰り返さないために - 超少子化社会、脱却への一処方箋 - 基礎研レポート
 2015/01/19 妊産期を逃さない女性活用を。- 未来へ続く、限りある時間を知るために 研究員の眼
 2014/11/04 まずは「良妻賢母」好きを、やめてみる。 - 「女性活用」と「少子化対策」、どうしたらいいの? 研究員の眼
 2014/07/14 「女性活用」は、食育から。- 男性が家事しない国ランキング第3位の日本。わが国の人々が「日本らしく」幸せに生きるために 研究員の眼
 2014/06/10 「女性活用・女性活躍」で女性が苦しまないために - 女性が真に幸せなキャリアデザインを描くため、私たちが本当に知らなくてはならないこと。 研究員の眼
   ii 合計特殊出生率(TFR):(期間)合計特殊出生率はある年における全年齢の女性の出生状況を、一人の女性が行うと仮定して算出する数値であり、ある一時点におけるその国の出生率を表現する。
  iii 第一子出産年齢が30歳を超えるということは必ずしも超低出生率社会を生み出すとは限らないが、その可能性が高くなることが分散図から示されている。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2015年05月18日「研究員の眼」)

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