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訪日外国人旅行客数は増加するのか~「2020年に4,000万人」達成に高い壁、新たなインバウンド拡大策が必要

岡 圭佑
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政府は、2020年に訪日旅客数を4,000万人とすることを決定したが、中国をはじめとする新興国経済の減速や急激な円高の進展もあり訪日旅客数の増加ペースが鈍化するとの見方が強まっている。そこで訪日旅客数を被説明変数とし、実質GDPや対円為替レート、震災の影響などを説明変数とするモデルを用いて2020年の訪日旅客数を推計した。その結果、大幅な円安や成長率の上振れが実現したとしても、政府目標である「2020年に4,000万人」の実現は困難が予想される。政府目標を達成するためには円安に頼るだけでなく、従来の施策(訪日ビザ緩和、免税制度の拡充等)に加え、新たなインバウンド拡大策が必要となろう。
■目次
1――好調な訪日外国人旅行客数
2――中華圏では為替レートが訪日旅行の重要な決定要因
3――「2020年に4,000万人」達成の壁は高い、新たなインバウンド拡大策が必要
1――好調な訪日外国人旅行客数

2015年の訪日旅客数を国別にみると、中国が前年比107%と倍増し、長年にわたって最大シェアを占めていた韓国を抜き最多となった。アジア諸国からの訪日旅客数は中国、香港、台湾、韓国の4カ国で全体の70%を占めている。近年、アジア諸国を中心に訪日旅客数が増加している背景には、前述のとおり、ビザの発給要件緩和などが挙げられるが、大幅な円安の進展が大きく影響している可能性が高い(図表2)。
2012年以降、順調に増えてきた訪日旅客だが、2016年初から中国をはじめとする新興国経済の先行きが懸念されるなか、急激な円高の進展もあり増加ペースが鈍化するとの見方が強まり、これまで訪日旅客による消費活動の恩恵を享受してきた小売、旅行業界などへの影響が懸念されるなどインバウンドの持続性に不透明感が漂っている。本稿では、こうした金融・経済環境の変調が先行きの訪日旅客数にどのような影響を及ぼすのか、について明らかにした上で先行きを展望したい。
2――中華圏では為替レートが訪日旅行の重要な決定要因

【被説明変数】 ARR:訪日旅客数
【説明変数】 GDP:対象国の実質GDP
EXR(-1):1四半期前の対象国通貨の対円為替レート
ERP:相対価格(日本の消費者物価指数÷対象国の消費者物価指数)
DME:東日本大震災のダミー変数(2011年4-6月期=1、それ以外=0)
C:定数
【対象国】 中国、香港、台湾、韓国、米国、ドイツ、フランス、英国
【推計期間】 2003年1-3月期~2016年1-3月期
上記の推計式では実質GDPが上昇すると、国民の可処分所得が増加するため、訪日旅行がしやすくなる。このため、実質GDPの符号条件は正であると考えられる。また、対円為替レートについても、円安は訪日旅行需要を増加させるため、符号条件は正となる。一方、相対価格は日本の消費者物価指数を対象国の消費者物価指数で除したものである。相対価格の上昇は日本への旅行費用の増加をもたらし、結果として訪日旅行需要の減少につながるため、符号条件は負であると考えられる。このほか、訪日旅客数が減少する要因として、東日本大震災のダミー変数も考慮した。

この結果、いずれの国でも実質GDPが上昇すると、訪日旅客数が増加することが明らかとなった(図表3)。なかでも韓国や米国、台湾では実質GDPの弾性値が他国に比べ大きく、自国の経済状況が訪日旅客数の重要な決定要因となっていることが分かる。一方、中国では弾性値が0.86と他のアジア諸国と異なり、自国の経済状況が訪日旅客数に必ずしも大きな影響を与えていないことを示す結果となった。
対円為替レートについても全ての国で有意な結果が得られ、とりわけ中華圏では弾性値の大きさが目立つ。すなわち、円安によって日本での購買力が高まると、中華圏からの訪日旅客数が増加しやすくなることを意味する。

このように、訪日旅客数の決定要因は国によって異なることが明らかとなった。訪日旅客数は殆どの国において実質GDP、為替レートに対して弾性的であり、アジア諸国からの訪日旅客数は著しい経済成長や円安の進行によって大きく増加してきた。また、訪日ビザの発給要件緩和や免税制度拡充など政策面からの押し上げ効果も大きかったものと考えられる。
(2016年06月16日「基礎研レター」)
岡 圭佑
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