2017年06月09日

米国経済の見通し-米経済は消費主導の底堅い景気回復持続を予想も、無視できない国内政治リスク

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.経済概況・見通し

(経済概況)1‐3月期の成長率は前期から伸びが鈍化
米国の1-3月期実質GDP成長率(以下、成長率)は、前期比年率+1.2%(前期:+2.1%)と、2期連続で前期から伸びが鈍化した(図表1、図表3)。

需要項目別にみると、前期に成長を押し下げた外需の成長率寄与度が+0.13%ポイント(前期:▲1.82%ポイント)と、当期はほぼ中立に戻したほか、民間設備投資が前期比年率+11.4%(前期:+0.9%)、住宅投資も+13.8%(前期:+9.6%)といずれも2桁の伸びとなった。一方、政府支出が▲1.1%(前期:+0.2%)とマイナスに転じたほか、在庫投資も成長率寄与度が▲1.07%ポイント(前期:+1.01%ポイント)と、3期ぶりにマイナスに転じて成長率を押し下げた。もっとも、当期の成長率低下は、これまで成長を牽引してきた個人消費が前期比年率+0.6%(前期:+3.5%)と前期から伸びが大幅に鈍化したことが大きい。
(図表2)個人消費支出(主要項目別)および可処分所得 個人消費の主要項目別の内訳をみると、1-3月期は財消費が前期比年率+0.3%(前期:+6.0%)、サービス消費が+0.8%(前期:+2.4%)と、財、サービス消費ともに前期から伸びが鈍化した(図表2)。財消費では、自動車関連の消費が▲13.9%(前期:+16.2%)と、2桁の大幅な落ち込みとなったほか、ガソリン・エネルギーが▲7.3%(前期:▲1.7%)と前期からマイナス幅が拡大した。また、サービス消費では、公共料金が▲17.7%(前期:▲16.3%)と前期からさらにマイナス幅が拡大した。

自動車関連消費は、前期から大幅な落ち込みとなったものの、16年12月の自動車販売台数が季節調整済み年率換算で18.4百万台と12月としては過去最高となっていたこともあり、好調であった前期からの反動とみられる。一方、エネルギーや公共料金の落ち込みは、17年2月の全米平均気温が1895年の統計開始以来2番目に高い気温であったことに伴い、暖房消費が落ち込んだ影響のようだ。個人消費を取り巻く環境は後述するように依然として消費に追い風となっているため、1-3月期の消費鈍化は一時的である可能性が高い。

また、近年は季節調整の影響で1-3月期の成長率が低くでる傾向がある1ため、今回の結果によって、米景気回復が変調していると考えるのは早計だろう。

一方、消費者や企業センチメントは高水準を維持しており、トランプ政権が掲げる減税策などへの期待は大きいものの、トランプ政権による政策運営は順調とは言い難い。トランプ政権が発足して4ヵ月以上経過するものの、トランプ大統領が選挙期間中に掲げていた政策公約のうち、現段階で実現した政策はTPPの離脱などに留まっている。

また、トランプ政権のスタッフ登用についても、議会で承認が必要な430程度のポストの内、6月8日時点で承認されたポストが40程度に留まっているほか、300近いポストでは指名すらされておらず、スタッフが不足する状況が続いている。このため、トランプ政権の政策立案能力が欠如していることが懸念される。

実際、3月中旬に発表された大統領予算(予算教書)は、通常の予算教書に比べて極めて不完全な内容であったほか、4月下旬に発表された大統領の税制改革案も僅か1枚ものの発表と、極めて内容に乏しく、予算、税制改革などで政策立案能力が欠如している証左だろう2

また、議会共和党との政策協調においても、トランプ政権の調整力には疑問符が付く。政権発足当初から、トランプ大統領と議会共和党はオバマケアの廃止・代替案の作成を政策の最優先課題と位置付けていた。しかしながら、代替案の作成では下院共和党の意見集約に手間取ったほか、漸く5月6日に下院で可決した代替案についても、州が運営する低所得者向けの公的医療制度であるメディケイドに対する補助金の大幅な削減や、無保険者が23百万人増加することに対して上院共和党議員の一部からも公然と見直しを求める声がでており、代替案に関する議会共和党内での意見集約の目処は立っていない。このように、安定政権にも拘らず政策遂行がスムーズに行っているとは言えない。

さらに、トランプ政権とロシアの不適切な関係が指摘されているロシアゲート問題では、連日米メディアが疑惑を報じているほか、議会で公聴会が開かれるなど、トランプ政権は貴重な政治資本を費消しており、これらの問題も政策遂行する上で暗い影を落としている。
 
1 詳しくは、Weeklyエコノミストレター(2015年6月9日)「米国経済の見通し―1-3月期の落ち込みから15年の成長率は14年を下回る見込み」を参照下さい。
http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=42498?site=nli
2詳しくは、Weeklyエコノミストレター(2017年5月12日)「予算編成、税制改革の動向―未だ詳細は不明。議会共和党からの支持が鍵だが、政策協調の可能性は低い」を参照下さい。
http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55695?site=nli
(経済見通し)成長率は17年+2.2%、18年+2.5%を予想
米国経済は、労働市場の回復を背景に個人消費主導の景気回復基調が持続している。また、これまで回復が遅れていた設備投資についても、漸く回復が明確になってきており、米経済にとってポジティブな要因となっている。当研究所では前回見通し時(3月)と同様、トランプ政権の経済政策運営は今後もスムーズに進まないと予想しており、経済政策に伴う成長押し上げ効果は17年がほぼ中立、18年が+0.3%と予想している。

一方、消費者や企業センチメントの高さに反映されているように、トランプ政権に対する減税などの政策期待は残っているとみられるため、減税規模の縮小や減税時期が後ズレする場合には、政策期待の剥落に伴い、センチメントの悪化などを通じて実体経済に影響する可能性はある。しかしながら、労働市場の回復持続が見込まれる中、日本を含む世界経済が安定していることなどを考慮すると、政策期待の剥落によるセンチメントの悪化も限定的だろう。当研究所では、成長率(前年比)は17年が+2.2%、18年が+2.5%を予想する(図表3)。
 
物価については、原油価格が足元(6月8日時点)の45ドル台から17年末に53ドル、18年末に56ドルまで上昇すると見込んでいることから、エネルギー価格が物価を押上げる形で緩やかな上昇が続くと予想される。当研究所では、消費者物価指数(前年比)見通しを17年、18年ともに+2.4%としている。
 
金融政策は、6月、9月に0.25%の追加利上げを実施した後、12月のFOMC会合でFRBのバランスシート縮小を決定すると予想する。

長期金利は、物価上昇や政策金利の引き上げ継続に加え、FRBによるバランスシート縮小に伴う国債需給の引き締りや、財政赤字拡大に伴う国債供給増などを背景に、18年末にかけて上昇基調が持続すると予想する。もっとも、長期金利の水準は物価上昇が緩やかなことから17年末で2%台後半、18年末で3%台前半までの緩やかな上昇となろう。
 
上記見通しに対するリスクとしては、米国内の政治リスクと、海外の地政学リスクが高まることに伴う資本市場の不安定化が挙げられる。米国内の政治リスクでは、トランプ大統領の政治手腕が懸念される。トランプ政権が掲げる政策を推進する上では議会との協調が鍵を握っているが、野党民主党だけでなく、与党共和党内でもオバマケアなどの重要政策に対する意見の相違がみられており、政策協調の道筋がみえない状況となっている。現状では、ロシアゲート問題に絡んでトランプ大統領が弾劾される可能性は低いものの、ロシアゲート問題の対応に貴重な政治資本が費消されることで、国内政治が機能不全に陥る可能性がある。夏場に向けてリスクが高まる債務上限の引き上げ問題では、その対応を誤ると米国債がデフォルトする可能性があり、注目される。

一方、北朝鮮や中東情勢の深刻化に加え、欧州でテロが続くなど地政学リスクが高まっているにも関わらず、現状では投資家のリスク回避姿勢は高まっていない。しかしながら、何かのきっかけで、地政学リスクが再び意識される場合にはリスク回避姿勢の高まりにより、資本市場が不安定化する可能性がある。資本市場の不安定な状況が長期化する場合には、米実体経済に悪影響が出よう。
(図表3)米国経済の見通し
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

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