2016年12月09日

欧州経済見通し-17年は政治の年。緩やかな拡大続くが投資の加速は期待できず-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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概況:個人消費主導の緩やかな拡大続く

ユーロ圏では著しく緩和的な金融政策とやや拡張的な財政政策に支えられた内需主導、とりわけ個人消費主導の成長が続いている。

12月6日公表の7~9月期のユーロ圏実質GDPは前期比0.3%、前期比年率1.4%だった。7~9月期は、世界貿易の不振を映して輸出入とも伸び悩み、外需の寄与度は同0.1%のマイナスとなり、内需主導の傾向が強まった(図表1)。

10~12月期も引き続き緩やかなペースながら、拡大のペースはやや加速している。実質GDPと連動性が高い総合PMIは、ユーロ圏全体では2カ月連続で改善、11月は54.1と、拡大と縮小の分かれ目となる50を上回る水準で改善している。経済政策研究センター(CEPR)とイタリア中央銀行が作成するユーロ圏の景気一致指数(ユーロ・コイン指数)も11月まで6ヶ月連続で改善している。

17年の実質GDPは前年比1.4%と予測する。15年の同2%、16年の年間の予測値の同1.6%から鈍化するが、潜在成長率を上回るペースは維持、GDPギャップの縮小も進む見通しだ。
 

個人消費:雇用・所得環境の改善により拡大。17年は原油安効果剥落でやや鈍化

個人消費:雇用・所得環境の改善により拡大。17年は原油安効果剥落でやや鈍化

個人消費は、ユーロ圏で景気の緩やかな拡大基調が定着するようになった13年半ば以降、雇用・所得環境の改善と原油安を背景とする低インフレが実質所得を押し上げる効果に支えられてきた(図表2)。7~9月期も個人消費が最大の需要項目だった。

17年も雇用・所得要因による個人消費の拡大は続く見通しだ。しかし、原油安効果の剥落で実質所得の押し上げ効果が鈍るため、拡大のペースはやや鈍化しよう。
図表1 実質GDP/図表2 実質雇用者所得

投資:16年も期待外れ。17年も力強い回復は期待できず

投資:16年も期待外れ。17年も力強い回復は期待できず

固定資本投資は、4~6月期の前期比1.2%から7~9月期は同0.2%に失速、16年年間の伸びは15年の前年比3.2%を下回る見通しだ。欧州連合(以下、EU)の欧州委員会の調査では16年の設備投資は15年10~11月調査の段階では実質前年比7%という強気の計画だったが、今年10~11月調査では同1%まで大きく下方修正された(図表3)。

投資の加速は需要不足の解消と潜在GDP回復の両面から期待されている。世界金融危機以降、ユーロ圏では需要不足が恒常化しており、潜在GDPの回復も遅れているからだ。
投資拡大の環境は整いつつある。設備稼働率は長期平均を上回る水準にあり(図表3)、14年6月以降の欧州中央銀行(ECB)の緩和強化によって、長期の年限までの金利も異例の低水準にある(図表4)。

しかし、投資は17年も低調に推移しそうだ。欧州委員会の調査では、17年は、当初計画の段階から、14年~16年よりも低い実質2%と弱気だ(図表5)。期待される成長率の低さに加えて、不安定な政治・社会情勢が、企業の投資意欲に影響している可能性がある。
図表3 ユーロ圏設備投資計画/図表4 ユーロ圏の最高格付け国のイールドカーブ/図表5 ユーロ圏の稼働率と固定資本投資の伸び率/図表6 ユーロ圏構造的財政収支対名目GDP比前年差

財政政策:やや拡張的なスタンス続く

財政政策:やや拡張的なスタンス続く

投資の不安定な推移に比べ、政府支出は安定的に成長に貢献している。7~9月期は前期比0.5%増で実質GDPを0.1%押し上げた。ユーロ参加国全体では2014年には財政赤字は過剰の目安である対名目GDP比3%を下回るようになっている。政府債務残高の対名目GDP比も15年は90%と14年の92%から低下した。財政健全化が一定程度進展し、成長に配慮したやや拡張的なスタンスとなっている。さらに難民対策費、テロ対策費なども上乗せされている。

17年も財政のやや拡張的なスタンスは続く見通しだ。欧州委員会がユーロ圏参加各国の予算案などをベースに算出した構造的財政収支対名目GDP比の前年差は、財政政策が拡張的か緊縮的かを判断する目安となる。「秋季見通し」で示された最新の試算値によれば16年に比べれば縮小するものの、17~18年も拡張的な運営が続く(図表6)。
 

インフレ率:3年にわたる1%割れ脱却。17年は1.3%に

インフレ率:3年にわたる1%割れ脱却。17年は1.3%に

ゼロ近辺で推移してきたインフレ率(CPI)は、9月前年同月比0.4%、10月同0.5%、11月同0.6%と、エネルギー価格の押し下げ効果の縮小と連動する形で上向きつつある(図表7)。

足もとの原油価格は、トランプ政権の経済政策による米国経済の成長加速への期待とOPECの減産合意による押上げ効果が加わり1バレル=50ドル近辺で推移している。16年初には、一時1バレル=30ドル台を割込む水準にあったことから、17年初にかけては、原油価格による物価押上げ圧力はかなり強く働くことになる。但し、振れ幅の大きき食品とエネルギーを除くコア・インフレ率は前年同月比0.8%と低めの水準で推移している。デフレの脅威は後退したものの、欧州中央銀行(ECB)が物価安定の目安とする「2%とその近辺」への軌道に乗りつつあるとは判断できない。

インフレ率は、15年の前年比ゼロ、16年の同0.2%から17年は1.3%に上向くが、主な要因はエネルギー価格にあり、コア・インフレ率の回復は緩慢なペースと見ている。18年も年間で同1.5%と安定水準を下回る推移が続くと予測する。
図表7 インフレ率/図表8 資産買入れ残高の推移
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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

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