2024年03月28日

女性にとって「育児と管理職の両立」は可能か~中高年の女性管理職のうち、子がいる割合は4割弱

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

近年、企業が女性の管理職登用を進めているが、実際に登用されるのは、未婚や子がいない女性に偏っていないだろうか。管理職に就くまでには、組織において中核的な職務に就き、残業や転勤、不測の事態が発生した際の急な対応もこなし、成果を出さなければならない。その役目は結局、働く時間や場所に制約のある育児中の女性には、難しいのではないだろうか――。本稿は、そのような「育児と管理職の両立」、または「育児とキャリアアップの両立」をテーマに考察する。

各紙でも取り上げられているように、2024年の通常国会では、従業員の子が3歳になるまでの働き方として、テレワークを企業の努力義務に追加する育児・介護休業法や次世代支援対策推進法等の改正案が提出される。このように、子どもがいても働き続けやすくする「育児と仕事の両立支援」策は、2000年代初頭の育児休業の法制化に始まり、短時間勤務制度やフレックスタイム制度の導入・拡充など、確実に拡充されてきた。その結果、実際に、出産後に退職する女性は少数派となった1。しかし、女性が出産しても単に働き続けるというだけではなく、「育児と管理職の両立」、または「育児とキャリアアップの両立」についてはどうだろうか。その答えは、女性管理職比率の数値の低さが示す通りであろう。

そのような中、2016年に施行された女性活躍推進法は、文字通り、女性の職業生活における活躍推進を目的としている。分かりやすく言えば、育児中か否かに関わらず、女性のキャリアアップや管理職登用を推進するものである。つまり、女性の雇用に関する社会課題は、単に、「結婚・出産を経ても働き続けられる」というだけではなく、「結婚・出産を経てもキャリアアップを続けられる」ことにステージが上がったと言える。

そこで本稿では、「育児と管理職の両立」に関する現状について報告し、今後、両立のハードルを下げるために、目指すべき方向性について検討する。なお本稿では、キャリアアップの度合を測る指標として、管理職登用の数値を用いるが、論考の趣旨としては、「育児と管理職の両立」だけではなく、「育児とキャリアアップの両立」を意識していることを、あらかじめお断りしておきたい。

本稿の構成は以下の通りである。まず一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が昨年10月に共同研究として行ったインターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~2や先行研究から、現在、管理職に就いている女性の育児の状況について報告する。次に、アンケートと同時並行して行った「ダイバーシティ・中高年女性社員活躍に関する大企業取組インタビュー調査」の結果も交えながら、企業側が取り入れるべきことや、女性(または男性)自身ができる工夫について考え、「育児と管理職の両立」を実現していく道筋について検討したい。
 
1 国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査(夫婦調査)」によると、2010年代前半から、第1子出産後に就業継続する割合が、退職する割合を上回っている。
2 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。

女性管理職のうち、子がいる人の割合は4割弱

2――女性管理職のうち、子がいる人の割合は4割弱~一般社団法人定年後研究所・ニッセイ基礎研究所「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より~

2-1│管理職を務める中高年女性の属性
(1) 管理職を務める中高年女性の年齢階級
まず、インターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」から、現在、大企業で正社員として働く45歳以上に中高年女性の属性を、現役の管理職と非管理職に分けて確認する。始めに、年齢階級の構成割合をみると、「管理職」の年齢階級は45~59歳が約3割、「50~54歳」が約4割、「55~59歳」が2割強、「60歳以上」が約5%となっており、50歳代前半が最も大きい(図表1)。「非管理職」に比べて、50~54歳の割合がやや大きくなっている。
図表1 管理職を務める中高年女性の年齢階級別の構成割合
(2) 管理職を務める中高年女性の配偶関係
次に、上述の共同研究から、管理職を務める中高年女性の配偶関係を見ると、「配偶者あり」が半数、「未婚」が約4割、「離別」が約1割だった。「非管理職」に比べれば、有配偶の割合が高いが、筆者の既出レポートで説明したように、国内の、45~59歳の女性全体の配偶関係は、国勢調査によると、「有配偶」が約7割、「未婚」が1~2割となっている3。大企業で働く中高年の女性管理職は、国内の女性の平均よりも、有配偶の割合が顕著に小さく、未婚の割合が顕著に大きい。この世代では育児休業の法制化前に出産を迎えた女性が多く、結婚・出産後に退職することが主流であったために、結果的に、働き続けて管理職に就いた女性は未婚割合が大きいと考えられる。
図表2 管理職を務める中高年女性の配偶関係別の構成割合
(3) 管理職を務める中高年女性の子がいる割合
次に、上述の共同研究から、管理職を務める中高年女性の家族の状況についてみていきたい(図表3)。各成長段階の子がいる割合を見ると、全体では「未就学の子」がいる割合は5.1%である。「小学生の子」と「中学生の子」、「高校生の子」、「大学や短大、高専、専門学校、大学院などの学生の子」、「学校を卒業した子」がいる割合はいずれも1割前後となっている。すべての成長段階の子を合わせた「子がいる」割合は、4割弱にとどまり、育児に手がかかる「小学生以下の子」に限ってみると、14.5%に過ぎなかった。共同研究の調査対象が45歳以上であるため、未就学の子がいる割合が小さい一因となっていると考えられる。

そこで、女性管理職の年齢階級別に分布の違いを見ると、「45~49歳」では「小学生の子」がいる割合が4割弱と最も大きいが、「50~54歳」では「中学生の子」から「学校を卒業した子」までがいずれも1割~1割強と同じぐらい、「55歳以上」では「学校を卒業した子」が2割弱で最も大きくなっていた。つまり、女性の年齢階級が上がると、子の成長段階も上がっているとみられる。

次に、女性管理職の年齢階級別に、各成長過程の子を合わせた「子がいる」割合を見ると、「45~49歳」では5割弱、「50~54歳」では4割弱、「55歳以上」では3割弱と、女性の年齢階級が上がると、子がいる割合も小さくなっていた。上述したように、現在の50歳代後半だと、育児休業が法制化される前に出産した女性が多いと考えられることから、結果的に、子をもうけ、かつ管理職にまでなっている女性は少ないと考えられる。ただし、この設問では「現在、同居している家族」について尋ねているため、この数字の他にも、既に独立した子がいる可能性がある。
図表3管理職を務める中高年女性のうち、各成長段階の子がいる割合
筆者らの共同研究は女性のみを対象としており、「女性管理職のうち、子がいる割合は4割弱」という数字を評価することが難しいため、ここで、先行研究を参照する。男性と女性、両方の正社員を対象に行った、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査(2014年)によると4、従業員300人以上の企業では、男性管理職のうち「有配偶・子あり」は78.6%だったのに対し、女性管理職のうち「有配偶・子あり」は30.6%であり、同じ管理職でも、子がいる割合には、男女で2倍以上の大きな差があった(図表4)。つまり、男性管理職の大部分には子がいるのに、女性管理職で子がいるのは少数である。ちなみに、JILPTの調査では、筆者らの共同研究の結果よりも、子がいる割合が小さいが、これは、対象に年齢制限を設けていないため、45歳以上を対象とした共同研究に比べて、若年層が含まれることが影響していると考えられる。

次に、同じくJILPTの調査より、従業員300人以上の企業の管理職について、子の年齢階級ごとに、子がいる割合を見ると、男性管理職のうち「有配偶・末子7歳未満」がいるのは14.3%、「有配偶・末子7~12歳」は18.7%、「有配偶・子あり・その他」は45.6%だった(図表4)。これに対し、女性管理職のうち、「有配偶・末子7歳未満」は3.3%、「有配偶・末子7~12歳」は6.9%、「有配偶・子あり・その他」は20.4%であり、いずれの年齢階級でも、子がいる割合には大きな男女差があった。また、その男女差の幅に注目すると、男女いずれも、管理職のうち幼い子がいる割合は小さいが、子の年齢階級が下がるほど、男女差が大きいことが分かった。例えば、女性管理職で末子7歳未満の子がいる割合は、男性管理職の3分の1にも満たない。

つまり、女性管理職の方が、男性管理職に比べて幼い子がいる割合が小さく、女性にとって、「管理職と育児の両立」は、男性よりもはるかに厳しいという実態が分かった。
図表4 男女別にみた管理職に子がいる割合(子の年齢階級別)
 
4 独立行政法人労働政策研究・研修機構 (2014)「男女正社員のキャリアと両立支援に関する調査結果(2)―分析偏―」。管理職の調査対象には、特に年齢制限は無い。男性管理職の平均年齢は47.9歳、女性管理職の平均年齢は47.0歳で、管理職年齢の男女差はない。
(4) 子がいる女性管理職の割合に関するまとめ
ここまで、中高年の女性管理職のうち子どもがいる割合は4割弱、小学生以下の子どもがいる割合はさらに低い約15%、という共同研究の結果を報告した。また、JILPTによる調査を見ても、子がいる女性管理職は約3割と少数派で、しかもその割合には男女で大きな差があった。特に、子が幼い場合の方が、男女差が大きくなっており、女性にとって、特に、子どもに手がかかる時期には、「管理職と育児の両立」のハードルが、男性に比べてはるかに高いという実態が分かった。

ただし、共同研究の結果に戻ると、女性の年齢階級が下がるほど、「子がいる割合」は大きくなっている。「45~49歳」に限れば、女性管理職のうち、小学生以下の子がいる割合は半数近くに迫っている。数は少ないものの、時代が下るに従って、子どもを育てながら管理職を務める女性は、増加してきているのではないだろうか。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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