2016年03月25日

中国経済:景気指標の総点検と今後の注目点(2016年春季号)

三尾 幸吉郎

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【工業生産者出荷価格】
物価も景気と密接な関係がある。生産したモノに対する需要が強ければそのモノの値段は上がり、需要が弱ければ下がるからである。足元の工業生産者出荷価格を見ると、2月は前年同月比4.9%下落と直近最低値(同5.9%下落、昨年8-12月)に比べればマイナス幅が縮小した。原油価格の下げ止まりを受けて、生産財(特に採掘・原材料工業)のマイナス幅が縮まった(図表-11)。しかし、前月比では2月も生産財が0.5%下落しており、下げ止まったとは言い難い(図表-12)。工業生産者出荷価格が下落した背景には、世界的な原油安に加えて、中国が抱える過剰生産設備問題があるだけに、その調整スピードが緩慢な場合にはデフレ圧力が燻り続けることになると思われる2
 
(図表11)工業生産者出荷価格(前年同月比)/(図表12)工業生産者出荷価格(前月比)
 
2 過剰生産設備問題とデフレ圧力との関連に関しては「中国経済見通し」Weeklyエコノミスト・レター2016-2-26を参照
【通貨供給量(M2)】
金融動向と景気にも連動する傾向がある。足元の通貨供給量(M2)の動きを見ると、2月は前年同月比13.3%増と1月の同14.0%増より0.7ポイント低下したものの、引き続き「13%前後」とした2016年の政府見通しを上回っている(図表-13)。一方、銀行サイドから見ると、投資に結び付くことの多い中長期融資の伸びが、M2が伸びを高めた昨年7月以降も鈍化していた(図表-14)。しかし、その中長期融資が、今年1月以降は高い伸びを示し始めたことから、プロジェクトファイナンスなどによるインフラ投資が動き出す可能性があると思われる。
 
(図表13)通貨供給量(M2)の推移/(図表14)中長期融資の推移

4.今後の注目点

4.今後の注目点

(図表15)小売売上高の推移 【1】好調だった消費は減速するのか?
昨年は消費が好調だった。最終消費の経済成長率への寄与度は4.6ポイントと前年より0.9ポイント改善、景気を下支えした。その背景には、原油安や過剰生産設備によるデフレ圧力でインフレ率が下がったために、全国住民一人あたり可処分所得が実質で前年比7.4%増と高い伸びを示したことがある。前述のとおり小売売上高は今年に入り伸びが鈍化、実質所得の伸び鈍化で今後も消費が減速するのか注目している(図表-15)。
(図表16)新規着工プロジェクト計画投資総額の推移 【2】不振だった投資は復調するのか?
昨年は投資が減速を続けた年でもあった。総資本形成の経済成長率への寄与度は2.5ポイントと前年より0.9ポイント悪化、景気を押し下げた。過剰生産設備を抱える製造業や在庫を抱える不動産業の落ち込みが背景にある。前述のとおり今年に入っても投資に明らかな改善は見られないが、中長期融資が高い伸びを示し、新規着工プロジェクト計画投資総額も高い伸びで滑り出したことから、今後の投資動向が注目される(図表-16)。
 
(図表17)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅)の推移 【3】住宅市場は本格的な回復に向かうのか?
深圳市(広東省)では図表-17に示したとおり住宅価格が急上昇している。ところが、巨大都市では上昇しているものの、地方では下落が続く都市も多く、その流れは地方まで十分には波及していない。中国政府は高水準の在庫が景気の足かせとなることを警戒、地方の販売に関しては規制緩和する方向である。しかし、全国一律で緩和すれば巨大都市ではバブル再燃の恐れがあるため、巨大都市では規制を強化し、地方都市では規制を緩和するという難しい舵取りとなっている。上昇の流れが地方まで波及してこそ、住宅市場は本格的な回復といえるだけに、今後の動向に注目したい。
 
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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2016年03月25日「Weekly エコノミスト・レター」)

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