2024年04月19日

パワーカップル世帯の動向-2023年で40万世帯、10年で2倍へ増加、子育て世帯が6割

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~「女性の活躍推進」から10年余り、M字カーブはおおむね解消、パワーカップルも増加?

2013年に政府が成長戦略として「女性の活躍推進」1を掲げてから10年余りが経過し、働く女性を取り巻く環境が改善している。育児休業制度や時間短縮勤務制度、テレワークなどの仕事と家庭の両立を図るための就労環境の整備が進んだことで、共働き世帯が一層増え、夫婦ともに高年収のパワーカップルも増加傾向にある。

女性の就業に関わる各種指標も大きく改善している。まず、労働力率について見ると、日本では長年、「М字カーブ問題」が課題であったが、この10年間で、出産や子育て等の離職の多かった30代での凹みはおおむね解消されるとともに、幅広い年代で労働力率は高まり(特に60~64歳は47.4%→65.3%で+17.9%pt)、全体でも48.9%から54.8%(+5.9%pt)へと上昇している(図表1)。

また、指導的地位に占める女性を増やすことは引き続き課題だが、民間企業における女性役員や管理職比率は上昇傾向にあり、2025年の政府目標値にも近づいている(図表2)。
図表1 女性の労働力率の変化/図表2 階級別女性比率(民間企業)の推移
これらの結果、共働き世帯数は専業主婦世帯数を一層上回って増加し(図表3)、2023年では子育て世帯の6割超が共働き世帯となっている(図表4)。

このような中で当研究所では、夫婦ともに高年収の「パワーカップル」に注目し、定期的にレポートを発信している2。本稿では、最新のデータを用いて、世帯全体や共働き世帯の夫婦の収入の状況などを捉えた上で、パワーカップル世帯の動向を確認する。なお、パワーカップルについての明確な定義はないが、これまでと同様、一定程度の裁量権を持つ年収水準であることや所得税の税率区分などを考慮し、夫婦共に年収700万円以上の世帯と定義する3
図表3 共働き世帯数と専業主婦世帯数の推移/図表4 18歳未満の児童のいる世帯の父母の就労状況の変化
 
1 「日本再興戦略-JAPAN is BACK-」(平成25年6月14日)
2 久我尚子「パワーカップル世帯の動向(1)-コロナ禍でも引き続き増加傾向、子育て世帯が約6割」、ニッセイ基礎研究所、基礎研レポート(2023/07/13)など。
3 当研究所以外の分析では、共働き夫婦の合計年収を2千万円以上とするものや年収に加えて金融資産の量を考慮したもの、あるいは政治家や事業家など影響力のある夫婦を指すものもある。

2――世帯の所得分布~

2――世帯の所得分布~年間平均所得は546万円、1,200万円以上は7.2%、南関東や大都市で多い

パワーカップル世帯の状況を捉える前に、まず、世帯の所得4状況についての全体像を確認したい。

厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」によると、総世帯の年間平均所得金額は546万円、中央値は423万円である。

パワーカップルが含まれる高所得世帯に注目すると、1,200~1,500万円未満は全体の3.7%(201万世帯)、1,500~2,000万円未満は2.1%(115万世帯)、2,000万円以上は1.4%(74万世帯)を占める(図表5)。なお、過去10年ほど、1,200万円以上の世帯数や割合は、おおむね横ばいで推移している。

地域別に見ると、1,200万円以上の世帯は南関東(32.1%)や東海(16.1%)、近畿(13.2%)で多く(図表6)、これらの3地域で約6割を占める。また、都市規模別に見ると、1,200万円以上の世帯は大都市(政令指定都市と東京23区)では33.8%、人口15万人以上の市では27.1%、人口15万人未満の市では30.0%、郡部では9.2%を占め、高所得世帯は都市規模が大きい方が多い傾向がある(図表略)。よって、パワーカップル世帯も南関東を中心とした大都市に多く居住していると見られる。
図表5 所得金額階級別に見た世帯数の割合(2022年)/図表6 地域別に見た所得階級分布(2022年)
 
4 本節で用いる厚生労働省「国民生活基礎調査」は収入から給与所得控除額や経費等を除いた所得を捉えた統計だが、次節以降で用いる総務省「労働力調査」では収入を捉えたものであるため、パワーカップルの定義で示した通り、収入の観点から、パワーカップルの動向を捉える。

3――パワーカップル世帯の動向

3――パワーカップル世帯の動向~2023年で40万世帯、10年で2倍へ増加、子育て世帯が6割

1共働き夫婦の年収分布~高収入の妻ほど夫も高収入、ただし扶養控除枠を意識する妻も
次に、パワーカップル世帯を含む共働き世帯の状況を確認する。総務省「令和5年労働力調査」によると、夫婦共に就業者の世帯(以下、共働き世帯)は1,653万世帯であり、総世帯(5,801世帯5)の28.5%を占める。

この共働き世帯について、妻の年収階級別に夫の年収階級の分布を見ると、妻が高年収であるほど、夫も高年収層の割合が上昇する傾向がある(図表7)。2023年では、年収1,000万円以上の妻の69.2%が夫も年収1,000万円以上である一方、年収200万円未満を除くと、妻の年収が低いほど夫も比較的低年収の割合が高い傾向がある。つまり、高年収同士、あるいは低年収同士が夫婦であることで、夫婦(世帯)間の経済格差6の存在がうかがえる。

一方、妻の年収200万円未満(収入無しを除く)では、夫の年収が500万円以上の割合がやや高まる傾向がある。夫の年収500万円以上の割合は、妻の年収200万円~300万円未満では38.7%だが、100万円~200万円未満では42.7%、100万円未満では45.3%とやや上昇する。この背景としては、夫が一定程度の年収を得ているため、自身の収入を増やすよりも夫の扶養控除枠を意識して働く妻が増えることなどがあげられる。
図表7 妻の年収階級別に見た夫の年収階級分布(2022年)
 
5 総務省「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」
6 夫婦世帯間の経済格差については、橘木俊詔・迫田さやか著「夫婦格差社会-二極化する結婚のかたち」(中公新書、 2013年)で指摘されている。
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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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【パワーカップル世帯の動向-2023年で40万世帯、10年で2倍へ増加、子育て世帯が6割】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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