コラム
2016年07月19日

「高齢社会共創センター」構想~高齢化課題解決の「技術」「知」を循環させる新たな拠点

生活研究部 主任研究員   前田 展弘

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高齢化に伴う課題を解決する「社会技術」及び「科学技術」は日進月歩で開発が続けられている。例えば、今年3月にはJST/RISTEX1が支援してきた「地域コミュニティの中で様々な高齢化課題を解決する15のプロジェクト」(図表1参照)が全て終了したが、いずれも高齢化課題の解決に向けた素晴らしい社会技術を開発している。また同じくJSTのS-イノベと称される支援事業においても、「高齢社会を豊かにする科学・技術・システム」として4つの新たな「科学技術」が創成されようとしている(図表2参照)。

さらに、筆者が所属する東京大学高齢社会総合研究機構をはじめ、国立長寿医療研究センター、東京都健康長寿医療研究センター等の様々な研究機関においても、高齢化課題の解決に貢献する新たな「知」を産み出す活動が続けられている。しかしながら、こうした情報は自治体及び企業関係者をはじめ広く一般にはうまく伝わっていないのが現状であろう。
図表1:JST/RISTEX「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」のプロジェクト(2010~15年度)
図表2:JST戦略的イノベーション創出推進プログラム(S-イノベ)「高齢社会を豊かにする科学・技術・システムの創成」のプロジェクト(2010年度~継続中)

こうしたなかで、それらの社会にとって有益な「技術」「知」を社会に拡げる、循環させることを目的とした新たな構想が打ち出された。それが「高齢社会共創センター」構想である。起案者は上述したJST/RISTEXのプロジェクトをリードしてきた秋山弘子氏2であり、この3月に行われたJST主催シンポジウム3でその構想が発表された。

その概要は、理想の未来社会(=「活力と魅力ある高齢社会」)を構成する要素として、(1)いきいきと活躍できる場がある社会、(2)少しでも長く健康でいられる社会、(3)虚弱になっても住み慣れた地域で安心して暮らせる社会であることを掲げながら、「高齢化課題を総合的に解決することを支援する拠点」として『高齢社会共創センター』を設立するということである。

当該センターでは、JSTの支援により蓄積された前述の「技術」「知」のみならず、世の中に点在する高齢化課題解決に資する「技術」「知」を体系的に整理しながら世の中に広く発信すること、また課題解決を求める地域(自治体)等から要請があれば、その課題の解決に最適な「技術」「知」を提供するといった活動を想定している。

当該拠点は2017年4月の設立を予定しており、より具体的な活動は今後計画されていくことになるが、現時点では、例えば、自治体向けに高齢化課題解決をリードできる職員を養成する研修事業であったり、前述したプロジェクトを実践した当事者(専門家等)を要請のあった地域へ派遣(紹介)するといったこと、またインターネットを介して課題解決の「技術」「知」を共有できる仕組みを構築するといったことなどが考えられている。表現が適切でないかもしれないが、当該センターは高齢化課題解決に資する「技術」「知」を適切に循環させる「総合商社」のようなイメージである。

改めてこの構想の意義を考えれば、日本はこれまで高齢化課題の解決に向けた総合的な政策4はあっても、それを総合的に推進する拠点(エンジン)はなかったわけである。一部の地域あるいは一部の機関がそれぞれ独自の取り組みを重ねたものの、それらの「技術」「知」が社会に広く共有されることは少なかったと言える。「高齢化課題解決」という命題は、日本が未来を切り拓いていく上で克服しなければならない大命題であることは言うまでもない。それだけに社会に点在する「技術」「知」を総合的に把握し、適所に活かしていこうとする活動の意義は極めて大きいと考える。この構想が実効的な形で具現化できれば日本の未来に大きく貢献していくことになろう。筆者もこの構想の具現化に協力していくが、絵に描いた餅にならないように、そして高齢化課題を克服した日本の未来の姿を世界に示していけるように、今後も精力的に取組んでいきたいと考えている。
<構想の背景と「高齢社会共創センター」の概要・イメージ>
 
1 JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構) RISTEX(社会技術研究開発センター)
2 東京大学高齢社会総合研究機構 特任教授
3 JST/RISTEX主催平成27年度領域シンポジウム「コミュニティで創る新しい高齢社会のデザイン」(2016年3月4日 於:東京大学安田講堂)
4 高齢社会対策基本法及び高齢社会対策大綱

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生活研究部   主任研究員

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

(2016年07月19日「研究員の眼」)

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