2017年07月25日

諸利率について(2) 預かり利率-保険料前納割引利率・積立利率、配当金積立利率、据置利率など

小林 雅史

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1――はじめに

先日のレポートでは、保険契約に適用される利率である諸利率のうち、契約者貸付、保険料振替貸付という契約者に対する貸付制度の概要と生保会社による利率開示状況などを紹介した1

本レポートでは、保険料の前納割引利率・積立利率、配当金の積立利率、保険金や給付金を据え置いた場合の据置利率など、契約者資金の預かり利率について報告したい。
 
1 小著「諸利率について(1)貸付利率-契約者貸付利率、保険料自動振替貸付利率」『保険・年金フォーカス』、2017年6月27日。
 

2――預かり利率が適用される各制度

2――預かり利率が適用される各制度

1保険料の前納
保険料の前納とは、将来の半年払、年払の保険料を、まとめて数回分払い込む方法である。

保険料の前納に当たっては、一定の割引利率で前納すべき保険料を計算し、この保険料前納金を一定の積立利率で積み立てておき、本来の保険料払込期日が到来するごとに保険料に充当していく。

保険契約が保険金の支払いや解約などにより保険期間の途中で消滅した場合には、払込期日が到来していない保険料前納金の残高は返還される2

これに対し、将来の月払の保険料を3か月、6か月、または1年分まとめて払い込む方法を一括払いと呼称し、短期間であるため、保険料の割引はあるが、積立利率は適用されない。

なお、保険料の一括払いについては、近年、取扱いを行わない生保会社が多い。

ところで、契約当初に全期間の保険料を前納したケース(全期前納)は、保険料を一時払いで払い込むケースと類似しているが、通常、全期前納の保険料の金額は一時払保険料の金額より高額となる。

一方、全期前納の場合、前述のとおり保険契約が途中で消滅した場合には、払込期日が到来していない保険料前納金は返還される(一時払契約については保険料の返還がない)ことから、契約の途中で保険契約が消滅した場合の受取額は、全期前納契約の方が通常大きくなるといった差異がある。

保険料の前納制度は、保険料払込の利便性向上のため、大正期に「我が国の生保会社が創設したもので、外国にはその例を見ない」3、独特の制度である。

1955年12月、当時の大蔵省保険課から「保険約款に関連して再検討を要する諸点」の諮問があり、その中で保険料の前納について「現在の規定は銀行法又は預り金等の取締に関する法律に抵触することにならないか。同様のことは保険金の据置支払についてもいえると思う」4との指摘があった。

これに対し、生命保険協会は、1956年3月24日、保険料前納金は保険契約の対価である保険料に充当されていくことから、保険料の前納制度は保険料の支払方法のひとつであり、預かり金ではないと答申したが、疑義を払拭するため、当時の約款にあった「契約者の申出による保険料前納金の返還」条項を削除し、預かる金額は1回分の保険料の倍数分とするとした5
 
2 「保険料の払込方法」、生命保険文化センターホームページ。
3 二瓶嘉三「保険料前納制度について」『生命保険経営』第11巻第3号、1939年5月。
4 「保険約款の改訂に関する大蔵省の諮問」『生命保険協会会報』第37巻第3号、1956年5月。
5 「保険約款の改訂に関する諮問について大蔵省へ答申書提出」『生命保険協会会報』第37巻第4号、1956年10月。1956年4月の保険料率改定時に約款の変更が行なわれた(「約款、事業方法書等の変更」同会報)。
2配当金の積立
保険料は、予定死亡率、予定事業費率、予定利率という3つの予定率(契約時に予定された基礎率)をもとに計算されていることは、以前小著で示したとおりである6

この予定率と、実際に発生した死亡者数、事業費、運用利回りとの差により剰余が生じた場合に、契約者に分配される剰余金を配当金という(配当金がある有配当保険に対し、無配当保険は、配当金がない代わり、予定率について有配当保険より実際の経験値に近いものを用いることで保険料を有配当保険より低く設定している)。

配当金の受取方法は契約時に定めるが、積立配当(配当金を利息をつけて積み立て)、相殺配当(保険料から配当金を差し引き、保険料を低くする)、買増配当(配当金で保険を買い増し、保障金額を高くする)などがある7

配当金受取方法としては、従来は相殺配当が主流であったが、近年は積立配当がほとんどとなっており、約款上も積立配当のみとする生保会社が多い。
 
6 小著「予定利率の開示について-顧客にとってわかりやすい開示とは」『保険・年金フォーカス』、2017年4月25日。
7 「配当金の仕組」、生命保険文化センターホームページ。
3保険金や給付金の据置
保険金や給付金の据置とは、保険金や給付金の受取人が、受取方法として、その全部または一部を利息をつけて据え置くことである8

保険金据置制度は、「保険金受取人において直ちに資金の必要がないときは保険会社に保険金を預託する仕組み」9と説明されているとおり、受取人の利便性向上のために設けられた制度である。

保険業法第99条に、生命保険会社は、その支払う保険金について、保険金信託業務を行うことができる旨規定されているが、実際には信託銀行や信託会社との提携10を除き、保険会社本体での保険金信託は行われておらず、保険金据置制度は、保険金信託の機能の一部(保険金受取人が必要とする時期までの保険金の留保と、必要時期までの安定した運用など)を代替する制度とも目されている。

こうした事情は、1985年保険審議会答申においても、「一時に多額の保険金を受け取る必要のない者のためには、一定期間据え置いた後に資金のニーズに応じて支払う据置支払の制度があり、今後の利用の増加が予想される」、「保険業法上は、支払保険金について信託の引受けを行う保険金信託が認められているが、実際には実施されていない。その理由としては、現在のところ据置支払制度でほぼ同様の経済的効果を達成できる等のためであると思われる」11と指摘されている。

この1985年保険審議会答申を受け、それまで一部の会社で実施されていた保険金据置制度が、ほとんどの会社で実施されるようになり、据置期間は「保険期間と10年のいずれか短い期間」とされ、また、据置後1か月未満の引き出しについては利息付与しないこととされた12

なお、保険金据置が保険契約消滅後の取扱いであるのに対し、給付金据置は保険期間の途中で支払われる生存給付金などを保険期間満了時まで据え置くという、保険契約存続中の取扱いである。
 
8 「死亡保険金はどのようにして受け取る?」、生命保険文化センターホームページ。
9 山下友信『保険法』531ページ、有斐閣、2005年3月。
10 プルデンシャル生命が2010年7月から当時の中央三井信託銀行(現三井住友信託銀行)との提携により販売(2015年10月より100%子会社のプルデンシャル信託を創設し、現在、三井住友信託銀行とプルデンシャル信託の双方の信託を取り扱っている)、第一生命が2014年1月からみずほ信託銀行との提携により販売している。
11 保険研究会編『新しい時代に対応するための保険事業のあり方(保険金議会答申)』26ページ、財経詳報社、1985年7月。
12 「保険金据置制度の現状と課題 11社が実施、利用率まだ低いが今後拡大も」『インシュアランス』第3291号、1987年10月15日、佐野佳男「保険金支払方法の多様化と顧客サービス-保険金据置・年金払制度の紹介」『生命保険経営』第56巻第1号、1988年1月。
 

3――預かり利率の変遷

3――預かり利率の変遷

前納割引利率については、つぎのような変遷がある。

大正期に創設され、昭和初期に多くの生保会社が導入した保険料前納制度については、生命保険経営学会を設立した森荘三郎博士により、1940年1月に生保29社にアンケート調査が行なわれている。

回答のあった27社中、保険料前納制度を導入している会社は15社と過半を占め、うち10社が前納割引利率を年4%としていた(最高6%、最低3.5%。なお当時から、前納割引利率の具体的数値を約款に明記していた会社があった)13

戦後の1950年11月の同様のアンケート調査では、回答した16社全社が保険料前納制度を導入しており、保険料前納制度がほぼ全社に普及していることがわかる。

前納割引利率は年4%とする会社が11社で、3%とする会社が2社、保険種類または前納期間により3%または4%に区分する会社が3社となっていた14

1963年1月時点の20社の生保約款の調査結果によれば、当時の予定利率(4%)にもとづき、前納割引利率について「年4分を下回ることはありません」と約款上規定する会社が5社あると指摘されており15、こうした会社も含め、当時の前納割引利率は4%であったものと考えられる。

1982年当時においては、前納割引利率は4%、5%、5.5%、8%と各社区々となっていたが、前納積立利率は各社とも8%であった16

契約者からの預かり利率は、前納割引利率・前納積立利率、保険金据置利率、積立配当利率とも8%を最高水準として、1987年以降、市中金利の低下により下落の一途をたどっている。

すなわち、1987年には前納積立利率、配当積立利率は7%、保険金据置利率は6%と17、1989年には配当積立利率は6.3%、前納積立利率は6%、保険金据置利率は5%18となり、以降も低下を続けた(なお、給付金据置利率は1987年には7%、1989年には6%と、保険契約継続中の取扱いとして保険契約消滅後の取扱いである保険金据置利率より高く設定されている)。
 
13 森荘三郎「我国各社の資料による総合研究 保険料前納制度に就いて」『生命保険経営』第12巻第3号、1940年5月。なお当時の保険料前納制度では、現在の積立利率の概念はないか、積立利率と割引利率は同率とされ、割引利率以上の運用に対する還元を行なっていた会社は2社に過ぎない。
14 森荘三郎「我国各社の資料による総合研究 保険料前納の事務について」『生命保険経営』第19巻第3号、1951年5月。
15 約款研究委員会「わが国生保会社の保険約款の総合比較(その2)」『生命保険経営』第31巻第4号、1963年7月。
16 日本生命『約款解説書』268ページ、1982年10月。
17 荒井昭「昭和61年度決算に基づく契約者配当について」『生命保険経営』第55巻第4号、1987年7月。
18 今村進「昭和63年度決算に基づく契約者配当について」『生命保険経営』第57巻第4号、1989年7月。
 

4――預かり利率の開示状況

4――預かり利率の開示状況

2017年4月1日現在、生保商品販売中の40社のうち、保険料前納を取り扱っている会社は25社あるが、うち前納割引利率、前納積立利率を開示している会社は17社である。

水準としては0.01%~0.15%で、0.01%とする会社が多い(外貨建商品についてはこれより高い水準とする会社もある。また、前納割引利率や積立利率を約款に明記していた会社はその利率となる)。

保険金据置利率、配当積立利率は、0.01%~0.15%の水準で、同様に0.01%とする会社が多い(なお、配当積立利率を約款に明記していた会社はその利率となる)。
 

5――おわりに(私見)

5――おわりに(私見)

契約者からの預かり利率の資金特性を考えてみると、預かり期間については、保険料前納が最短2年から保険料払込期間まで(最長数十年)、積立配当(給付金据置)は配当支払年度(給付金支払年度)から最終的には保険期間満了など保険契約の消滅まで(最長数十年)、保険金据置は前述のとおり保険契約の消滅後最長10年となっている。

一方、契約者による引き出しの自在性については、保険料前納は保険契約の消滅まで自在な引き出しはできず、積立配当や保険金据置は基本的にはいつでも引き出しができるという特性を有している。

こうした資金特性や、金利設定のひとつの指標と考えられる10年国債利回りの状況(日銀のマイナス金利政策により、一時▲0.3%まで低下し、現在は0.05%程度)などを踏まえれば、現在の預かり利率の水準は妥当なものといえよう。
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(2017年07月25日「保険・年金フォーカス」)

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