2017年09月20日

資金循環統計(17年4-6月期)~個人金融資産は、前年比77兆円増加の1832兆円に、過去最高を大きく更新

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.個人金融資産(17年6月末): 17年3月末比では24兆円増

2017年6月末の個人金融資産残高は、前年比77兆円増(4.4%増)の1832兆円となった1。残高はこれまでの最高であった昨年12月末(1810兆円)を大きく上回り、過去最高を更新した。年間で資金の純流入が28兆円あったほか、大幅な株価上昇と円高是正によって、時価変動2の影響がプラス49兆円(うち株式等がプラス40兆円、投資信託がプラス10兆円)発生し、資産残高が大きく押し上げられた。主に時価上昇の影響で、投資信託の残高は初めて100兆円を突破した。

四半期ベースで見ると、個人金融資産は前期末(3月末)比で24兆円の増加となった。例年4-6月期は一般的な賞与支給月を含むことからフローで流入超過となる傾向があり、今回も11兆円の流入超過となった。さらに、市場では欧州の政治リスク後退や世界的な景気拡大などを受けて株価が上昇(3月末18909円→6月末20033円)したため、時価変動の影響がプラス13兆円(うち株式等がプラス11兆円、投資信託がプラス2兆円)発生し、資産残高増加に寄与した(図表1~4)。
(図表1) 家計の金融資産残高(グロス)/(図表2) 家計の金融資産増減(フローの動き)
(図表3) 家計の金融資産残高(時価変動)/(図表4) 株価と為替の推移(月次終値)
(図表5)家計の金融資産と金融純資産 なお、家計の金融資産は、既述のとおり4-6月期に24兆円増加したが、この間の金融負債はほぼ横ばいに留まったため、金融資産から負債を控除した純資産残高も24兆円増の1515兆円となった。こちらも昨年12月末を上回り、過去最高を更新している(図表5)。
 
ちなみに、その後の7-9月期については、一般的な賞与支給月を含まないことから、例年フローで1~5兆円前後の流出超過となる傾向が強い。一方、株価が今のところ6月末比で小幅に上昇しているため、時価変動の影響が数兆円程度増加に寄与していると推測される。従って、現時点の個人金融資産残高は6月末と大差ない水準を維持していると考えられる。
 
 
1 今回、遡及改定により、2015年4-6月期以降の数値が改定されている。
2 統計上の表現は「調整額」(フローとストックの差額)だが、本稿ではわかりやすさを重視し、「時価(変動)」と表記。

2.内訳の詳細: 現預金の積み上がりが継続、リスク性資産からは資金が流出

4-6月期の個人金融資産への資金流出入について詳細を見ると、季節要因(賞与等)によって例年同様、現預金への資金流入(積み上げ)が発生している。近年の同時期との比較では、現金、流動性預金(普通預金など)に資金が流入した点は同様だが、流動性預金への流入規模が近年を上回る点が特徴的である。

マイナス金利政策導入以降、定期預金金利がほぼゼロに引き下げられた影響で、引き出しに制限のある定期預金の魅力が低減し、(同じくほぼゼロ金利だが)流動性の高い普通預金の選好が強まったが、その傾向は今年4-6月期にかけても続いている。
(図表6)家計資産のフロー(各年4-6月期)/(図表7)現・預金のフロー(各年4-6月期)
(図表8)株式・出資金・投信除く証券のフロー(4-6月期)/(図表9)リスク性資産の残高と割合
リスク性資産に関しては、株式等からの資金流出が3.1兆円と前年同時期の流出額(0.7兆円)をかなり上回った。株価上昇局面では利益確定の株売りが出やすい。ただし、こうした利益確定が出にくい投資信託からも0.2兆円の資金が流出している。前期(1-3月期)には投信への投資に持ち直しの動きが見られていたが、勢いは続かなかった。

その他リスク性資産では、対外証券投資(1.0兆円の流入)、外貨預金(0.2兆円の流入)への資金流入が見られるものの、それぞれ前期の流出の反動に過ぎない可能性がある。
以上のとおり、(一定の元本保証がある)流動性預金への選好が根強い一方、リスク性資産からは資金流出がみられ、「貯蓄から投資へ」の流れは確認できない。
 
なお、株と投資信託に外貨預金や対外証券投資などを加えたリスク性資産の残高は323兆円と3月末から10兆円増加し、その個人金融資産に占める割合は17.6%と2007年9月末以来の高水準となった。リスク性資産への資金流入が進んだわけではなく、株価上昇による時価の上昇が残高増に寄与した。
 
その他証券では、前期(1-3月期)に約8年ぶりに資金流入に転じた国債が再び資金流出に転じている。4月から個人向け国債を販売する金融機関への事務手数料が引き下げられた影響で、直前に駆け込み販売が発生した反動とみられる。手数料引き下げは逆風だが、個人向け国債には最低金利保証(0.05%)が付いており、預金に対する投資妙味は引き続き高いため、大幅な資金流出が続く可能性は低いだろう(図表6~9)。
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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