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- 働き方改革の落とし穴~労働時間の一律削減は賃金の低迷を招く恐れ
2017年05月30日
1――はじめに
失業率が完全雇用とされる3%程度を下回る2%台まで低下するなど、労働需給は極めて逼迫した状態が続いているが、賃金の伸びは相変わらず低いままだ。厚生労働省の「毎月勤労統計」によれば、一人当たり賃金(現金給与総額)は2014年度に4年ぶりの増加となった後、2016年度まで3年連続でプラスの伸びを続けているが、伸び率はゼロ%台前半から半ばにとどまっている(2014年度:前年比0.5%、2015年度:同0.2%、2016年度:同0.4%)。
2――パートタイム労働者の時給上昇が賃金増加につながらず
1|減少する労働時間
一般労働者の多くは月給制で基本給(所定内給与)が労働時間や日数によって左右されないため、賃金の基調的な動きを判断する際に1ヵ月の賃金総額(一人当たり)を見ることが一般的だ。これに対し、パートタイム労働者の賃金は、まず時給(時間当たり賃金)が決まり、労働時間に応じて賃金が支払われる形となる。1ヵ月の賃金総額は休日数(土日、祝日)の影響を受けるため、賃金上昇圧力を見るにあたっては、時間当たり賃金で基調を見ることが適切となる。しかし、時給の上昇は必ずしも一人当たり賃金総額の増加につながらない。言うまでもなく、パートタイム労働者が受け取る賃金総額は時給と労働時間によって決まるからだ。
一般労働者の多くは月給制で基本給(所定内給与)が労働時間や日数によって左右されないため、賃金の基調的な動きを判断する際に1ヵ月の賃金総額(一人当たり)を見ることが一般的だ。これに対し、パートタイム労働者の賃金は、まず時給(時間当たり賃金)が決まり、労働時間に応じて賃金が支払われる形となる。1ヵ月の賃金総額は休日数(土日、祝日)の影響を受けるため、賃金上昇圧力を見るにあたっては、時間当たり賃金で基調を見ることが適切となる。しかし、時給の上昇は必ずしも一人当たり賃金総額の増加につながらない。言うまでもなく、パートタイム労働者が受け取る賃金総額は時給と労働時間によって決まるからだ。
日本の労働時間は長期的に減少傾向が続いている。「毎月勤労統計」を用いて、労働者一人当たりの年間総労働時間を確認すると、1970年代から80年代にかけて2000時間を大きく上回る水準で推移していたが、1980年代末から1990年代初めにかけて水準を大きく切り下げ、1990年代前半には2000時間を割り込んだ。これは、改正労働基準法の施行によって法定労働時間が週48時間から40時間へと段階的に引き下げられ、週休2日制が定着してきた影響が大きい。年間総労働時間はその後も減少を続け、1990年代後半には1800時間台、2000年代後半以降は1700時間台となっている(図2)。
ただし、労働時間を就業形態別にみると、正社員を中心とする一般労働者の総労働時間は「毎月勤労統計」で就業形態別の労働時間の調査が開始された1993年以降、2000時間前後でほぼ一定となっている。一人当たりの労働時間が減少を続けているのは、労働者全体に占めるパートタイム労働者などの短時間労働者の割合が高まっていることに加え、パートタイム労働者の労働時間が減少しているためである。直近10年間でパートタイム労働者比率は5%ポイント程度上昇、パートタイム労働者の総労働時間は10%近く減少している。
ただし、労働時間を就業形態別にみると、正社員を中心とする一般労働者の総労働時間は「毎月勤労統計」で就業形態別の労働時間の調査が開始された1993年以降、2000時間前後でほぼ一定となっている。一人当たりの労働時間が減少を続けているのは、労働者全体に占めるパートタイム労働者などの短時間労働者の割合が高まっていることに加え、パートタイム労働者の労働時間が減少しているためである。直近10年間でパートタイム労働者比率は5%ポイント程度上昇、パートタイム労働者の総労働時間は10%近く減少している。
2|パートタイム労働者の賃金総額は減少
パートタイム労働者の時給が上昇ペースを速めているにもかかわらず、所定内給与の伸びは低迷している。ここで、パートタイム労働者の所定内給与の伸びを時間当たり賃金と労働時間に要因分解すると、時間当たり賃金の伸びが高まる一方で、労働時間の減少幅が拡大しており、2016年度に入ってからは前年比で2%前後の減少が続いている(図3)。2016年度のパートタイム労働者の所定内給与は、時給の上昇ペースを労働時間の減少幅が上回ったため、前年比▲0.4%と7年ぶりの減少となった(2015年度は同0.5%)。
パートタイム労働者の時給が上昇ペースを速めているにもかかわらず、所定内給与の伸びは低迷している。ここで、パートタイム労働者の所定内給与の伸びを時間当たり賃金と労働時間に要因分解すると、時間当たり賃金の伸びが高まる一方で、労働時間の減少幅が拡大しており、2016年度に入ってからは前年比で2%前後の減少が続いている(図3)。2016年度のパートタイム労働者の所定内給与は、時給の上昇ペースを労働時間の減少幅が上回ったため、前年比▲0.4%と7年ぶりの減少となった(2015年度は同0.5%)。
しかし、企業の人手不足感がバブル期並みに高まる中、ここにきて企業が正社員の採用を増やしているため、雇用の非正規化には歯止めがかかりつつある。総務省統計局の「労働力調査(詳細集計)」によれば、雇用者(役員を除く)に占める非正規雇用(パート・アルバイト、派遣社員、契約社員、嘱託、その他)の割合は1980年代半ばの15%程度から上昇を続け2000年代前半には30%を超えた。その後はペースを落としながらも30%台後半まで上昇したが、2015年度、2016年度と前年からほぼ横ばいとなっている(図4)。「毎月勤労統計」におけるパートタイム労働者比率の上昇も頭打ちとなっている。この結果、パートタイム比率の上昇による平均賃金の押し下げ圧力は小さくなっている。パート比率上昇による平均賃金の押し下げ幅は2013年度の前年比▲0.7%から2014年度に同▲0.5%、2015年度に同▲0.2%へと縮小した後、2016年度は同▲0.0%となった(図5)。
しかし、時間当たり賃金の上昇が労働時間の減少に打ち消され、パートタイム労働者の賃金総額自体が減ってしまっている。結果的に、労働需給の引き締まりを反映したパートタイム労働者の時給の上昇は労働者全体の平均賃金押し上げに全く寄与していない。
しかし、時間当たり賃金の上昇が労働時間の減少に打ち消され、パートタイム労働者の賃金総額自体が減ってしまっている。結果的に、労働需給の引き締まりを反映したパートタイム労働者の時給の上昇は労働者全体の平均賃金押し上げに全く寄与していない。
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経歴
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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