2016年04月22日

米国製造業の動向-製造業の不振も、米国のリセッションに繋がる可能性は低い

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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3.米国経済への影響

(図表10)実質GDP成長率と鉱工業生産 (1)景気循環と鉱工業生産:鉱工業生産と米リセッションの相関は高くない
米鉱工業生産の落込みが米経済のリセッションに繋がるのではとの懸念が一部にあるようだ。そこで、過去の景気循環と鉱工業生産指数の動向を確認したい。全米経済研究所(NBER)が判定する景気後退局面は、1950年以降(263四半期)に10回あり、合計期間は47四半期(全体の18%)となっている(図表10)。このうち、鉱工業生産が前期比で減少している期間は37四半期と、景気後退期間の8割弱程度となっている。
一方、1950年以降に鉱工業生産が減少した期間は63四半期あるため、鉱工業生産が減少した期間のうち4割程度は米景気後退期に該当していない。このことは、景気後退期には鉱工業生産が減少する傾向があるが、鉱工業生産の減少が必ずしも景気後退に繋がっている訳ではないことを示している。
(2)産業別シェア(GDP、雇用):製造業のシェアは大幅に低下
さらに、米国経済において製造業の重要性は長期に亘り低下している。産業別のGDPと雇用者数のシェアを確認しよう。産業別のGDPシェアを1950年と2014年で比較すると、鉱業(2.6%→2.6%)と、建設業(4.3%→3.8%)では大きな変動はないものの、鉱業および建設業以外の製造業(26.8%→12.1%)ではシェアが半分以下となるなど、大きく落込んでいることが分かる(図表11)。
一方、雇用者シェアを1958年と2015年で比較すると、鉱業(1.4%→0.5%)、建設業(5.6%→4.5%)と小幅に低下しているほか、製造業(28.5%→8.7%)ではGDPシェアより落ち込みが顕著となっている。製造業は、50年代には雇用の3割程度を創出しており重要な業種であったが、足元では1桁台後半の雇用創出に留まっており、労働市場における重要性は非常に低い(図表12)。
(図表11)産業別GDPのシェア/(図表12)産業別雇用者シェア
このようにみると、過去のデータは鉱工業生産の減少が必ずしも米景気後退に繋がる訳ではないことを示しているほか、米産業構造における製造業の重要性が低下していることが分かる。このため、足元の米製造業の不振が米経済のリセッションを引き起こすとの懸念は行き過ぎだろう。

はじめに

4.今後の見通し

前記のように、製造業出荷や民間設備投資の先行指数であるコア資本財の新規受注額は、足元で減少幅が拡大しているため、これらの指標からは、生産や設備投資の面で製造業の回復が見通せない状況となっている。
もっとも、製造業不振の要因の一つとなっている原油安については、16年2月に30ドル割れまで落込んだ後、足元(4月22日現在)では40ドル台前半まで上昇しており、下値不安は一旦後退している。このため、原油価格がこのまま安定すれば資源関連の生産や設備投資の減少に歯止めがかかるとみられる。
(図表13)ISM指数および実質実効レート また、ドル高も足元では是正されている。米ドル実質実効レートは、16年1月以降ドル安の動きとなっており、それに連動するように大企業製造業の企業センチメントを示すISM製造業指数は、総合指数が15年9月以来6ヵ月ぶりに拡大と縮小の境となる50の水準を上回った(図表13)。さらに、新規輸出受注も14年12月以来の水準に回復していることから、短期的には輸出が回復する可能性が高くなっている。
ただし、足元のドル高是正は、投資家のリスク回避指向の高まりに伴い、安全通貨としての円高が進んでいるなどの一時的な要因によると考えられ、今後、資本市場が安定しリスク回避姿勢が弱まれば、再び米金利先高観測を背景にドル高に復するとみられる。このため、ドル高解消に伴う製造業の回復持続性は乏しいだろう。
(図表14)世界経済、財輸出見通し 一方、世界的にみれば製造業を取り巻く環境は好転が期待できる。16年4月に発表されたIMFの世界経済見通しでは、世界経済は新興国の景気回復により、成長率が15年の前年比+3.1%から16年は同+3.2%に小幅ながら成長が加速するとみられるほか、財輸出についても、数量指数が15年の+2.3%から16年には+2.7%に加速すると予想されている(図表14)。
このため、製造業を取り巻く環境は16年以降に好転が見込まれる。もっとも、米国では今後もドル高基調の持続を予想するため、米製造業の回復は、世界市場に劣後しよう。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年04月22日「Weekly エコノミスト・レター」)

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