2016年02月08日

フランスにおける少子化社会脱却への道程の段階的考察-出生率2.0を早期達成したフランスの少子化対策を日本に活かすことは出来るのか-

生活研究部 准主任研究員   天野 馨南子

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(2)男性は意外と育児参加していないフランス、でも女性も同じ

フランスはラテン系の民族が主体となった国である。ヨーロッパで同じくラテン系というとスペイン(2013年1.32)、イタリア(2013年1.39)、ポルトガル(2013年1.28)、といまだ日本以下の超出生の国が並ぶ。こうしたラテン系の国の特徴にあげられるのが「伝統的家族観」であり、育児・介護は女性の仕事と考える価値観が一般的な国々である。
 
女性活躍と脱少子化対策で先進国とされるスウェーデンなど北欧諸国と異なり、フランスはどちらかといえば日本に近い伝統的価値観が残っている国である。内閣府によれば、6歳未満の子どもをもつ夫の1日当たり育児時間は日本39分、フランス40分である。男性の育児参加、という意味では日本と大して変わらないのである。しかし育児ではない家事参加となると、日本は1時間7分、フランスは2時間30分と日本の男性の倍以上、家事参加していることになる。それでもフランス男性の家事参加時間は北欧、イギリスなど他の脱少子化先進国より短い9
では、やはり男性の育児参加は少子化対策にならないのか、というと、フランスは女性も育児時間が短いことで知られている。日本の女性が3時間2分に対し、フランスの女性は1時間57分で、これも脱少子化先進国スウェーデン・ノルウェー・イギリスよりも短い。
育児時間で見ると日本は妻が夫の4.7倍、フランスは2.9倍の時間となり、男女間の負担感の際が両国では大きく異なることがわかる。
 
フランスの女性は夫が日本の夫と同じくらいしか育児をしていないのに、なぜ日本の妻よりも負担が少ないのか。これは大戦前のフランスの乳母文化を背景とする、「母親=育児に専念する」とは必ずしも考えない文化によるところが大きい。これは脱少子化を果たした北欧諸国の価値観と合致している。
そのため、フェーズ2で早々に「在宅育児手当:AGED)」が創設されるなど、自宅に保育人を雇うための補助政策がフランスでは当然のように少子化対策の必須政策として打ち出されてきた。
フランスには施設に預けない保育を可能とするための家庭的保育人材が多様に存在し、この文化が女性活躍推進と少子化対策を両立させる保育需要の調整弁となっている。
 
フランスでは現在においても、実に63%が在宅保育(2014木村)である。
この在宅保育システムの充実は、大型の保育施設を設置するよりも財政的・時間的な負担が少ないことを指摘しておきたい。
日本では児童福祉法の改正により2008年にガイドラインがようやく制定され、2010年からようやく家庭的保育事業が国の制度として本格的にスタートした。日本でも最近になってようやく在宅保育が事業として法制化された。しかしながら、日本においては保育というとどうしても施設型が重視され、両親以外の手による家庭的保育になれない社会ではあるものの、待機児童問題がいまだ施設拡大が待機児童増加をもたらすいたちごっことなっている現状の中、在宅保育の強化についてより一層の普及に向けた検討が望まれる。


2「生物時計」に関する社会の啓蒙が出生率急上昇に寄与したフランス
 
女性活躍に関する社会整備が進む中、フランスは1993年に出生率の底1.66を経験した後、わずか7年後の2000年には出生率を1.8超まで回復した。フランスの出生率はなぜ上昇に転じたのか。
シモーヌ・ベイユ法によって総合的な家族政策が打ち出されたというものの、金銭的な部分では家族給付が18歳から20歳になる、第2子まで育児親手当給付が拡大したという今までの制度の枠組みの拡大であった。ゆえに社会保障的なこの時期の政策を睨んでいても、いまひとつ出生率の急上昇の原因究明にはつながりにくい。
 
この出生率が急速に回復していった丁度1990年代に、政府によって官民一体となってキャンペーンが開始された妊産適齢期を社会全体に周知させる「生物時計」理念の普及運動。これは先述の通り、戦後長く過酷な性差別のあったフランスにこそおこったフェミニズム活動が背景となっている。フェミニズム運動のキャッチフレーズが「私たちは産みたい時に産むのだ」となっていた、そのような社会であったからこそ、政府は出産年齢上昇による生物学的な出生率の低下を危惧し、フランスならではの政策を打ち出したのであった。
フランス政府の高官が「20年前から力を入れてきた」とする政策が、政府の狙い通りの効果をみせたことは図表8の通りである。
 
9 NPO法人ファザーリング・ジャパンHP公表値。

3――「女性活躍推進→少子化→人口減少」 のサイクルを終わらせるために

3――「女性活躍推進→少子化→人口減少」 のサイクルを終わらせるために

フランスの政策を日本にそのまま持ち込むことは「結婚文化が違う」「社会保障支出の割合が違う」「一体的な家族政策が重要」などと片付けられてしまうことも少なくない。しかしながら、このようなドラスティックな社会改革論に注目するその前に、もっと注目すべき根幹的な政策があることを段階的な考察は示している。
 
<ステップ1:二者択一社会からの脱却>
まずはフランスが最初に達成した、女性が子育てのために労働市場から退出してしまう「出産か就業継続かの二者択一を迫る労働環境」(M字カーブ)の改革。
妊娠・出産をしつつ女性が就業継続可能な勤務時間体制を提供することが、女性活躍推進と脱少子化を同時に推進するためには必須となる。また、出産育児による家庭生活レベルの低下を阻止するためには、子どもをもつ家庭への社会保障の強化(大きな政府化)、または子どもを持つ家庭の経済力の向上、が必要となる。
ここで、「男女問わず活躍可能な身体的ダイバーシティ型の労働市場」のフランスの場合は、出産か就業継続かの二者択一社会を脱却しているため、社会保障をうけつつも女性が働くことが想定される。しかし「参加者を選ぶ身体的非ダイバーシティ型の労働市場」の日本の場合は、女性活躍するには長時間労働の壁が存在することと、それによって出産と就業継続の二者択一社会が残っていることから、闇雲に子育ての社会保障を増やすことは女性活躍推進にマイナスの効果を及ぼす可能性も考えなければならない。
そう考えると金銭的な政策よりも、まずは長時間労働を見直し、女性が就業継続と出産を同時に選択する可能性を拡大すること、すなわち女性活躍推進法に基づく事業計画の妊産期世代の女性をターゲットとした策定が先決ではないだろうか。
 
<ステップ:2 生物時計の啓蒙・周知>
次に「生物時計」の啓蒙である。筆者がこれまで発表したレポート等に対し、女性のみならず、妻をもつ男性から多数の声が寄せられた。「妻に申し訳ないことをした。あの時、妊娠したいという妻に、もう少し仕事を頑張って職場の地位を固めてからにしたらよいのでは、といった自分は大変愚かでした。もっと早く出産適齢期のことを知っていたなら。」女性だけでなく、夫となる男性、そしてその女性を雇用する経営者、すべての人々が知っておかなければならない少子化社会の常識を日本は置き去りにしがちである感が拭えない10
 
少子化対策を国際比較して語るとき、日本からすれば斬新な家族のカタチなどに目を向けて、「あの国は日本とは全く別の文化だから、出生率が高いのだ。」という意見が語られやすい。しかし、文化に関わらず着手可能な、有効な回答があることを、フランス少子化脱却の道程を段階的にみてゆくことで、気がつくことができるのではないだろうか。
 
10 最後に、施設型から在宅型への保育への発想の転換が挙げられるだろう。日本でもようやく家庭保育事業が2010年に制度化されてスタートしたばかりであり、いまだ日本では保育というと、施設で、という固定観念が強い。これは、家庭における保育の責任は親(母)である、という伝統的家族観に支配されているから、ともいえる。
保育問題については、長時間労働問題が軽減されれば、残業等で生じる夜間保育ニーズは軽減される。 夜間保育または長時間保育対応できない園があることで生じる待機児童・預け先確保問題はある程度緩和される。
【参考文献一覧】
 
星 三和子.“フランスの子育て支援の発展と現状-日本の子育て支援を考える上での考察―”.名古屋芸術大学研究紀要.2013,第34号,p279-294
 
参議院調査情報担当室.“フランスにおける子育て支援 ”.経済のプリズム.2014,第131号
 
江口隆裕.「子ども手当」と少子化対策.法律文化社,2011,p1-50
 
レジス・アルノー.“少子化対策のヒントは出産天国フランスにあり”.Newsweek,2012,8月15日&22日号
 
クレア・ランドバーグ.“フランスの働く母が幸せな理由”. Newsweek,2013,1月29日号
 
山崎加津子.“フランス、ドイツの少子化対策”.エコノミスト,2011,4月5日号
 
齋藤益子・松永佳子・大澤豊子・宮本郁子.“ドイツとフランスにおける母子の支援と家族政策―母子保健研修旅行での学び―”.保健師ジャーナル.2010,Vol66,No.5,p460-464
 
北村邦夫.“ユニークな少子化対策への提案―キーワードは男女間のコミニュケーションスキルの向上―”.公衆衛生,2009,73(8),p23-28
 
内閣府.平成26年版 子ども・若者白書.2014,p30-31
 
OECD.“格差縮小に向けて―なぜ格差縮小は皆の利益となり得るか。―”.日本カントリーノート.2015,5月21日号
 
江口隆裕.“フランスの少子化対策の意義―出産奨励策は有効か―”.2009,50(8),p2-8
 
ドラ・トーザン.“フランス人は「ママより女」”.小学館文庫,2015,261p
 
安部雅延.“少子化対策先進国フランスへの幻想と真実”.正論.2014,9月号,p298-304
 
木下裕美子.“フランスの子育て支援事情”.生活協同組合研究.2014,3月号,p28-35
 
水野圭子.“フランスにおける子育て支援”.労働法律旬報. 2012,No.1761,p32-38
 
内閣府.平成17年版国民生活白書.2005,p67-74
 
糖塚康江.“フランスにおける職業分野の男女平等政策―2008年7月憲法改正による「パリテ拡大」の意義―”. 企業と法創造.2011,7(5),p70-87
 
内閣府経済社会総合研究所.“フランスとドイツの家庭生活調査―フランスの出生率はなぜ高いのか―”.2005,p35-42
 
NHK取材班.産みたいのに産めない―卵子老化の衝撃―.文藝春秋,2013
 
栗林靖.“産婦人科医からの少子化に対する警告”. 公益社団法人日本産婦人科医会第79回記者懇談会,2014
 
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生活研究部   准主任研究員

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
少子化対策・女性活躍推進

(2016年02月08日「基礎研レポート」)

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