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- 日本における寄付年金の導入を考えよう! ― アメリカの事例を参考に ―
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昨今日本では「新しい公共」という言葉をよく耳にする。「新しい公共」とは、これまで行政により担われてきた「公共」を、これからは市民・事業者・行政の協働によって実現しようという考え方である。実際に、従来政府の役割と考えられてきた業務を、政府に代行して推進していくNPOなどの社会団体が次々と活動を始めている。このようなNPOなどの活動は、大体が市民や企業などの寄付金によって財源がまかなわれている。従って、今後新しい公共の推進や民間の福祉財源の確保のためには、寄付文化の活性化が重要である。そこで、アメリカで実施されている寄付年金制度について紹介したい。
元々アメリカは寄付文化が成熟した国としてよく知られている。2011年のGiving USA Report1によると、2010年におけるアメリカの寄付金総額は2,909億ドル(対GDP比2.0%)で、そのうち個人寄付金は2,117.7億ドルと全寄付金の72.8%を占めており、その次が財団(410.0ドル、14.1%)、遺贈(228.3ドル、7.8%)、企業(152.9ドル、5.3%)、の順であった。また、インディアナ大学の慈善センター2による調査結果によると、全世帯の約65%が寄付に参加しており、世帯の年間平均寄付額は、2,213ドルであった。
寄付年金の最初の事例は、1831年にアメリカの非営利団体である「American Bible Society」が、John Freyという人から1000ドルの寄付を受ける代わりに、彼の妹が死亡する時まで毎年70ドルの年金を支給すると約定したことである3。その後、1843年にAmerican Bible Societyは、正式に寄付年金制度を導入した。1927年には慈善団体の間の激しい競争を防ぎ、寄付年金に対する指針と方向を提供することを目的に、Committee on Gift Annuity(現在のAmerican Council on Gift Annuitiesの前身)、以下、寄付年金委員会(ACGA))が設立された。
アメリカの寄付文化の特徴は、計画寄付及び多様なプランで構成されていることである。アメリカの計画寄付プログラム(planned giving program)には、寄付年金を始めとして、慈善先行信託、合同所得基金、遺産寄付などがある。その中でも寄付年金は、寄付と年金給付を組み合わせた仕組みであり、現在最も広く活用されているプログラムである。
寄付年金は、寄付者が現金や資産を社会団体などに寄付すると、寄付した現金や資産の所有権は社会団体や財団に移転されるが、寄付された社会団体や財団から、寄付者あるいは寄付者が指定した受給者に対して、生存中は一定額の年金が支給される仕組みである。つまり、寄付年金は、潜在的寄付者が寄付をしたいという意思を有しているが、本人の生活維持のために固定的な年金収入も受け取りたいという希望を満たすことのできる寄付方法である4。
寄付年金は、年金の支給時期により、寄付約定を締結すると同時に年金が支給される「即時支給型」と、指定した年齢から支給される「据置支給型」に区分される。最小寄付額は10,000ドルを設定している団体が多く、支給される年金給付額は個人が寄付した寄付額の50%以内で設定するようになっている。寄付金に対する所得控除は、寄付年金の最大50%までが認められており、所得控除を受けるためには慈善団体に直接寄付することが条件になっている。
寄付年金委員会(ACGA)が寄付年金の実態を把握するために実施した調査結果5によると、寄付金は主に大学、病院、宗教団体、老人療養所、NPO、地域財団などに寄付され、1件当たりの平均寄付額は43,371ドルであった。寄付年金受給者の平均年齢は79歳であり、寄付年金受給者の81.6%は75歳以上であった。以前と比べてより若い段階で寄付年金を締結する人が増加したことにより、最初に寄付された金額のうち、年金支給された金額を除いて、最終的に寄付される金額の割合は、1994年の94.6%から2009年には81.6%まで減少している。
日本における2010年の寄付金総額は、1兆1831億円である。このうち個人が占める割合は41.2%(4,874億円)で、アメリカの72.9%、イギリスの74.8%、オーストラリアの72.1%と比べて、かなり低い水準であることが分かる6。
今後日本で「新しい公共」が定着していくためには、寄付文化がより活性化される必要があり、その一つの方法として考えられるのが本文で紹介した寄付年金の導入である。寄付年金の導入は、「新しい公共」の定着のみならず、寄付文化の定着、国の財政負担の減少、老後の新しい所得保障手段の提供という面でも効果を発揮すると考えられるので真剣に導入を検討してみる価値はあるだろう。
(2013年05月01日「研究員の眼」)
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生活研究部 上席研究員・ヘルスケアリサーチセンター・ジェロントロジー推進室兼任
金 明中 (きむ みょんじゅん)
研究・専門分野
高齢者雇用、不安定労働、働き方改革、貧困・格差、日韓社会政策比較、日韓経済比較、人的資源管理、基礎統計
03-3512-1825
- プロフィール
【職歴】
独立行政法人労働政策研究・研修機構アシスタント・フェロー、日本経済研究センター研究員を経て、2008年9月ニッセイ基礎研究所へ、2023年7月から現職
・2011年~ 日本女子大学非常勤講師
・2015年~ 日本女子大学現代女性キャリア研究所特任研究員
・2021年~ 横浜市立大学非常勤講師
・2021年~ 専修大学非常勤講師
・2021年~ 日本大学非常勤講師
・2022年~ 亜細亜大学都市創造学部特任准教授
・2022年~ 慶應義塾大学非常勤講師
・2024年~ 関東学院大学非常勤講師
・2019年 労働政策研究会議準備委員会準備委員
東アジア経済経営学会理事
・2021年 第36回韓日経済経営国際学術大会準備委員会準備委員
【加入団体等】
・日本経済学会
・日本労務学会
・社会政策学会
・日本労使関係研究協会
・東アジア経済経営学会
・現代韓国朝鮮学会
・韓国人事管理学会
・博士(慶應義塾大学、商学)
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