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増加を続ける国民医療費・個人の生涯医療費
基礎研REPORT(冊子版)12月号
保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子
1―2015年度国民医療費は42兆円3,644億円
医療の高度化や寿命の延伸等によって、医療費は毎年およそ1兆円ずつ増加しており、2015年度には42兆3,644億円となった。2016年度は、14年ぶりに減少する見込みであるが、高額医薬品の価格引き下げによる一時的なものであり、医療費が増加基調であることに変わりはない。
国民一人ひとりの生涯医療費2も増加しており、2015年度データでは、男性が2,580万円、女性が2,820万円だった(10割負担として計算)。この男女差は、平均寿命の差3と疾病構造の違いによる。
本稿では、国全体、および個人の医療費支出状況を紹介する。
1 概算医療費は、審査支払機関の算定ベースの診療報酬の集計であり、はり・きゅう、保険証忘れ等による全額自費支払い、労働者災害補償保険等による医療費は含まない。そのため国民医療費の98%程度で推移している。
2―国全体の医療費支出の動向
国民医療費とは、医療機関等で保険診療の対象である傷病の治療に要した費用を言う。健康診断や大衆薬等の予防・健康増進分野、先進医療等の研究開発分野、差額ベッド代等の生活サービス等分野、介護等分野は含まない。
2|医療費支出の内訳
(1)医科診療が医療費総額の7割。増加しているのは薬局調剤
国民医療費を、医科診療(入院・入院外)、歯科診療、薬局調剤といった診療種類別にみると、2015年度の国民医療費約42兆円のうち、医科診療が約30兆円と全体の7割を占めて最も多く、次いで薬局調剤が約8兆円と続く[図表1]。医科診療を入院・入院外別にみると、入院が約16兆円、入院外が約14兆円と、入院が高い。
医療費増加の要因として、人口増の影響(2008年度以降はマイナス)、高齢化の影響、診療報酬改定、その他の医療の高度化等の影響が考えられているが[図表2]、最近の医療費の伸びは、人口の高齢化と、医療の高度化等の要因によるところが大きい。特に2015年度は、前年に比べて伸び率が大きいが、薬価が高い医薬品が保険収載された影響だと分析されている。

新生物による医療費が高い
図表4は、国民医療費の7割を占める医科診療費の疾病分類別構成(構成比で上位3疾病)を示している。男女とも中高年以降では循環器系の疾患と新生物が上位を占める。
新生物の構成比が高いのは、男性が45歳以上であるのに対し、女性はそれより若い15歳以上である。乳がん、子宮がん等女性特有のがん患者が比較的若いことによる。
男性でのみ上位となっている疾病は、44歳以下では骨折等の損傷、中毒及びその他の外因の影響、65歳以上では前立腺の疾患等の腎尿路生殖器系の疾患である。一方、女性でのみ上位となっている疾病は、15~44歳では妊娠、分娩及び産じょくと、45歳以上では関節症や骨粗しょう症等の筋骨格系及び結合組織の疾患である。65歳以上の女性では、筋骨格系及び結合組織の疾患による医療費は、新生物と同程度のウエイトを占めて高い。
すなわち、医療費は、新生物のように、患者数は少ないが患者一人あたりの医療費が平均して大きいケースと、筋骨格系及び結合組織の疾患のように、患者一人あたりの医療費は平均すると小さいが患者数が多いことによって高くなっているケースがある。
4 継続的に医療を受けている者の数を推計したもの。
3―個人の医療費支出の動向
個人の生涯医療費は、2015年度のデータで男性が2,580万円、女性が2,820万円だった[図表5]。男女とも70歳以上で生涯医療費のおよそ半分を使う(男性47%、女性53%)。
男女を比較すると、20~49歳と75歳以上で女性の医療費が高い。20~49歳の女性の医療費は、この年代の女性特有の「妊娠、分娩及び産じょく」によって、同年代の男性を上回ると考えられる。
女性の85歳以上が極端に高くなっているのは、年齢別の内訳を5歳刻みで表記しているのに対し、85歳以上は死亡するまでを合算しているからである。その期間は、男性平均6.22年、女性平均8.30年(85歳の平均余命)である。
生活医療費も、時系列でみると増加している。
4―おわりに
男女とも中高年以降では新生物、循環器系の疾患による医療費が高くなっている。男性でのみ医療費が高い疾病は、年齢により損傷、中毒及びその他の外因の影響や腎尿路生殖器系の疾患である。また、女性でのみ高い疾病は、年齢により妊娠、分娩及び産じょくや関節炎等筋骨格系及び結合組織の疾患である。
疾病分類別医療費は、新生物のように、患者数は少ないが患者一人あたりの医療費が平均して大きいケースと、筋骨格系及び結合組織の疾患のように、患者一人あたりの医療費は相対的に少ないが患者数が多いことによって高くなっているケースがある。

03-3512-1783
(2017年12月07日「基礎研REPORT(冊子版)」)
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