2018年07月24日

介護職員不足への対応-「まんじゅう型」から「富士山型」への構造転換をどう進めるか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也

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1――はじめに

高齢化が着実に進み、高齢者の介護ニーズも高まりつつある。しかし、介護サービスを行う介護職員は、今後不足することが予想されている。2015年度時点で介護職員の数は、183万人となっている。厚生労働省が公表している介護人材の需給推計によると、2025年度には、253万人の需要見込みに対して、供給見込みは215万人あまりにとどまり、38万人の需給ギャップが生じるとされている1

介護職員不足の対策の1つとして、経済連携協定(EPA)の枠組みや技能実習制度を活用して外国人を受け入れる取組みが進められている。しかし、これまでの育成人数は限定的なものにとどまっている2。今後、育成が進んだとしても、外国人の介護職員はいずれ本国に帰るものと想定され、恒久的な人員確保にはつながらない可能性がある。(以後、本稿では、外国人介護職員は検討対象としない。)

本稿では、介護人材不足の現状や、それを踏まえた対応についてみていくこととしたい。
 
1 「2025 年に向けた介護人材にかかる需給推計(確定値)について」(厚生労働省, 平成27年6月24日)より。
2 2008年度に、EPAでの受け入れを開始。2017年度までにインドネシア、フィリピン、ベトナムの3ヵ国から、計3,529人を受け入れた(就労コースと就学コースの合計)。2011~17年度の介護福祉士国家試験で、累計719人の合格者が出ている。
 

2――介護の人材不足

2――介護の人材不足

最初に、介護の人材不足の現状を確認していこう。

1労働市場では、介護人材不足が顕著になっている
まず、有効求人倍率を見てみよう。2017年は、介護関係職種は3.50倍と非常に高い数値になった。これは、全職種の1.35倍を大きく上回っている。求人数が増加する一方、求職数は減少している。
図表1. 有効求人倍率の推移
2訪問介護は、主として、非常勤の高齢女性層が担っている
介護には、大きく分けて、利用者の居宅でサービスを行う訪問介護と、介護施設で入居者にサービスを行う施設介護がある。介護職員の就業形態を見ていくと、施設介護は正規職員が多い。一方で、訪問介護は非正規の短時間労働者が中心、という特徴が浮かび上がる。
図表2. 介護職員の就業形態 (2015年度)
介護職員を男女別に見ると、女性の割合が高い。訪問介護では、女性割合は約9割にのぼる。訪問介護は、原則として介護者が一人でサービスを行う。一般に、サービス利用者が女性の場合、介護者も女性となる。このため、訪問介護員は女性が中心になっているものとみられる。

年齢別に見ると、施設介護は30、40歳代を中心に20歳代から50歳代にかけて幅広い年齢層に分布している。一方、訪問介護は、50、60歳代を中心に40歳代以上の割合が高く、年齢層が高い。
図表3. 介護職員の年齢構成 (2015年度) [横占率  ]
3介護職員は、入職率も離職率も高い
次に、入職率と離職率(労働者数に対する1年間の入職者と離職者の割合)を見てみよう。介護職員は、産業全体に比べて入職率も離職率も高い状態が続いており、入れ替わりが激しいことがわかる。
図表4-1. 介護職員の入職率の推移/図表4-2. 介護職員の離職率の推移
4介護職に対する志望は高まっていない
近年、介護福祉士養成施設の定員数は減少している。一方、学生数は定員数を上回る勢いで減少している。この結果、定員数に対する学生数の割合を示す定員充足率は低下を続けている。2017年度には45.7%、離職者訓練分を除くと37.4%にまで低下した。介護職の人気は高まっていないといえる。
図表5. 介護福祉士養成施設定員充足率の推移

3――介護職員の処遇とキャリアパス

3――介護職員の処遇とキャリアパス

介護人材不足の原因は何か。原因の1つとして挙げられるのが、介護職員の処遇が低いという点であろう。そして、もう1つの理由として、キャリア形成の幅が乏しいとの声もあがっている。

1介護職員の賃金カーブはあまり上昇していかない
職員の処遇を給与面から見てみる。ホームヘルパーや福祉施設介護員は、他職種よりも給与が低い。
図表6. 職種別の給与額
次に賃金カーブを見てみる。介護職員は年齢が進んでも、他職種のようには賃金が上昇していかない。ホームヘルパーや福祉施設介護員の年齢ごとの賃金カーブを見ると、ほぼ横這いで推移している。このため介護職員は、賃金の上昇を織り込んだ将来の生活設計がしづらいものと考えられる。
図表7-1. 年齢ごとの賃金カーブ (男性)/図表7-2. 年齢ごとの賃金カーブ (女性)
2介護職員のキャリアパスは画一的で多様性に乏しい
通常、介護職員は、まず介護職員初任者研修を受ける。その後、国家資格である介護福祉士の資格を取得するというのが、資格面のキャリアアップとなる。

(1) 介護職員初任者研修
訪問介護を行う介護職は、介護職員初任者研修の修了が要件となる3。一方、施設介護の介護職員の場合は、この研修の修了前でも業務を行うことができる。
 
3 10科目について、130時間の講習を受ける研修。このうちスクーリングでの学習が89.5時間とされ、残り40.5時間は通信学習も可能とされている。研修の最後に、学習内容の習得度を評価する修了試験が行われ、合格することが必要となる。
(2) 介護福祉士
介護福祉士は、介護職の中核を担う国家資格。専門的な知識や技術をベースに、自ら介護を行うだけでなく、介護者への指導を行うこともある。有資格者以外でも介護業務を行うことは可能なため、業務独占の資格ではない4。このことが、介護福祉士の社会的評価を阻害する要素の1つとみられる。

介護福祉士の資格取得には、3つのルートがある。実務経験ルートは、介護職として3年以上の実務経験を積み、450時間の研修を受けて受験資格を得る。国家試験に合格すると、介護福祉士となる。養成施設ルートは、大学、短大、専門学校などの介護福祉士養成施設を卒業すると、5年間暫定的に介護福祉士資格が付与される。国家試験に合格すれば、その後も引き続き資格を保持できる5。福祉系高校ルートは、福祉系高校を卒業して受験資格を得る6。国家試験に合格すると、介護福祉士となる。 
図表8. 介護福祉士を目指す3つのルート
 
4 有資格者のみが介護福祉士を名乗ることができるため、名称独占の資格となる。
5 試験の合格を資格取得要件とすべく見直しが図られたものの、過去3回施行が延長された。これは、介護人材の量的確保が困難になるとの懸念があったことによる。2022年度以降の養成施設卒業者から、試験の合格が資格取得要件となる予定。
6 資格試験は、筆記試験の1次試験と、実技試験の2次試験からなる。筆記試験は、「人間と社会」「介護」「こころとからだのしくみ」「医療的ケア」の4つの領域と、それらを横断的に問う総合問題からなり、220分の試験時間で、多肢選択形式の125問の問題からなる。一方、実技試験は、実際の介護の現場で想定される介護のシチュエーションが提示される。制限時間5分以内で適切な介助を行う。試験内容は、「一部機能の麻痺がある要介護者を想定し、その人が望む体勢にすみやかに移動させる」「着替えなどの作業補助を行う」など。なお、実務経験ルート、養成施設ルートは、実技試験は免除される。
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保険研究部   主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員

篠原 拓也 (しのはら たくや)

研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1992年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員

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