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“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(1)~健診受診年のリスク
保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
メタボ判定を行う目的は、生活習慣病の重症化防止と医療費の抑制だ。そこで以下では、メタボ判定の結果別に、健診受診年の生活習慣病による入院の有無(入院発生率)と医療費を確認する。
まず、健診を受けた年の生活習慣病による入院発生率9をみた。対象とする生活習慣病は、「2型糖尿病10」、「代謝障害11」、「高血圧症12」、「虚血性心疾患13」、「脳血管疾患14」とした。入院に注目したのは、生活習慣病が重症化したケースと考えられるからだ。
分析対象者全体の生活習慣病による入院発生率は、0.50%だった(図表5)。メタボ判定の結果別にみると、最も高いのが「服薬中」で2.63%だった。以降入院発生率が高い順にみると、「メタボ」が1.06%、「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」が0.70%、「メタボ予備群」が0.55%で、標準的なメタボ判定ではメタボに該当しないとされている「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」が「メタボ予備群」を上回っていた。
「メタボ」と「メタボ予備群」、「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」と「腹囲基準内メタボ予備群」、「腹囲なしメタボ」と「腹囲なしメタボ予備群」を比べると、それぞれ「予備群」ではない方が高く、血液や血圧で複数の基準外があるほど入院発生率が高かった。
また、血液や血圧の基準外の状態が同じであれば、腹囲が基準外だと入院発生率が高くなっていた。
入院発生率が特に低かったのは、判定項目すべてが基準内だった「メタボなし」と、血液や血圧が基準内だった「腹囲だけ」だった。腹囲が基準外であっても、血液や血圧の測定値がいずれもが基準内であれば、生活習慣病の入院発生率は「メタボなし」と大きな差はなかった15。
9 一度でも、該当する生活習慣病で入院をした人の割合。
10 ICD10(国際疾病分類第10 版)で「E11」とした。疑い病名を除く。
11 ICD10(国際疾病分類第10 版)で「E70-E90」とした。疑い病名を除く。
12 ICD10(国際疾病分類第10 版)で「I10-I15」とした。疑い病名を除く。
13 ICD10(国際疾病分類第10 版)で「I20-I25」とした。疑い病名を除く。
14 ICD10(国際疾病分類第10 版)で「I60-I69」とした。疑い病名を除く。
15 「判定不能(未受診項目あり)」も入院発生率は低かった。「判定不能(未受診項目あり)」には、メタボ判定に必要な項目をすべては測定していないものの、測定した項目については基準内だったサンプルが分類されていることによると考えられる。
続いて、1年間の医療費16の平均をみた。
分析対象者全体の医療費の平均は、7.7万円だった(図表6)。メタボ判定の結果別にみると、最も高いのが「服薬中」で、24.3万円だった。以降医療費が高い順にみると、「メタボ」が9.3万円、「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」が8.8万円、「メタボ予備群」が7.9万円であり、「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」は、「メタボ予備群」より高かった。
また、「メタボ」と「メタボ予備群」、「かくれメタボ」と「かくれメタボ予備群」を比べると、それぞれ「予備群」ではない方で医療費が高かった。これらの点では、医療費は入院発生率と同じ傾向があったと言える。
しかし、入院発生率とは異なる傾向もあった。「腹囲なしメタボ」と「腹囲なしメタボ予備群」を比べると、わずかに「予備群」の方が高く、血液や血圧で基準外が複数あっても医療費が高いわけではなかった。さらに、これら2つの判定は、血液や血圧で基準外があったにもかかわらず、判定項目すべてが基準内だった「メタボなし」や血液や血圧が基準内だった「腹囲なし」より低額だった。
この理由を検討するにあたっては、レセプトデータによる医療費分析の特徴を考慮する必要がある。レセプトでは、同じ医療機関で受けた1か月の診療行為がすべて同一のレセプトに記載される。したがって、レセプトデータによる医療費の分析では、どの疾病に対していくら医療費がかかったかを厳密に分解するのが難しい17。また、生活習慣病の中には様々な合併症を引き起こすことがあるため、今回の分析で医療費を疾病別に厳密に分解する意義はあまりない。そのため、本稿では、医療費として入院費、通院費、調剤費の合計を示した(いずれも歯科診療を除く)。今回示した医療費には、生活習慣病との関係が少ない原因によるものも含むため、年齢による影響も大きく、若年に多い「腹囲なしメタボ」「腹囲なしメタボ予備群」は、基準外の項目があったにもかかわらず医療費が低額だったと考えられる。
16 医療費は保険者負担分も含めた金額(10割分)で表記している。
17 通院、入院、DPCは同じ医療機関でもそれぞれレセプトが発行されるため、区別ができる。
4――“かくれメタボ”や40歳未満の生活習慣病への対策強化とリスクの周知が必要
今回のデータで生活習慣病による入院発生率と医療費を総合的に見ると、「服薬中」と「メタボ」で、生活習慣病による入院発生率と医療費のいずれもが高かった。続いて、「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」の入院発生率と医療費が高かった。「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」は、標準的なメタボ判定では、メタボに該当しないとして保健指導の対象外であることが多いが、「メタボ予備群」より高かった点が特徴だ。
また、血液や血圧の状態が同じであれば、腹囲が基準外だと高くなる傾向があった。入院発生率の高さに伴い、医療費も、血液や血圧の測定値で複数の基準外がある場合や腹囲が基準外である場合に高かった。「腹囲なしメタボ」は、基準外の項目が複数あっても医療費は低額だった。「腹囲なしメタボ」は若年に多いことと、今回示した医療費は、生活習慣病に関係が少ない原因によるものも含むことから、医療費は年齢による影響を受けて低額だったと考えられる。
「メタボ」に対する生活習慣病の重症化予防の重要性は、これまでも度々言われてきている。しかし、これまでの標準的なメタボ対策は、肥満を前提にしており、腹囲が基準内であれば保健指導の対象とならなかった。また、40歳未満は相対的に生活習慣病リスクが低いとして、メタボ判定が義務化されていない。
今回の分析でも、最も生活習慣病リスクが高かったのは、肥満で、かつ血液や血圧の測定値で複数項目の基準外がある「メタボ」であり、「メタボ」は40歳以上に多かった。しかし、「腹囲なしメタボ」や「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」のように、40歳以上の肥満者のみを対象としたメタボ判定や保健指導では、生活習慣病重症化のリスクを見逃す可能性があることもわかった。健診受診者本人も、まだ若年であることや、腹囲が基準内であることによって、リスクを十分に認識していない可能性がある。生活習慣病の重症化を予防するには、健診受診者に対して、腹囲が基準内でも血液や血圧の検査結果に応じて、生活を改善するための注意を促すことが重要だろう。「特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会」による「非肥満保健指導」が有効に浸透することに期待したい。
なお、次稿「“かくれメタボ”の生活習慣病リスク(2)」では、健診受診年の生活習慣病リスクが高かった「メタボ」や「腹囲基準内メタボ(かくれメタボ)」のほか、健診受診年の生活習慣病リスクが相対的に低かった「腹囲だけ」や「腹囲なし」について、5年後のメタボ判定結果と、5年後の生活習慣病リスクについて報告したい。
(参考)
03-3512-1783
- 【職歴】
2003年 ニッセイ基礎研究所入社
(2016年05月17日「基礎研レポート」)
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