2016年04月25日

EUソルベンシーIIの動向-EIOPAがUFR(終局フォワードレート)の見直しに関するコンサルテーション・ペーパーを公表-

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4―今回のUFRの見直し提案に対する反応

以上、今回のEIOPAによるUFR見直しに関するコンサルテーション・ペーパーの概要について、報告してきた。今後、今回のコンサルテーション・ペーパーに対する関係者の意見を踏まえて、具体的な見直し案が決定されていくことになる。
IAISにおける検討状況も踏まえて、個人的には3.5%という水準が1つの目安になると想定していたが、今回提示された案によれば、3.7%とやや高めの水準に設定されることになる。しかも、保険業界が強く要望していたように、UFR水準の変更(引き下げ)による一時的な責任準備金積立負担の影響を緩和するための段階的措置も組み込まれていくことになる。
今回のコンサルテーション・ペーパーに対しては、欧州の保険業界団体であるInsurance Europeが早速、以下のような意見を公表5している。

1|Insurance Europeの意見
意見のタイトルとしては「UFR(の概念)が誤解されていることに対する懸念を表明」「UFRに対するいかなる変更もソルベンシーIIのレビュー6を待つべき」となっている。
具体的には、例えば「ユーロに対するUFRの水準4.2%については、それが実際の割引率として、使用されているわけではなく、実際の割引率ははるかに低い。」として、「EIOPAが2016年3月に公表した金利によれば、10年では0.46%、60年でも2.81%であり、実際の運用利回りはこれらの金利を上回っている。」としている。
さらに、Insurance EuropeのOlav Jones事務局次長は「会社は、リスクマージンのようなソルベンシーIIの他の要素をカバーするために追加資産を保有しており、さらに超低金利を含む広範囲の極端に不利な状況下に対処できるようにソルベンシー資本を有している。」と述べている。
「ソルベンシーII指令は、UFRが長期間にわたって安定的であり、長期の期待の変化によってのみ調整されるべきである、と述べている。これは、UFRの変更が、保険会社のバランス・シートに人為的な変動を作り出し、不確実性をもたらし、長期負債評価の安定性を提供するというUFRの目的を否定することになる、というように、極めて大きな影響がある、ためである。」とし、「安定性が極めて重要であり、既に共同立法者の間で合意されたように、UFRは長期保証措置とオムニバスIIの結果と連携され続けるべきである。」としている。
さらに、Olav Jones事務局次長は「こうした点を考慮すると、Insurance Europeは、UFRに焦点を当てることは、きちんとした理由付けがないものであり、いかなる短期の変更も適当でない、と考えている。ソルベンシーIIに関係する膨大な業務と低金利への追加的なプレッシャーを考慮すれば、保険会社が、保険負債評価に使用される重要な基礎となるパラメータに不必要な不確実性を持たずに、実施し、ビジネスモデルを適応させることに集中できるようにすべきである。」と述べている。

2|ESRBの反応等
一方で、現行のUFRの水準に対して、厳しい批判を行ってきたESRB(欧州システミックリスク理事会:European Systemic Risk Board)が、今回の提案に対してどのように反応するのかについては、大変気になるところである。
「現在の市場の期待や最近の学術研究によれば、短期実質金利の長期平均2.2%は0.5%から1.0%ポイントは楽観的である。」と述べていたことからすれば、今回の1.7%という水準は、一応その範囲内にあるとの見方もできるのかもしれないが、かなり厳しい意見も提出されることが想定される。

5―まとめ

5―まとめ

いずれにしても、UFR水準の設定やその見直しの方法については、Insurance Europeや今後提出される各種の意見を踏まえて、さらに検討されていくことになる。
新しいUFR水準の設定については、日本の3.7%という数字を含めて、その水準の根拠については、各国の中央銀行の2%等のインフレ目標がその前提になっている。こうして設定されるUFR水準に基づく責任準備金評価を、今後その性格付けを踏まえて、どのような意味合いを有するものとして位置付けていくのかについては、大変興味深いものがある。
もちろん、ソルベンシー評価のための責任準備金評価については、基本的には、監督当局が適正あるいは適当と思われる方式に設定していくものである。重要なことは、そうして決定される方式や考え方の妥当性・合理性等の説明責任をしっかり果たしていくことにあると思われる。
UFRを巡る議論は極めて注目されているものである。今後も、EIOPAやIAIS等における検討状況やそれに対する関係者の反応等を注視し、議論の行方や決着の状況をフォローしていくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2016年04月25日「保険・年金フォーカス」)

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