2016年04月04日

【3月米雇用統計】失業率は悪化したものの、労働参加率が改善しており問題なし。労働市場の回復継続を確認

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:失業率は悪化も、雇用者数は予想を上回る

4月1日、米国労働省(BLS)は3月の雇用統計を公表した。非農業部門雇用者数は前月対比で+21.5万人の増加1(前月改定値:+24.5万人)と、前月から伸びは鈍化したものの、市場予想の+20.5万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を上回った(後掲図表2参照)。
失業率は5.0%(前月:4.9%、市場予想:4.9%)と、こちらは前月、市場予想に比べて悪化した(後掲図表6参照)。一方、労働参加率2は63.0%(前月:62.9%、市場予想:62.9%)と、こちらは、前月および市場予想を上回った(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:失業率は小幅悪化も、全般的に労働市場の着実な回復を確認する内容

(図表1)時間当たり賃金の伸び率 3月の雇用者数は、2ヵ月連続で20万超の増加となったほか、16年1-3月期の月間平均増加数でも20.7万人と、冴えなかった1月を含めても20万人超の好調なペースで増加していることが確認された。
一方、失業率は前月から小幅悪化したものの、労働参加率が4ヵ月連続で上昇していることから、職探しを諦めた人が職探しを再開した結果であり、労働市場の回復鈍化を意味しない。寧ろ、これまでのレポートで指摘してきたように、労働市場が本格回復するためには労働参加率の改善が不可欠で、その過程では一時的に失業率が悪化する可能性がある。3月の結果はまさにその予想に沿った動きと考えている。
さらに、2月に予想外に悪化した時間当たり賃金(全雇用者ベース)も、3月は前月比+0.3%(前月:▲0.1%)と、プラスに転じたほか、市場予想(同+0.2%)も上回った。また、前年同月比でみても+2.3%(前月:+2.3%)と昨年みられた2%近辺からは水準が上方シフトしたことが伺われる(図表1)。
このようにみると、3月の結果は、労働市場の本格的な回復が持続していることを確認する内容だったと言える。
もっとも、金融政策の見通しと絡めて3月の結果を評価すると、賃金上昇率は改善を示しているものの、インフレの加速が懸念される水準とはほぼ遠く、4月の追加利上げを決定させるほど強い内容でなかったとみられる。さらに、労働市場の順調な回復が持続する一方、消費は労働市場や所得の回復に見合う水準に拡大していないことから、当面FRBは6月の追加利上げが可能か、虚心坦懐に経済指標等を慎重に判断する局面が続こう。
 

3.事業所調査の詳細:資源関連、製造業の雇用減少が持続

(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 事業所調査のうち、非農業部門雇用増の内訳は、民間サービス部門が前月比+19.9万人(前月:+25.1万人)と、前月から伸びは鈍化したものの、高い水準を維持した(図表2)。
サービス部門の中では、小売業が前月比+4.8万人(前月:+6.7万人)増加したほか、医療サービス+4.4万人(前月:+5.8万人)、娯楽・宿泊+4.0万人(前月:+4.5万人)などが高い伸びとなった。また、人材派遣が+0.4万人(前月:▲1.2万人)と、前月の減少から小幅ながら増加に転じたこともあり、専門・ビジネスサービスは+3.3万人(前月:+3.3万人)と伸びが加速した。
一方、財生産部門は▲0.4万人(前月:▲1.5万人)と、こちらは2ヵ月連続で雇用が減少した。資源関連が▲1.2人(前月:▲1.8万人)となったほか、製造業も▲2.9万人(前月:▲1.7万人)と、減少が続いており、原油安やドル高が影響しているとみられる。建設業はこれらの業種とは対照的に+3.7万人(前月:+2.0万人)と、雇用増加が加速しており、好調な住宅市場を反映している。
政府部門は+2.0万人(前月:+0.9万人)となった。内訳をみると連邦政府が+0.2万人(前月:+0.5万人)となったほか、州・地方政府が+1.8万人(前月:+0.4万人)と、いずれも前月から伸びが加速した。
 
前月(2月)と前々月(1月)の雇用増(改定値)は、前月が+24.5万人(改定前:+24.2万人)と+0.3万人上方修正された一方、前々月は+16.8万人(改定前:+17.2万人)と▲0.4万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲0.1万人の下方修正となった(図表3)。
 
なお、BLSの公表に先立って3月30日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増が+20.0万人(前月改定値:+20.5万人、市場予想:+19.5万人)と、BLSの雇用統計と同様に前月から伸びが鈍化するものの、市場予想を上回る結果となった。
 
3月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が25.43ドル(前月:25.36ドル)となり、前月から+7セント増加した。週当たり労働時間は34.4時間(前月:34.4時間)と、こちらは前月から横這いとなった。その結果、週当たり賃金は874.79ドル(前月:872.38ドル)と、前月から増加した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:労働参加率が4ヵ月連続で改善

家計調査のうち、3月の労働力人口は前月対比で+39.6万人(前月:+55.5万人)と、前月から伸びは鈍化したものの、6ヵ月連続の増加となった。内訳を見ると、失業者数が+15.1万人(前月: +2.4万人)と前月から伸びが加速した一方、就業者数が+24.6万人(前月:+53.0万人)と、伸びが鈍化した。失業者の増加は、職探しの再開に伴う労働市場への再参入の影響とみられる。非労働力人口はそれを反映する形で▲20.6万人(前月:▲37.4万人)と、大幅な減少となった。
この結果、労働参加率は4ヵ月連続の改善となり、15年9月の底から改善幅は0.6%ポイントとなった(図表5)。一部では、米国の高齢化の進行もあって、労働参加率は底這いが精一杯で回復しないとの見方もあったが、その見方に反して労働参加率の回復は鮮明になってきた。
失業率は、09年につけた10%から低下基調が持続していたものの、これまでは職探しを諦めた人が増加(非労働力人口が増加)することで、テクニカルに低下した側面が大きかった(図表6)。このため、失業率が労働需給の実態を反映していないとの見方が強かったが、3月の失業率の上昇は、その歪みが修正されたとみるべきで、4月以降も失業率の低下に歯止めがかかる可能性はあるものの、労働参加率の改善を伴っていればそれほど問題ではないと考えている。
 
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
次に、3月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は、221.3万人(前月:216.5万人)となり、前月対比では+4.8万人(前月:+7.6万人)と3ヵ月連続で増加した。もっとも、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは、27.6%(前月:27.7%)と、こちらは4ヵ月ぶりに低下した(図表7)。さらに、平均失業期間も28.4週(前月:29.0週)と、4ヵ月ぶりに改善した。
最後に、周辺労働力人口(172.0万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(612.3万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4をみると、3月は9.8%(前月:9.7%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)と広義の失業率(U-6)の差は4.8%ポイント(前月:4.8%ポイント)と、前月から横這いとなった。
 
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年04月04日「経済・金融フラッシュ」)

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