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タイガーマスクもびっくり!―日本の一人当たり平均寄付額は5,431円、アメリカの11分の1―

生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任 金 明中
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2010年12月に全国を騒がせた「タイガーマスク現象」1が起きてからもう3年半が過ぎた。当時の「タイガーマスク現象」は、西洋諸国に比べて寄付文化があまり定着していないと言われている日本においては新鮮な出来事であった。さらに、2011年には震災関係の個人寄付金額が5,000億円に達する等、寄付に関する人々の関心は最近高まっているところである。
では、日本の寄付水準は他の国と比べてどのぐらいの水準だろうか。まず寄付大国と言われているアメリカと比較をしてみよう。日本の寄付金額は2009年の約1.1兆円(個人5,455億円、法人5,467億円)から2012年には約1.4兆円(個人6,931億円(2012年)、法人7,168億円(2011年2))まで増加し、対名目GDP比も0.23%から0.30%に上昇している3。
一方、アメリカにおける2012年の寄付総額(個人・法人を含む)は、3,162 億ドル4(約27.2兆円5)で、日本のおよそ19.4倍に達している。また、対名目GDP比も2%で日本とは大きな差を見せている。アメリカにおける寄付の特徴は、寄付総額に占める個人寄付の割合が高いことである。例えば、2012年の寄付総額のうち、個人寄付(Individuals)が占める割合は72%で、法人(Corporations)が占める割合は6%に過ぎず、法人が半分以上を占めている日本とは寄付の仕組みが異なることが分かる6。個人の寄付総額をベースに一人当たりの平均寄付額を計算してみると、日本が約5,431円であることに比べて、アメリカは約62,237円で日本の 11倍を超えている7。
また、イギリスに本部がある国際救護団体Charities Aid Foundation(CAF)は、2012年に世界146カ国の15.5万人を対象に寄付やボランティアに関する調査を行っているが、その結果から、個人の寄付活動が最も活発な国はオーストラリアであることが分かった。その次はアイルランド、カナダ、ニュージーランド、アメリカの順であり、日本は前年の105位から多少順位を上げてはいるものの、まだ85位にとどまっている8。
最近の日本社会は、労働力の非正規化の進展等が原因で、貧困率が上昇し、人々の間に格差が広がっている。しかしながら、現在実施している安倍政権の経済政策は、成長政策や安定化政策で精一杯で、再分配政策に手を伸ばす余裕がなく、「公助」より「共助」や「自助」に頼っているように見える。だから、寄付活動等による「共助」の役割がさらに重要になってくる。
2013年におけるアメリカの寄付金ランキングを見ると、Facebookの設立者マーク・ザッカーバーグ夫妻は9億9220万ドルで1位を、ナイキの共同創業者フィル・ナイト夫妻が5億ドルで2位を占めており、寄付金額において日本とは桁違いを見せている。幸いに最近の日本は円安の効果などにより輸出企業を中心に企業業績が改善している企業が多く、寄付を含めた「公助」に対する意識が変えられる絶好のチャンスではないかと思う。
また、寄付活動は金銭的な寄付活動以外にもボランティア活動に参加することによっても達成できる。特に最近は個人が持っている知識・スキルや経験を経済的に恵まれていない子どもや人々に提供する才能寄付(プロボノ、Pro bono)が世界的に広がっている。
従って、政府は、企業や個人がより積極的に寄付活動に参加できるように、控除できる寄付金の指定先を拡大したり、個人の才能が寄付できるネットワークを作る等、より寄付しやすい環境を構築する必要がある。また、生活費が心配で、生きている間に寄付が出来ない人でも、寄付が出来るように遺産寄付に対する意識の普及や寄付年金9の導入等寄付文化の多様化のためにも力を入れるべきである。
今後日本でも寄付文化に対する意識が改善され、マーク・ザッカーバーグ夫妻やフィル・ナイト夫妻のような個人寄付者が現れることを願うところである。
アメリカ人が多額の寄付をしている理由としては、(1)控除できる寄附金の指定先が日本より多いこと、(2)アメリカ建国の精神的な思想を提供しているピュ―リタン(清教徒)、つまりキリスト教の教えに基づいて、寄付やボランティア活動が行われていることなどが挙げられる。
(2014年05月23日「研究員の眼」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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