2017年05月08日

アセットタイプ別に見た減価償却費と資本的支出の水準

金融研究部 主任研究員   岩佐 浩人

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制度上、利益を全額分配するJ リート(不動産投資信託)において、建物などの減価償却費は貴重な内部財源であり、内部留保した現金の一部は保有物件の物理的機能や競争力を維持向上するための資本的支出(CAPEX:Capital Expenditure)に再投資される。以下では、不動産運用における減価償却費やCAPEX の水準についてアセットタイプ別に考察する。

最初に、不動産の運用サイクル「(1)取得⇒(2)保有⇒(3)再投資)」と会計処理の関係を整理したい。(1)不動産を取得すると付随費用と合わせた取得価額をバランスシートの固定資産に計上する。このうち、建物や附属設備などは使用または時間の経過により価値が減少する減価償却資産、土地などは価値が減少しない非減価償却資産として扱う。(2)減価償却資産は耐用年数にわたり取得原価を毎期費用配分し、その分取得価額を減額する。(3)保有物件に対する支出金額のうち、不動産の価値を高める又はその耐久性を増すことに対応する金額はCAPEX として資産計上し、通常の維持管理や原状回復に対応する金額は修繕費として費用計上する。

例として、利回り5%の不動産を取得価額100(土地50、建物50、耐用年数50 年)で購入し10 年間運用したケースを図表1に示した。10 年間で稼ぐ不動産収益50 から減価償却費10(建物50÷耐用年数50 年×10 年)を引いた利益は40 で、10 年後の資産勘定は「現金50、建物40、土地50」となる。J リートは現金50 のうち利益40 を投資家に分配するため、分配後は現金10が内部留保される。さらに現金10 をCAPEX として再投資するとサイクルが一巡し、バランスシートは運用開始時の姿に戻ることとなる。
不動産の運用サイクルにおけるバランスシートの変動
続いて、J リートの運用実績をもとに、減価償却費とCAPEX の水準を確認する。具体的には、(1)減価償却費率(取得価額に対する年間の減価償却費)、(2)CAPEX 投資比率(減価償却費に対するCAPEX の割合)、(3)剰余資金比率(減価償却費率×〔1-CAPEX 投資比率〕)について、アセットタイプ別(オフィス系、住宅系、商業系、物流系、ホテル系)に比較した(図表2)。
減価償却費・資本的支出・剰余資金の水準(アセットタイプ別)
まず、(1)減価償却費率は、高い順に、商業系>ホテル系>物流系>市場平均(1.3%)>住宅系>オフィス系となった。一般に、地方に所在する不動産は土地価格が安く建物などの割合が大きくなり償却費率も上昇する。Jリートの場合、商業系・ホテル系・物流系リートは地方や郊外の投資比率が高いのに対して、オフィス系・住宅系リートは東京や都市部の投資比率が高い。こうしたアセットタイプ毎の立地特性の違いが償却費率の水準に反映されている。

次に、(2)CAPEX投資比率は、ホテル系>オフィス系>市場平均(29%)>商業系>物流系>住宅系となった。通常、ホテルは宿泊施設の魅力が陳腐化しないよう恒常的に追加投資が必要となる。また、オフィスビルは空調設備の更新や共用部の大規模リニューアルなどを計画的に実施するためCAPEX投資比率が高くなるようだ。一方、住宅系・物流系リートは元来の資産特性に加えて2000年以降に竣工した築浅物件を多く保有することもCAPEXを軽減する要因となっている。

最後に、(3)剰余資金比率は、商業系>物流系>住宅系>市場平均(0.9%)>オフィス系>ホテル系となった。商業系・物流系リートは減価償却費率が高く、かつCAPEX投資比率が低いため剰余資金が貯まりやすい。そのため、剰余資金(実質フリーキャッシュフロー)を新たな物件取得や借入金の返済に回してROA(総資産利益率)を高めたり、利益の超過分配によって投資家への分配率を高めたりする裁量の余地が、オフィス系リートなどと比べて大きいことがわかる。

Jリート市場の創設から15年が経過し、不動産ポートフォリオの経年劣化への対応が重要課題となるなか、その財源となる減価償却費は今後5年間で約1兆円生じる見込みである。この内部資金をどう配分して投資主価値の向上につなげるのか、CAPEX投資の費用対効果や剰余資金のマネジメント方針について、リート各社の説明責任がより高まることになりそうだ。
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金融研究部   主任研究員

岩佐 浩人 (いわさ ひろと)

研究・専門分野
不動産市場・投資分析

(2017年05月08日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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