コラム
2016年05月16日

子どもの数と「世帯主の勤務先」-少子化社会データ再考・親の勤務先はどう影響するか-

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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【はじめに】

前回執筆した「父親・母親の年齢と出生率」に引き続き、今回も日本の国が実施している大規模データを分析することによって、出生率上昇のための鍵を探ることにしたい。

前回はカップルの年齢差の縮小を背景に、両親ともの年齢と出生率には高い関係性が生じ、現在の日本では、母親のみならず父親も若いほど、出生率が上昇する社会となっていることがデータから読み取れた。つまり、少子化対策の視点から見るならば、若いカップルが希望する結婚・妊娠を応援する社会への改革が急務であることが示された。

今回は国の大規模データをもとに、子どもの数とその親の勤務先をみることで、少子化対策に資する知見を得ることが出来るか考えてみたい。

親の勤務先は子どもの数にどう影響しているのか。

まずは、最新の2014年厚生労働省「人口動態統計」調査結果を用いて、第一子から第五子以降出産の際の「世帯主の就業先状況」を俯瞰する。
【図表1】生まれた子どもの総数と親の就業状況 【大きな企業に勤務する親の家庭ほど多子家庭に・・・・なってはいかない社会

図表1は調査年に生まれた子どもの総数に占める、親の就業状況の割合をグラフにしたものである。従業員100人以上の中・大企業1に勤務している親の子どもが約4割、100人未満の小企業に勤務している親の子どもが約3割、自営業の親をもつ子どもが約1割となっている。
【図表2】第一子・第二子の親の就業状況(上:第一子、下:第二子) 次に図表2を見てみよう。総数の中で、「第一子」「第二子」として生まれた子どもの出産の際の親の就業先状況をみたものである。あまり総数と変化がない親の就業先割合となっている。

しかしこの割合に、第三子以降で大きな変化が現れる。

図表3は、第三子・第四子・第五子以降の出産時点における、親の就業先状況をグラフ化したものである。

第三子では、親が小企業・自営業に従事する割合が微増し、一方、中・大企業の割合が減少する。この傾向が、第四子・第五子以降ともなると加速化し、第四子・第五子以降の子どもをもうけている家庭では、その親が小企業に従事している割合が約4割と、トップに躍り出る。

中・大企業で就業している親は第一子では約4割を占めているが、5子以上もうけている多子世帯においては、約2割と、実にその割合を半減させている。

図表2と図表3からは、子どもの数に影響されることなく小企業と農家の親の割合は一定規模を維持しているが、中・大企業の親の割合は子どもの数が増えるにつれて大きく減少していくことがわかる。

また、自営業に関しては第一子では6.9%であった親の割合が第五子以降では14.6%とその割合を倍増させている。
「子どもを持つインセンティブ(誘因・動機となるもの)」という視点で見るならば、データからは多子家庭への誘因が中・大企業に親が勤務する世帯においては、小企業・自営業のそれよりも低くなっている、と思われる。

一般的には、親が中・大企業に勤務している家庭の方が「経済的には安定した家庭」というイメージがあり、より多子家庭の形成に積極的になるのではないかと思われがちであるが、現実のデータはそうはならなかった。

むしろ、中・大企業に親が就業する世帯は、その他の勤務者世帯よりも多子家庭の形成に消極的な傾向にあるという結果が現れたのである。
【図表3】第三子・第四子・第五子以降の親の就業状況(上左:第三子、上右:第四子、下:第五子以降)
なぜ、経済的に安定しているとみられる家庭のほうが子どもを沢山持つインセンティブが低くなるのか。一つ、興味深いデータを紹介したい。
 
1 図表1-3においては、わかりやすく説明するために以下の用語変換を行っている。
 
 「小企業」:人口動態統計上の区分名 常用勤労者世帯(I)
 最多所得者が企業・個人商店等(官公庁は除く)の常用勤労者世帯で勤め先の従事者数が1人から99人までの世帯(日々または1年未満の契約の雇用者はその他の世帯)
 
 「中・大企業」:人口動態統計上の区分名 常用勤労者世帯(II)
 最多所得者が常用勤労者世帯(I)にあてはまらない常用勤労者世帯及び会社団体の役員の世帯(日々または1年未満の契約の雇用者はその他の世帯)
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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