2024年04月12日

ふるさと納税、使途選択の効果-人気の使途は寄付額アップにつながるのか?

金融研究部 主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任 高岡 和佳子

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1――はじめに

ふるさと納税の三大意義の1つとして「納税者が寄付先を選択するからこそ、その使われ方を考えるきっかけとなる」ことが掲げられているが、どのくらいの人が寄付金の使われ方を真剣に考えて、ふるさと納税をしているのだろうか。

毎年総務省が公表する「ふるさと納税に関する現況調査結果」の内容は徐々に充実しており、令和5年度の結果(以下、総務省の調査結果)には、地方公共団体毎に、寄付の際に使途を選択できるか否か、選択できる場合は使途を指定できる分野及び、分野別の寄付件数や集まった寄付金額といった情報が含まれている。
【図表1】 使途の分野別ふるさと納税の寄付状況 総務省の調査結果によると、使途を指定しない寄付額(使途を指定できない地方公共団体への寄付を含む)が最も多く、寄付額全体のおよそ4割を超える。使途を指定する寄付額に限れば、調査対象全10分野のうち、「子ども・子育て」分野を指定する寄付額が1,222億円で突き抜けて多く、次に多い「教育・人づくり」分野672億円の1.8倍に及ぶ(図表1)。

返礼品を目的としたふるさと納税が多いと考えられる状況下において、使途を指定しない寄付が最も多いのは当然と思うだけでなく、むしろ全体の4割という水準はむしろ少ない気もする。ポータルサイトの設計上、使途の選択が必要なために、特段考えずに使途を選択しているとか、特定の使途がデフォルトになっているために、寄付者の考えとは無関係に、データ上は使途を選択したことになっているといったケースも考えられる。

一方、「子ども・子育て」分野を指定する寄付額が突き抜けて多いという結果は偶然ではなく、少子高齢化に対する懸念が高まってから相当な期間が経過しても改善の兆しが見られない状況下における寄付者の考えが反映された結果とも考えられる。
 
そこで、総務省の調査結果を用いて、多くの寄付者が望む分野を使途として選択できるか否かが、各地方公共団体の寄付受領額に影響を及ぼすのか、また使途別の寄付額に寄付者の考えがどの程度反映されているのかについて多面的に確認したい。

2――使途の選択可否と寄付額の関係

2――使途の選択可否と寄付額の関係

初めに、受領寄附額に応じて地方公共団体を順位付けし、使途別にその使途を選択できる地方公共団体と選択できない地方公共団体の平均順位に有意な差があるかどうかを確認する。

結果は図表2に示す通りである。全地方公共団体を対象に分析すると、「子ども・子育て」分野を選択できる地方公共団体は、選択できない地方公共団体より統計的に寄付額が多い。しかし、「子ども・子育て」分野に限らず、ほとんどの分野において、同様の結果が確認できる。実は、より多くの分野の使途を選択できる地方公共団体ほど、多くの寄付額が集まる傾向がある1。ほとんどの分野において、選択できる地方公共団体ほど統計的に寄付額が多いという結果は、この傾向の表れに過ぎない可能性がある。
【図表2】 使途の選択可否と各地方公共団体に集まる寄付額の関係
そこで、選択可能な分野の数の違いによる影響を緩和する為、選択可能な分野の数に応じて3つのグループに分割し、グループ別に同様の分析を行ったところ、「子ども・子育て」分野を選択できる地方公共団体は、選択できない地方公共団体より統計的に寄付額が多いという結果が得られたのは、選択可能な分野の数が4~6のグループに限られた。

興味深いのは、「子ども・子育て」分野の次に寄付額が多い「教育・人づくり」分野が、寄付の際に使途を選択できる地方公共団体の全体を対象にした分析でも、選択可能な分野の数でグループ化した分析の結果でも選択可能な分野の数が1~3のグループを除き、選択できる地方公共団体の方が、統計的に寄付額が少ないという結果が得られる点である。この原因については後ほど(5章)で説明する。
 
少なくとも、この段階では、多くの寄付者が望む分野を使途として選択できるか否かが、各地方公共団体の寄付受領額に影響を及ぼしているとは考えにくい。
 
1 より多くの分野の使途を選択できる地方公共団体ほど寄付額が多い傾向(相関関係)は確認できるが、より多くの分野の使途を選択できるようにすることで、寄付額が増える(因果関係がある)とまでは言えない。各地方公共団体のふるさと納税に対する姿勢や投入可能なマンパワー等の違いが、寄付額及び選択可能な使途の分野の多さの両方に影響している可能性もある。

3――寄付額上位地方公共団体とそれ以外の地方公共団体における使途選択の差

3――寄付額上位地方公共団体とそれ以外の地方公共団体における使途選択の差

次に、寄付額上位の100の地方公共団体と、それ以外の地方公共団体で、使途の分野別の寄付の割合に差があるかを確認する。なお、寄付額上位の100の地方公共団体の寄付金総額は4,429億円で、全体(9,654億円) の46%に相当する。
【図表3】 使途の選択状況(寄付額上位vs それ以外) 結果は図表3の通りで、寄付額上位の100の地方公共団体と、それ以外の地方公共団体との間で、最も差が大きいのは、使途を指定しない寄付の割合である。返礼品が目的で使途に関心が無い寄付が特定の地方公共団体に集中した結果と考えるのが自然だろう。2章に記述した通り、寄付額が多い地方公共団体ほど、より多くの分野の使途を選択できるようになっているが、残念ながら、その地方公共団体に寄付する寄付者の45%程度は使途を指定する意思がないのである。

一方、使途を指定する寄付に限定すれば、寄付額上位の100の地方公共団体と、それ以外の地方公共団体との間に目立った相違はない。やはり、多くの寄付者が望む分野を使途として選択できるか否かが、各地方公共団体の寄付受領額に影響を及ぼしているとは考えにくい。残りの寄付の大部分も使途に対する関心は低く、返礼品等を目的に寄付する地方公共団体を選択した後に、当該地方公共団体が提示する使途のラインナップの中からおざなりに使途を選択しているに過ぎないように思う。

4――地方公共団体が提示する使途ラインナップの影響と寄付者の選択

4――地方公共団体が提示する使途ラインナップの影響と寄付者の選択

本当に、寄付する地方公共団体の選択が先で、その後で提示された中から使途を選択しているならば、「子ども・子育て」分野を指定する寄付額が多いからといって、寄付者が「子ども・子育て」分野を重視しているとは限らない。「子ども・子育て」は寄付者からの支持が高いのではなく、地方公共団体におけるニーズが高く、「子ども・子育て」が指定可能な地方公共団体が多いだけ、もしくは「子ども・子育て」が指定可能な地方公共団体が相対的に多額の寄付額を集めているだけかもしれない。
 
そこで、使途を指定する寄付全体に占める各使途の割合を、地方公共団体が提示する使途のラインナップの効果と寄付者の選択の効果に分解してみたい。地方公共団体が提示する使途のラインナップの効果は、その使途を指定できる地方公共団体に集まる寄付額の多さに起因する効果であり、使途を指定する寄付総額に占める、当該使途を選択可能な地方公共団体への寄付(使途を指定した寄付に限る)の割合で表現する。一方、寄付者の選択の効果は、当該使途を選択可能な地方公共団体への寄付(使途を指定した寄付に限る)の総額に占める、実際に当該使途が選択された割合で表現する。このように定義することで、使途指定寄付に占める各使途の割合は、ラインナップの効果と寄付者の選択の効果の積と一致する(以下、式参照)。
各使途の割合
結果は、図表4に示す通りである。各使途の割合と寄付者の選択の順位に相違はないので、ラインナップの効果を考慮してもなお、寄付額が多い使途は寄付者からの支持が高いことが分かる。しかし、各使途の割合(図表1)では、寄付者が「教育・人づくり」と「地域・産業振興」を、同程度に支持しているように見えるが、そうではなさそうだ。寄付者の選択の効果は「教育・人づくり」の方が大きく、一方、「地域・産業振興」はラインナップの効果が大きい。また、寄付者の選択でも「子ども・子育て」が突出して支持されているが、ラインナップの効果に差があるので、各使途の割合で見るほどには「子ども・子育て」と「教育・人づくり」に差はないこともわかる。
【図表4】 使途別、ラインナップの効果と寄付者の選択の効果
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金融研究部   主任研究員・年金総合リサーチセンター・ジェロントロジー推進室・ESG推進室兼任

高岡 和佳子 (たかおか わかこ)

研究・専門分野
リスク管理・ALM、価格評価、企業分析

経歴
  • 【職歴】
     1999年 日本生命保険相互会社入社
     2006年 ニッセイ基礎研究所へ
     2017年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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