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- ECB政策理事会-「様子見する良い位置」で約1年ぶりの据え置き
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2025年07月25日
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1.結果の概要:ほぼ1年ぶりの政策金利据え置き
7月24日、欧州中央銀行(ECB:European Central Bank)は政策理事会を開催し、金融政策について決定した。概要は以下の通り。
【金融政策決定内容】
・政策金利の据え置きを決定
【記者会見での発言(趣旨)】
・今回の決定は全会一致だった
・市場が可能性のある金利経路の見通しを求めていることは分かるが、現在の状況下では事前の経路提示はできない
・我々は様子見をする良い位置にいる
2.金融政策の評価:「様子見をする良い位置」との評価を維持
ECBは今回の会合で、市場予想通りとなる政策金利の据え置き(預金ファシリティ金利は2.0%で維持)を決定した。据え置きの決定は24年7月以来であり、これまで24年9月以降は7回連続での利下げしていた。
声明文は簡素になり、インフレ率が目標通りに推移している一方で、非常に不確実な状況が継続していること、政策決定は引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチで実施することなどが示された。なお、金融政策決定に際して、これまで、①インフレ見通し、②基調的インフレ率の動向、③金融政策の伝達の強さ、を考慮するとされていたが、今年6月にかけて実施された戦略見直しにおいて従来以上にリスク評価にも力を入れると判断されたことを受けて、①インフレ見通しに関してはリスク評価も考慮することが明示された。
質疑応答では、市場で年後半にあと1回の利下げが織り込まれていることもあって、追加利下げの有無や時期に関する質問が多くみられたが、ラガルド総裁は不確実性が高い状況下であるとして先行きの政策については触れず、「様子見をする良い位置にある」との評価を維持した。
不確実性の主因は関税政策を巡る状況であるが、関税自体のインフレ率への影響は「インフレ圧力かディスインフレ圧力かという最終的なネットの結果は現時点では確定できない」とし、また関税交渉が早期に決着した場合でも、不確実性の解消が消費者や企業に歓迎されるだろうとする一方で、インフレ率や政策金利への影響については触れなかった。関税交渉に進展があっても、政策判断には実際の経済やインフレ率への影響の見極めが必要だと見られる。次回9月会合までには、複数の経済データが明らかになり、また関税交渉も何らかの進展があるだろうが、景気やインフレへの影響が明らかな内容でなければ、インフレへの影響を見極めるために、次回会合でも様子見姿勢が継続する可能性が高いと考えられる。
声明文は簡素になり、インフレ率が目標通りに推移している一方で、非常に不確実な状況が継続していること、政策決定は引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチで実施することなどが示された。なお、金融政策決定に際して、これまで、①インフレ見通し、②基調的インフレ率の動向、③金融政策の伝達の強さ、を考慮するとされていたが、今年6月にかけて実施された戦略見直しにおいて従来以上にリスク評価にも力を入れると判断されたことを受けて、①インフレ見通しに関してはリスク評価も考慮することが明示された。
質疑応答では、市場で年後半にあと1回の利下げが織り込まれていることもあって、追加利下げの有無や時期に関する質問が多くみられたが、ラガルド総裁は不確実性が高い状況下であるとして先行きの政策については触れず、「様子見をする良い位置にある」との評価を維持した。
不確実性の主因は関税政策を巡る状況であるが、関税自体のインフレ率への影響は「インフレ圧力かディスインフレ圧力かという最終的なネットの結果は現時点では確定できない」とし、また関税交渉が早期に決着した場合でも、不確実性の解消が消費者や企業に歓迎されるだろうとする一方で、インフレ率や政策金利への影響については触れなかった。関税交渉に進展があっても、政策判断には実際の経済やインフレ率への影響の見極めが必要だと見られる。次回9月会合までには、複数の経済データが明らかになり、また関税交渉も何らかの進展があるだろうが、景気やインフレへの影響が明らかな内容でなければ、インフレへの影響を見極めるために、次回会合でも様子見姿勢が継続する可能性が高いと考えられる。
3.声明の概要(金融政策の方針)
今回の政策理事会で発表された声明は以下の通り。
(政策金利、フォワードガイダンス)
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
(その他)
- 理事会は、本日、3つの主要政策金利を維持することを決定した
- インフレ率は現在、2%の中期目標にある
- 最新のデータは概ね理事会の以前のインフレ見通しに沿っている
- 域内物価圧力は緩和を続けており、賃金上昇率もより鈍化している
- 部分的には理事会の過去の利下げを反映して、経済は今までのところ世界的に困難な局面において強靭さを見せている
- 同時に、特に貿易の混乱のために非常に不確実な環境が続いている
- 理事会は、確実にインフレ率を中期的に2%目標で安定させるよう決意している
- 理事会は適切な金融政策姿勢を決定するために引き続きデータ依存で、会合毎のアプローチを行う(「特に異例の不確実性がある現状において」の文言を削除)
- 特に金利の決定は経済・金融データに照らしたインフレ見通しとそれを取り巻くリスク、基調的インフレ率の動向、金融政策の伝達の強さへの評価に基づいて行う
- 理事会は、特定の金利経路を事前に確約しない
(政策金利、フォワードガイダンス)
- 理事会は3つの主要政策金利を維持することを決定した(金利の据え置きを決定)
- 預金ファシリティ金利:2.00%
- 主要リファイナンスオペ(MRO)金利:2.15%
- 限界貸出ファシリティ金利:2.40%
(資産購入プログラム:APP、パンデミック緊急資産購入プログラム:PEPP)
- APPの元本償還分の再投資(変更なし)
- APPおよびPEPP残高は償還分を再投資しておらず、秩序だった予測可能なペース(measured and predictable pace)で削減している
(その他)
- 金融政策のスタンスとTPIについて(変更なし)
- インフレが2%の中期目標で安定し、金融政策の円滑な伝達機能が維持されるよう、すべての手段を調整する準備がある(「持続的に」の文言を削除)
- 加えて、伝達保護措置(TPI)は、ユーロ圏加盟国に対する金融政策伝達への深刻な脅威となる不当で(unwarranted)、無秩序な(disorderly)市場変動に対抗するために利用可能であり、理事会の物価安定責務の達成をより効果的にするだろう
4.記者会見の概要
政策理事会後の記者会見における主な内容は以下の通り。
(冒頭説明)
(経済活動)
(インフレ)
(リスク評価)
(冒頭説明)
- (声明文冒頭に記載の政策姿勢への言及)
- 経済とインフレ率の状況をどう見ているかの詳細と金融・通貨環境への評価について述べたい
(経済活動)
- 1-3月期の経済は予想以上に強く成長した
- これは、一部は関税引き上げ前の企業による輸出前倒しによる
- しかし、消費や投資の強さもまた成長を促した
- 最近の調査は総じて製造業とサービス業双方の緩やかな拡大を示している
- 同時に関税引き上げや引き上げ予想、ユーロの上昇、地政学的な不確実性の持続が企業投資の躊躇につながっている
- 労働市場は強く、実質所得の上昇と民間部門のバランスシートの健全性が引き続き消費の支えとなっている
- 失業率は5月に6.3%とユーロ導入以来の低水準付近にある
- 資金調達環境の改善が、住宅市場を含む域内需要を支えている
- 時間が経過するにつれ、防衛・インフラ関連の公的投資の拡大もまた成長の支えになるだろう
- 今まで以上に、理事会は、現在の地政学的環境において、ユーロ圏とその経済を早急に強化することが重要だと考えている
- 財政・構造政策は、経済をより生産的に、競争力を持ち、強靭化する必要がある
- 政府は、公的資金調達の持続可能性を確保し、成長強化のための構造改革と戦略投資を優先する必要がある
- 明確で野心的な予定表をもつ貯蓄・投資同盟、銀行同盟の完成、潜在的なデジタルユーロ導入の法律枠組みの迅速な作成も重要である
- 理事会は、ユーログループによる公的支出の効率性や質、構成の改善にコミットしたことを歓迎し、欧州当局による世界貿易の相互利益を維持するための努力を支援する
(インフレ)
- インフレ率は前年比で5月の1.9%から6月には2.0%となった
- エネルギー価格は6月に上昇したが、依然として1年前よりは低い
- 食料インフレは3.1%まで緩和した
- 財インフレは6月に0.5%に低下する一方、サービスインフレは5月の3.2%から3.3%にわずかに上昇した
- 基調的なインフレ率の指標は総じて2%の中期目標と整合的である
- 労働コストは緩和を続けている
- 1人あたり雇用者報酬の前年比は10-12月期の4.1%から1-3月期には3.8%に鈍化した
- 生産性上昇率の強い伸びと合わせて、単位労働コストの伸びは低下した
- ECB賃金トラッカーや企業、家計、専門家の賃金予想の調査を含むフォワードルッキングな指標は賃金上昇率の更なる低下を示している
- 短期的なインフレ期待は、5月および6月に低下し、それまでの上昇傾向から逆転した
- 長期のインフレ期待のほとんどが引き続き2%付近にとどまっており、我々の目標近辺でのインフレの安定化を支えている
(リスク評価)
- 成長率に対するリスクは引き続き下方に傾いている
- 主要なリスクは、さらなる世界的な貿易の緊張激化と関連する不確実性による輸出の鈍化と、投資・消費の抑制である
- 金融市場の景況感悪化は資金調達環境の厳格化をもたらす可能性があり、リスク回避姿勢を強め、企業や家計の投資・消費意欲を低下させるだろう
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争や、中東での悲劇的な紛争のような地政学的な緊張は引き続き主要な不確実性となっている
- 対照的に貿易と地政学的な緊張が速やかに解消されれば、景況感が改善し経済活動が活況となる可能性がある
- 防衛やインフラへの支出増加は、生産性向上改革とともに、成長を押し上げる可能性がある
- 企業景況感の改善が民間投資を刺激する可能性もある
- インフレ率を取り巻く見通しは、世界的な貿易政策の変化が激しい環境のため、通常よりも不確実性が大きい
- ユーロ高によりインフレ率が予想以上に低下する可能性がある
- 加えて、仮に関税引き上げによる、ユーロ圏の輸出需要の低下や、生産過剰となった国々が輸出先をユーロ圏に変更することで、インフレ率が低下する可能性がある
- 貿易の緊張は金融市場の変動やリスク回避姿勢を強めるため、内需の重しとなり、低インフレをもたらす可能性がある
- 対照的に、世界的な供給網の分断化は輸入物価の押し上げや、域内経済の供給制約を助長させ、インフレ率を上昇させる可能性がある
- 防衛とインフラ支出の増加もまた中期的なインフレ率を上昇させる可能性がある
- 異常気象や気候変動危機がより広がることで、食料品価格が予想以上に上昇する可能性もある
(2025年07月25日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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