2018年06月22日

【アジア・新興国】東南アジアの経済見通し~景気は内需を中心に堅調維持も、資金流出と貿易摩擦のリスクに注意

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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2-4.フィリピン
フィリピン経済は大統領選挙関連の特需があった16年からの反動減で昨年前半の成長率は一時的に鈍化したが、その後は回復して高成長が続いている(図表12)。1-3月期は建設投資と政府消費が好調に推移し、成長率は前年同期比6.8%増(前期:同6.5%増)と上昇した。景気の牽引役となった建設投資は政府のインフラ整備事業が加速して、その呼び水効果が民間部門に波及した影響が大きいと考えられる。一方、GDPの約7割を占める民間消費は再び5%台まで鈍化した。労働市場の改善は続いているものの、物品税増税による物価上昇や海外出稼ぎ労働者からの送金額(ペソベース)の鈍化が消費に冷や水を浴びせたようだ。

先行きのフィリピン経済はドゥテルテ政権が掲げるインフラ整備計画「ビルド・ビルド・ビルド」の本格化2により、内需主導の高成長が続くと予想する。インフラ財源調達のための税制改革法第1弾TRAINは一部を除いて今年1月に施行されたほか、残る第2~5弾の改革も年内の成立を目指している。18 年度予算の資本支出は前年度比26.9%増と、前年度の同23.7%増から更に加速しており、インフラ整備計画は既に本格化している。公共投資の拡大が呼び水になり、民間部門も堅調に推移しよう。

民間消費については、まず物品税増税に伴う物価上昇によって家計の実質所得が目減りして年前半に伸び悩むものの、個人所得税が引下げられたことから通年で見れば増税の影響は限定的となるだろう。また今年インフラ事業によって建設業をはじめとして82万人の雇用が創出される見込みであるほか、海外経済の回復が続いて海外出稼ぎ労働者の送金も増加することから、消費は堅調に拡大しよう。

外需は、昨年に比べて輸出の増勢が鈍化する一方、建設資材や機械などの資本財輸入の増加は続くと見込まれる。結果として、輸入の伸びは輸出を上回り、純輸出の寄与度は再びマイナス幅が拡大すると予想する。

金融政策はここ数年緩和的な政策スタンスが維持されてきたが、中央銀行は5月と6月の金融委員会で2ヵ月連続の利上げ(計+0.50%)を実施し、政策金利を3.50%とした(図表13)。税制改正後にインフレ率が急上昇して中銀目標(3±1%)の上限を上回ったためだ。この税制改革によるインフレ圧力は来年には弱まるが、堅調な内需と原油高を背景とする物価上昇は続く可能性が高い。中央銀行は物価動向と為替動向の両面を注視しつつ、短期的に追加利上げを実施する展開が予想される。

実質GDP成長率は18年が6.7%と、17年から横ばいから推移した後、19年が6.6%と内需主導で堅調に推移すると予想する。
(図表12)フィリピン 実質GDP成長率(需要側)/(図表13)フィリピンのインフレ率と政策金利
 
2 ドゥテルテ政権の経済政策の主軸である「ビルド・ビルド・ビルド」では、首都圏を横断する南北通金銭、首都圏の地下鉄、ミンダナオ地方の鉄道などの大型案件を含み、インフレ関連支出を17年の5.3%から22年までに同7.4%へ拡大することを掲げている。
2-5.ベトナム
ベトナム経済は外需の拡大を受けて成長ペースが加速している。2018年1-3月期の成長率は前年比7.4%増と過去10年で最も高い伸びを記録し、政府の通年の成長目標である+6.5~6.7%を早速上回った(図表14)。景気の牽引役は二桁成長が続ける製造業である。1-3月期は、海外経済の回復を受けて輸出が拡大したサムスン電子の新型スマートフォンやアパレル製品などの製造業生産が好調だった(図表15)。サービス業は製造業の生産拡大に伴う雇用・所得環境の改善や外国人観光客の増加によって卸売・小売業やホテル・レストラン業を中心に堅調に拡大した。また農林水産業は干ばつの影響で低調だった昨年初からの回復基調が継続した。このほか、鉱業は原油価格下落を受けて生産コストが割高な国内の油田が減産しているが、1-3月期は一旦プラスに転じた。

先行きのベトナム経済は成長ペースが落ちるものの、堅調に推移するだろう。輸出は世界経済の回復を背景に増加するが、ITサイクルのピークアウトや中国経済の減速によって増勢が鈍化するため、輸出主導型の景気回復は落ち着いていくだろう。また外国直接投資(FDI)は実行額こそ堅調に伸びているものの、製造業のFDI認可額が昨年の大型案件の反動から減少傾向にある。従って、現在好調の製造業は次第に増勢が鈍化するものと見込まれる。もっともベトナムはTPP11や欧州との自由貿易協定(EVFTA)などの自由貿易に積極的であり、中期的に外国資本の流入は続くと予想され、製造業は引き続き成長ドライバーとなるだろう。また農林水産業は昨年初まで続いた落ち込みからの回復局面が終わり、安定成長へシフトすると予想する。

一方、サービス業は製造業の生産能力拡張や継続的な賃金上昇(18年の最低賃金は平均6.5%増)を背景に所得が向上するため、堅調に拡大するだろう。先行きの物価上昇は家計の実質所得を目減りさせるが、輸入制限の影響で先送りになっている自動車の買い控え需要や外国人観光客数の増加が見込まれ、卸売・小売業やホテル・レストラン業は高めの伸びを続けるものと見込まれる。また政府は国営企業の株式化と株式売却によって財政余力を高めており、建設業は経済特区や工業団地の開発、同周辺のインフラ整備の進展によって堅調に推移しよう。

金融政策は、中央銀行が昨年7月に14年以来の利下げを実施して以降、据え置かれている。インフレ率は足元で政府目標(年平均4%以下)を下回りつつも上昇傾向にあり、先行きも堅調な内需と原油高などから緩やかに上昇するだろう。物価目標の上限が意識されるなか、中央銀行は年内に利上げすると予想する。

実質GDP成長率は、18年が6.8%と17年から横ばいとなって政府目標(6.5~6.7%)を若干上回り、19年が6.5%と輸出の減速を受けて小幅に低下すると予想する。
(図表14)ベトナム実質GDP成長率(供給側)/(図表15)ベトナム輸出の伸び率(品目別)
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2018年06月22日「Weekly エコノミスト・レター」)

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