2016年07月13日

利益調整に関する財務指標に着目した信用リスク分析-「粉飾」に起因した企業倒産の予見は可能か?

金融研究部 准主任研究員   福本 勇樹

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■目次

1――はじめに
2――利益調整に着目した不正会計検出モデル
3――日本におけるAccruals Ratioの特徴
  1|Accruals Ratioの計算
  2|日本の倒産企業と非倒産企業のAccruals Ratioに見られる差異
4――順序ロジットモデルを用いた倒産確率の推定
5――Altman Z ScoreモデルとAccruals Ratioの関係
  1|Altman Z Scoreモデルとは
  2|Altman Z ScoreモデルとAR Scoreの関係
  3|Altman のZ Scoreに生じた変化
6――まとめ

※本稿は2015年10月19日「基礎研レポート」を加筆・修正したものである。
 

1――はじめに

1――はじめに

帝国データバンクの『2014年度 コンプライアンス違反企業の倒産動向調査』によれば、日本においてコンプライアンス違反1に起因した企業倒産が増加傾向にある。特に「粉飾」2に該当する倒産件数が増加しており、2014年度は2005年度以降の調査で最多の88件(2008年度と比較して2倍)でコンプライアンス型倒産全体の約40%を占めている。一般的に外部から企業のコンプライアンス違反を事前に把握することは難しく、一度問題が発覚すると昨今の情報社会の発達から急速なスピードで情報が拡散していくことで、短期間に株価や債券価格の急落をもたらし、最悪の場合は倒産してしまうこともありえる。よって、債権者や投資家にとってコンプライアンス型倒産を意識した信用リスク分析は重要な課題の一つではないかと思われる。

信用リスクの分野では、株価、CDSや債券価格といった市場価格を分析することで信用リスクを把握しようとする方法と、財務分析を行うことで信用リスクを把握しようとする方法の、大きく2つに分類される。特に、後者の典型的な分析手法を用いた場合、財務分析に使用する数値が企業によって「良く」見えるように調整されている状況では企業の信用力の悪化を事前に把握するのは難しい。本レポートは、この後者の典型的な財務分析手法における問題点を補完するような、特に「粉飾」に起因した信用力の悪化をできる限り事前に把握できないか模索することを目的としている。

「粉飾」に関する米国の先行研究では、利益が増加する方向に利益調整を行う企業は不正会計を起こす可能性が高いことが指摘されている。この観点から、利益調整の兆候を分析することで不正会計の検出を目指すようなモデルが提唱されている。本レポートでは、この「利益調整」に着目して、Accruals Ratio(純営業資産の変化率)を用いた分析を行うことで、業績悪化による企業倒産だけではなく、「粉飾」に起因した企業倒産も含めて信用力悪化の兆候を検出できる可能性があることについて紹介する。2000年度以降に倒産した東証一部・二部の上場企業に関して、倒産する直前の過去5年間の会計年度にわたってAccruals Ratioを分析すると、比較的信用力の高い非倒産企業とは統計的に異なる特徴があることが分かった。また、特に2006年以降において、「粉飾」起因に限らず、「過度な利益調整」に耐えきれずに企業倒産したと解釈できるケースが増えていることについても言及する。

最後に、利益調整に関する財務指標に着目した定量的な信用リスク分析手法について提案し、Accruals Ratioを用いた分析の有効性についてリスク管理モデルの観点から検証を試みる。また、AltmanのZ Scoreモデルのような通常の財務分析手法では信用力が悪化していることを捕捉するのが難しい企業に対して、本レポートの手法を使用することでその異常な兆候を検知できる可能性があることについても紹介する。
 
1 帝国データバンクの資料では、コンプライアンス違反に該当するものとして「粉飾」、「業法違反」、「談合」、「資金使途不正」などが例として挙げられている。
2 帝国データバンクの資料では、「粉飾」は「不正経理や融通手形などで決算数値を過大(もしくは過小)に見せる」ことと説明している。
 

2――利益調整に着目した不正会計検出モデル

2――利益調整に着目した不正会計検出モデル

不正会計の検出モデルの一例であるM Scoreモデル提案したBeneishは、利益を増加させる方向に利益調整を行う企業は、その程度が大きければ大きいほど翌年に不正会計を行う可能性が高いことを発見した。

一般的に利益調整は会計的裁量行動と実体的裁量行動に分類される。会計的裁量行動とは、一定の会計ルールの枠組みの中で、企業活動そのものには変更がないものの、財務諸表上の計算方法を変更することで利益調整を行うことを指す。例えば、減価償却の方法の変更(定率法から定額法への変更など)、棚卸資産の評価法の変更(先入先出法から後入先出法への変更など)などが該当する。また、実体的裁量行動とは、値引販売、研究開発費の削減や広告費の削減といった企業活動そのものを変更することで利益調整を行うことを指す。

企業が公表する財務数値はその企業自身や経営者の評価に影響するため、企業には利益調整を行うインセンティブがあることが指摘されている。特に、財務諸表の数値が一定の水準を超えて悪化した場合は、金融機関等からの借り入れを行うことが難しくなる。また、証券市場においても株価や債券価格が下落し、投資家や債権者の求めるリスクプレミアムが上昇するなどして調達コストが上昇するため、直接市場を通じて新たな資金調達を行うことも難しくなるであろう。よって、企業の信用力がかなり悪化している状況において、一定水準以上の財務指標の悪化はすぐさま企業活動の継続に影響してしまうため、企業サイドに利益調整だけではなく不正会計を行って財務諸表を良く見せようとするインセンティブが強く働くことが想定されるであろう。

具体的に、Beneishは以下の8つのファクターを用いたM Scoreモデルを提案し、利益調整と不正会計を行う企業行動との関係について説明を試みた3
 
    M Score = -4.84 + 0.920×DSRI + 0.528×GMI + 0.404×AQI + 0.892×SGI
          + 0.115×DEPI + (-0.172) ×SGAI + 4.679×TATA + (-0.327) ×LEVI

(1)DSRI: Days Sales Receivable Index(売上債権の変化)
 DSRI = [売上債権/売上高](t)÷[売上債権/売上高](t-1)
 この数値が大きく上昇すると、過剰な収益認識の前倒しや架空売り上げの可能性が大きくなることが示唆される。

(2)GMI: Gross Margin Index(利益率の変化)
 GMI = [(売上高-売上原価)/売上高](t-1)÷[(売上高-売上原価)/売上高](t)
 この数値が大きいとき、利益率が低下していることを示しており、利益調整のインセンティブが経営者に働くものと解釈できる。

(3)AQI: Asset Quality Index(有形固定資産(償却なし)や無形固定資産の変化)
 AQI = [1-(流動資産+有形固定資産(償却あり))/総資産](t)
                  ÷[1-(流動資産+有形固定資産(償却あり))/総資産](t-1)
 この数値が上昇すると、無形固定資産等を通じて、費用を過大に資産化している可能性が示唆される(水面下の収益性悪化が生じている可能性がありうる)。

(4)SGI: Sales Growth Index(売上高の変化)
 SGI = [売上高](t)÷[売上高](t-1)
 この数値の上昇そのものが不正を表しているわけではないものの、成長企業において不正会計を行うインセンティブがあることに依拠したもの。

(5)DEPI: Depreciation Index(減価償却費の変化)
 DEPI = [償却率](t-1)÷[償却率](t)
 資産の償却率が減少すると、費用認識を後ろ倒しにするような利益調整を行っている可能性が高いことが示唆される。

(6)SGAI: SGA Index(売り上げに占める販管費の変化)
 SGAI = [販管費/売上高](t)÷[販管費/売上高](t-1)
 この数値が上昇すると、利益調整を行う可能性が高まるかもしれないため導入したもの。

(7)TATA: Accruals to Total Asset(現金回収より先に認識した会計利益の変化)
 TATA = [会計発生高](t)÷[総資産](t)
 ※会計発生高 = 当期利益(特別損益は含まない)-営業活動によるキャッシュフロー
 この比率と不正会計の発生において正の相関があることを仮定して導入したもの。

(8)LEVI: Leverage Index(負債比率の変化)
 LEVI = [負債総額/総資産](t)÷[負債総額/総資産](t-1)
 この数値が上昇すると、負債による資金調達の比率が大きくなり、コベナンツ等の影響により利益調整のインセンティブが働くとの仮定に基づいて導入されたもの。

BeneishのM Scoreモデルではこれらの8つのファクターを用いてスコアを計算し、-1.78を基準としてそれよりもスコアが高い場合は、分析対象の企業が不正会計を行っている可能性が高いと判定する。特に係数が大きく、また上記の仮定と整合的に正負の符号が一致するもの(DSRI、GMI、AQI、SGI、DEPI、TATA)が不正会計の検出に貢献する可能性が高い財務指標と考えられる。
 
3 これらのファクターに関する日本の会計基準に対応させた解釈については、「不正会計の早期発見に関する海外調査・報告書」(大城直人, FSA Institute Discussion Paper Series, 2014年8月)を参考にした。

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金融研究部   准主任研究員

福本 勇樹 (ふくもと ゆうき)

研究・専門分野
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