2016年06月06日

【5月米雇用統計】雇用統計は全般的に悪化、労働市場の回復持続性に疑問符を付ける内容

経済研究部 主任研究員   窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数は増加ペースが大幅に鈍化、予想も下回る

6月3日、米国労働省(BLS)は5月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で10年9月以来の低水準となる+3.8万人の増加1(前月改定値:+12.3万人)に留まり、前月や市場予想の+16.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は4.7%(前月:5.0%、市場予想:4.9%)と、こちらは前月、市場予想を下回り改善を示した(後掲図表6参照)。一方、労働参加率2は62.6%(前月:62.8%)と2ヵ月連続の低下となった(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:前月の結果と併せ、労働市場の回復持続性に疑義が生じる結果

5月の雇用者数は、前月から伸びが大幅に鈍化したほか、過去2ヵ月の雇用者数も合計▲5.9万人下方修正された。この結果、月間平均雇用増加数は16年1-3月期の+19.6万人増から4-5月期は+8.1万人増と、1桁台の伸びに急減速しており、4月以降の鈍化が顕著となった。また、4月では特定の業種に限定されていた雇用の伸び鈍化も、5月は広範な業種に拡大しており、事業所調査は全般的に悪化したと結論せざるを得ない。

さらに、失業率が4.7%への低下を示した家計調査でも、その理由が主に労働参加率の低下によるものであり、労働需給の改善を意味しているものでないことから、事業所調査と同様に労働市場の悪化を示す結果であったと言える。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 一方、時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比が+0.2%(前月:+0.4%、市場予想:+0.2%)、と前月から鈍化したものの、市場予想並みのプラスの伸びを維持した。さらに、前年同月比では+2.5%(前月:+2.5%)と、こちらは前月並みの伸びとなっており、賃金上昇率は底堅い伸びを維持した(図表1)。

このようにみると5月は、4月の冴えなかった結果と併せて、労働市場の回復持続性に疑問符を付けるような非常に悪い結果であったと言える。これで今月中旬に予定されているFOMCでの追加利上げの可能性は事実上消滅したと思われる。

一方、雇用統計以外に目を向けると、後述のADP社統計や失業保険新規申請件数など労働市場の回復持続を示唆する統計があるほか、1日に発表された地区連銀景況報告においても労働市場の需給タイト化が示されていたことから、労働市場の回復が頓挫したと結論づけるのは時期尚早とみられる。

米国の4-6月期成長率は、好調な個人消費を背景に前期からの改善が見込まれているほか、これまで物価を押下げてきた原油価格の持ち直しもあり、労働市場以外では景気、物価面で追加利上げを実施する環境は整ってきている。このため、来月上旬に発表される6月雇用統計が再び雇用の再加速を示せば、FRBが7月に追加利上げを実施する可能性は依然残っているとみられる。
 

3.事業所調査の詳細:広範な業種で雇用の伸びが鈍化

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+6.1万人(前月:+14.4万人)と、前月から伸びが大幅に鈍化した(図表2)。

サービス部門の中では、大手通信会社の従業員ストの影響から、情報関連が前月比▲3.4万人(前月:+0.3万人)と大幅に減少したほか、人材派遣が▲2.1万人(前月:0.5万人)と減少に転じたことから、専門・ビジネスサービスが+1.0万人(前月+5.5万人)と伸びが鈍化した。一方、前月減少した小売は+1.1万人(前月:▲0.5万人)とプラスに転じたほか、医療サービスは+4.6万人(前月:+3.6万人)と伸びが加速した。

財生産部門は、前月比▲3.6万人(前月:▲1.4万人)と減少幅が拡大した。資源関連が▲1.0人(前月:▲1.0万人)と減少したほか、建設業も▲1.5万人(前月:▲0.5万人)と2ヵ月連続で減少した。さらに、製造業は▲1.0万人(前月:+0.2万人)も、前月から減少に転じた。

最後に、政府部門は+1.3万人(前月:▲0.7万人)と、こちらは前月から増加に転じた。内訳をみると連邦政府が+1.2万人(前月:▲0.4万人)、州・地方政府が+0.1万人(前月:▲0.3万人)と、いずれも前月から増加に転じた。
前月(4月)と前々月(3月)の雇用増(改定値)は、前月が+12.3万人(改定前:+16.0万人)と▲3.7万人下方修正されたほか、前々月も+18.6万人(改定前:+20.8万人)と▲2.2万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲5.9万人の下方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って6月2日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が+17.3万人(前月改定値:+16.6万人、市場予想:+17.3万人)と、こちらはBLSの統計と異なり、高い水準を維持したほか、前月から改善する結果となった。

5月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が25.59ドル(前月:25.54ドル)となり、前月から+5セント増加した。週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.4時間)と、こちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は880.30ドル(前月:878.58ドル)と、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働力人口が2ヵ月連続で大幅に減少

家計調査のうち、5月の労働力人口は前月対比で▲45.8万人(前月:▲36.2万人)と、前月から減少幅が拡大した。内訳を見ると、就業者数が+2.6万人(前月:▲31.6万人)と小幅ながら増加に転じた一方、失業者数が▲48.4万人(前月: ▲4.6万人)と大幅に減少した影響が大きい。失業者数の減少は、職探しを諦めて労働市場から退出した人が増加した結果である。実際、非労働力人口は+66.4万人(前月:+56.2万人)と、14年4月の+99.2万人以来の増加となった。これで非労働力人口の増加も2ヵ月連続となり、労働需給改善の滞りが鮮明になってきている。

この結果、労働参加率は62.6%と2ヵ月連続の低下となり、15年9月からの改善幅も僅か0.2%ポイントに縮小した(図表5)。

失業率は4.7%と5ヵ月ぶりに低下したものの、職探しを諦めて労働市場から退出した人が増えた影響が大きい(図表6)。このため、失業率の低下は労働需給が改善していることを示しておらず、労働市場の実態を過大評価していると言え、失業率の低下を喜べない状況となっている。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、5月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、188.5万人(前月:206.3万人)となり、前月対比では▲17.8万人(前月:▲15.0万人)と2ヵ月連続で減少した。この結果、長期失業者の失業者全体に占めるシェアも、25.1%(前月:25.7%)と前月から低下した(図表7)。さらに、平均失業期間も26.7週(前月:27.7週)と、2ヵ月連続で改善した。
最後に、周辺労働力人口(171.3万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(643.0万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、5月は9.7%(前月:9.7%)と前月から横這いとなった(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は5.0%ポイント(前月:4.7%ポイント)と、前月から+0.3%ポイント拡大した。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

(2016年06月06日「経済・金融フラッシュ」)

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