2016年12月26日

EUと米国の間の再保険規制を巡る交渉の状況はどうなっているのか-カバード・アグリーメントを巡る状況-

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1―はじめに

EU(欧州連合)のソルベンシーIIの同等性評価に関しては、保険・年金フォーカス「EUソルベンシーIIの動向-各国の保険監督制度の同等性評価を巡る最近の動きはどうなっているのか-」(2016.5.24)で、その時点における状況報告をした。

その中で、EUと米国の間では、両者の監督規制の枠組みの相互理解を達成する目的で、2012年に「EUと米国の対話プロジェクト(EU-US Dialogue Project)」がスタートしており、再保険やグループ監督を含めて各種の議論等が行われ、ここでの議論が同等性評価等に重要な役割を果たしていることを報告した。

さらに、この対話プロジェクトにおいて、EUと米国の間で、「カバード・アグリーメント(Covered Agreement)」の採択に関する協議が行われていることを報告した。

今回のレポートでは、このカバード・アグリーメントを巡る最近の状況について、報告する。
 

2―EUと米国の対話プロジェクト

2―EUと米国の対話プロジェクト

まずは、EUと米国の対話プロジェクトについて、概説する。

1|対話プロジェクト設定の経緯
EUと米国は、合計で、世界の保険市場の70%以上を監督している。2008年の世界的な金融危機は、よりよい国境を越えた協力を証明し、発生する課題に直面する態勢を整えるべく、規制の現代化が重要であることを再認識させた。それまでも、EUと米国の規制当局は、定期的な対話を通じて、必要に応じて、監督上のアプローチを調和させ、異なる管轄区域の規制当局間の信頼と相互理解を促進してきた。

こうした中で、EUと米国の対話プロジェクトが、消費者保護、ビジネス機会、効果的な監督のための理解と協力を強化する目的で、EUと米国における保険監督制度の主要な側面の全体的な設計、機能、目的についての洞察を深め、両制度の重要な特徴を特定するために、これまで行われてきたEUと米国の対話の上に構築され、2012年1月に開始された。そこでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)、EC(欧州委員会)、NAIC(全米保険監督官会議)、米国財務省のFIO(連邦保険局)が、この対話プロジェクトに参加することで合意した。

2|これまでの検討状況
対話プロジェクトは、EUと米国のトップ監督官僚各3名ずつの6名で構成される運営委員会(Steering Committee)によって率いられている。 運営委員会は、契約者と金融安定性を保護する健全な規制制度にとって根本的に重要であると考える、以下の7つのトピックを選択した。

 1.プロフェッショナルな秘密と機密性
 2.グループの監督
 3.ソルベンシーと資本要件
 4.再保険及び担保要件
 5.監督報告、データ収集と分析と開示
 6.監督上のピアレビュー
 7.独立した第三者審査および監督上の現場検査

7つのトピックのそれぞれに対処するために、両管轄地域の保険専門家からなる別々の専門委員会(Technical Committees)が設置された。各専門委員会は、2つの体制の間の整合と相違の領域を特定する、客観的で事実に基づく報告書を準備することを任された。欧州におけるソルベンシーII実施のために開発中のルールを含むソルベンシーII指令の3つの柱のアプローチと、米国の保険財務ソルベンシー枠組みにおける州ベースのシステムで、特定された7つのコアな主要物が、7つの報告書のそれぞれの基礎を提供した。

これらに基づいて、2012年12月に「EUと米国における保険監督と規制制度の一定の側面を比較したEUと米国の.対話プロジェクト専門委員会報告」が公表された。

この報告書に基づいて、運営委員会は、2017年までの5年間に行われるべき共通の目標とイニシアティブを概説する「Way Forward」計画に合意した。2014年4月、対話プロジェクトの運営委員会が5カ年計画に統合されるべきさらなる措置について議論するために開催された。2014年7月、プロジェクトへの進捗状況を概説し、プロジェクトへのコミットメントを再確認したWay Forwardの更新がリリースされた。

|カバード・アグリーメントを巡る動き
2015年11月に、米国の財務省とUSTRは、EUとのカバード・アグリーメントの交渉を開始する、と公表した。2016年2月にブリュッセルで、第1回目の協議が行われて、「保険と再保険に関する2者間合意に向けてのEUと米国の交渉に関する共同声明」が公表され、「両者は、効率的かつ迅速に行動することに合意し、グループ監督、監督当局間の機密情報の交換及び担保を含む再保険監督に関係する事項についての合意を誠実に追求することを確認した。」とされた。

その後、EUと米国の代表者の間で、2016年7月と12月(19日、20日)にブリュッセルで、2016年5月と9月及び12月(6日~8日)にワシントンDCでと、これまでに6回の協議が行われている。
 

3―カバード・アグリーメントとは

3―カバード・アグリーメントとは

1|カバード・アグリーメントとは
カバード・アグリーメントとは、「米国と1つ以上の外国政府、当局または規制主体との間で締結され、州の保険または再保険規制の下で達成される保護レベルと『実質的に同等』である保険または再保険の消費者のための保護レベルを達成する保険または再保険の事業に関する健全性措置の認識に関連する、保険または再保険の事業に関する保守的措置に関する、書面による二国間または多国間の合意」として、ドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)のTitle Vに定義された特殊なタイプの国際的合意である。

今回のEUと米国の間で交渉が行われているカバード・アグリーメントにより、米国で活動するEUの再保険会社の担保要件を排除し、米国の再保険規制をソルベンシーIIと同等のものとして認識することで、EUで活動する米国の再保険会社に課せられる障壁を取り除くことが期待されている。

2|カバード・アグリーメントの意味合い
カバード・アグリーメントの概念は、米国の財務省及びUSTRの独自のスタンドバイ権限として、必要に応じて、米国の州の保険法または規制が米国以外の保険会社を米国の保険会社とは異なる方法で扱う領域に対処するために、含まれた。

カバード・アグリーメントは、特定の状況下では州法の優先権の基礎となる可能性があるが、その契約が、州法に基づく消費者に与えられた保護と実質的に同等の措置に関連する場合に限られる。

3|カバード・アグリーメントのプロセス
カバード・アグリーメントは、FIOとUSTRの共同で、外国当局と交渉される。このような合意は、州法に基づくものと実質的に同等の消費者保護を提供しなければならない。 実質的に同等であるためには、合意の成果は州の法律や規制に含まれる消費者保護と少なくとも同等のレベルの消費者保護を提供しなければならない。さらに、交渉を開始する前、交渉中、対象となる協定に入る前に、財務省とUSTRは、下院金融サービス委員会、下院歳入委員会、上院財政委員会、上院銀行委員会と共同で協議しなければならない。カバード・アグリーメントは、FIOとUSTRが合同で提案されたカバード・アグリーメントを上記の委員会に提出するときにのみ発効する。法律で規定されている90日の延長期間がある。

州の保険措置は、FIO局長が以下の事項を決定した場合にのみ、取って代わられることができる。1)その措置が、その州に、本拠を置き、認可を受け、事業を行うことを認められた米国の保険会社よりも、カバード・アグリーメントに従う外国の管轄地域に本拠を置く米国以外の保険会社に対して、有利でない取扱いを導く。 2)その措置が、カバード・アグリーメントと矛盾している。FIOは、優先権を使用するために、ドッド・フランク法に規定されている手順に従わなければならない。
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中村 亮一

研究・専門分野

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