コラム
2016年05月09日

「父親・母親の年齢」と出生率 - 脱少子化へ・都道府県別データが示す両者の関係性 -

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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はじめに

2015年10月に発足した現内閣によって発表された「一億総活躍社会」宣言。急速に進行する少子高齢化に歯止めをかけ、50年後も人口1億人を維持することを目標としている。

具体的には、同時に発表したアベノミクスの新しい「3本の矢」である、経済成長、子育て支援、安定した社会保障の実現を目指している。この中の「子育て支援」では、2014年現在1.42である合計特殊出生率(以下、出生率)を1.8まで回復することを目標としている。

昨年発表した「第一子出産年齢上昇はそんなに問題なのか? - データでみる少子化との関係性 -」において、筆者はOECD諸国の各国の出生率と「母親の第一子出産年齢」との間には強い関係性があるというデータ分析の結果を示した。それでは、日本国内だけでは一体どうなのか。

今回は、最新の2014年厚生労働省「人口動態統計」の都道府県別調査結果を用いて、日本における母親のみならず、父親の出産時年齢と出生率の関係性について考察する。

日本における第一子出産時の父親の年齢と出生率

図表1は、各都道府県における夫婦の最初の子どもが産まれたときの父親の平均年齢とその都道府県の出生率の相関関係を分析した結果の相関図である。

右下がりの非常に綺麗な強い「負の相関」関係が示されている。2つのデータの相関係数は実に-0.74であり、この-0.74という数値は、2つのデータが「強い負の相関をもっている」(強くマイナスに影響しあっている)ことを示している。

つまり分析結果からは、日本における第一子出産時の「父親の年齢」と「出生率」は強いマイナスの関係をもっていることがわかり、それは「日本においては、お父さんの年齢が上がると出生率が下がる可能性が非常に高くなる」ということを示している。
【図表1】都道府県別第一子出産時の父親の年齢と出生率の相関図

日本における第一子出産時の母親の年齢と出生率

次に各都道府県における第一子出産時の母親の年齢とその都道府県の出生率の相関分析を行った結果が図表2である。父親と同じく非常に綺麗な負の強い相関関係が見て取れる。相関係数はこちらも高く-0.71であった。つまり、こちらも「日本においては、お母さんの年齢が上がるほど出生率が下がる可能性が非常に高くなる」という結果である。
【図表2】都道府県別第一子出産時の母親の年齢と出生率の相関図

若いカップルを増やす取り組みへの示唆

図表1と図表2は、日本においては「お父さんもお母さんも若い方が、出生率が高くなる」可能性がとても高いことを示している。

ちなみに年々、歳の差カップルが減少し、夫婦の年齢差が縮小し続けている(図表3)。2014年の調査では、初婚夫婦の年齢差の平均は1.7歳であった。

別の民間調査でも、男女とも4歳くらいまでの歳の近いパートナーを希望する傾向が強まっており、この流れが変わらないという前提をおく限りにおいては、「日本に若いカップルを増やす」ことが出生率上昇への強いアクセルになる、という示唆を都道府県別データは明らかにしていることになる。
【図表3】初婚夫婦の年齢差(夫-妻・歳)
出生率の変動には様々な変数(要因)が関与してはいる。しかし、出産時の父親・母親の年齢と出生率との強い相関関係から、他の要因をうごかすことで結果的に出生時の父母の年齢を下げることができるならば、効果的な出生率の上昇が望めることはデータから明らかである。

例えば、結婚にはお金が不足している、「まだ結婚には早い」という前提から来る企業の人材育成・労務管理コースがある、保育場所がない、未婚者が増えている、など、いろいろな出生率低下の要因は考えられるが、どれにてこ入れをかけるとしても、結果として父親・母親の年齢が若くなる方向につなげると、出生率上昇への効果は大きくなるということがわかる。
 

何よりも、若いカップル候補生をとりまく社会全体が「まだまだ結婚には早い年齢だ」などという全くデータに基づかない「結婚には時期尚早という思い込み」をまずは捨てることが大切であろう。なぜなら、社会全体を覆う思い込みの修正こそ、あらゆる社会システムを変える原動力となるだろうからである。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

(2016年05月09日「研究員の眼」)

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