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韓国における老人長期療養保険制度の現状や今後の課題―日本へのインプリケーションは?―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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- 韓国政府は2001年8月に介護保険制度の導入を表明し、2008年7月から「老人長期療養保険制度」という名前で介護保険制度を施行している。
- 韓国政府が老人長期療養保険制度を導入したのは、急速な人口高齢化と公的医療保険の長期的な財政赤字に対処するためである。
- 韓国政府が日本の介護保険制度を参照しながら、老人長期療養保険制度を設計する際に、最も慎重に検討したのは、「財政安定」と「人材確保」のことだろう。
- 韓国政府は日本でも議論はあったものの、実施までには至らなかった「全公的医療保険加入者の被保険者化」や「家族介護に対する現金給付の支給」を実施するとともに、「サービス利用時の自己負担割合」を日本より高く設定することにより、財政の安定と人材の供給不足を解決しようとした。
- 高齢化が進み、介護保険制度に対する国の財政負担が増加している日本においてもドイツや韓国が導入している現金給付を導入することは労働力の確保や財政の支出抑制という面からある程度効果があるかも知れない。
- また、被保険者層の範囲の拡大やサービス利用時の自己負担割合の調整、そして介護等級の見直しなども慎重に検討すべきである。
■目次
1――はじめに
2――老人長期療養保険制度の導入背景
3――老人長期療養保険制度の概要
1|老人長期療養保険制度の施行までの流れ
2|老人長期療養保険制度の概要
3|老人長期療養保険制度の管理・運営体系及び在宅・施設サービスの概要
4|老人長期療養保険制度を担当する人材の現状や今後の課題
4――日本へのインプリケーション
5――おわりに
1――はじめに
2――老人長期療養保険制度の導入背景
2000年以降韓国の高齢化率は段々上昇し、2014年には12.7%まで上昇している。韓国の高齢化率は日本の26.0%に比べるとまだ低い水準であるものの、少子高齢化のスピードが日本より早く、2060年には39.9%に達すると推計されている1。偶然ではあるが、2060年における日韓の高齢化率は39.9%で同一であり、それは韓国の高齢化が日本を上回るスピードで進行する結果である2。
図表2は、高齢者一人を支える現役世代の数(15~64歳人口/65歳以上人口)の推移と将来推計を日韓でみたものであり、この数値が小さくなることは現役世代の負担が増加することを意味する。例えば、日本の場合1960年には現役世代11.2人が高齢者一人を支えていたが、2014年にはその数が2.4人に減り、さらに2060年には1.3人まで減ると予想されている。韓国の場合は日本より現役世代の減少幅が大きく、高齢者一人を支える現役世代の数は1960年の20.5人から、2014年には5.8人まで急速に低下しており、さらに2060年には1.2人になり、日本を下回ることが見通されている。
また、核家族化の進行や女性の社会進出の増加も韓国政府が老人長期療養保険制度の導入を急いだ一つの理由であるだろう。韓国における平均世帯人員は1980年の4.62人から2010年には2.69人まで減少しており、日本(2.59人、2010年)と同様に核家族化が進んでいる。さらに、女性の社会進出がますます進んでおり(特に若い女性を中心に)3、介護の社会化が求められることになった。
このような高齢者の増加や現役世代の減少、核家族化の進行による平均世帯人員の減少、女性の社会進出の拡大、高齢者医療費の増加による公的医療保険の財政の悪化などが韓国政府が老人長期療養保険制度を導入した主な理由であると言えるだろう。
1 現在、韓国の高齢化率が日本より低い理由としては、ベビーブーム世代が生まれた時期が日本より遅く、ベビーブーム世代の期間が日本より長かったこと(日本は1947~1949年、韓国は1955~1963年)や、2000年までは日本より高い出生率を維持していたこと、韓国の平均寿命が日本より低い(日本(2013年)→男性80.21歳、女性86.61歳、韓国(2012年)→男性77.9歳、女性84.6歳)こと等が考えられる。
2 金明中(2015)「日韓比較(3):高齢化率 ―2060年における日韓の高齢化率は両国共に39.9%―」研究員の眼、2015年07月08日。
3 2000年に48.8%であった女性の労働力率は2015年には51.8%に微増したものの、韓国政府が積極的雇用改善措置を実施する等女性活躍のための政策に力を入れているので、今後韓国社会における女性の社会進出はさらに進むことが予想されている。
(2016年06月15日「基礎研レポート」)

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
金 明中のレポート
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