2016年03月22日

欧州年金基金に対するストレステストの結果-低金利が長引くと深刻な影響が

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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3DCに対するストレステストの結果~金利低下はとくに若齢層の年金受取額に大きなダメージをもたらす
DCについては、常に資産と負債は一致しているので、DBと同じような評価は意味がない。このストレステストでは、年金給付額(所得代替率,すなわち加入者の現役時の賃金に対する受取年金額の割合、で評価)の現状と、ストレスシナリオによりそれがどう変動するかを、確認する方式をとっている。また、退職まで35年、20年、5年の3通りの代表的な加入者を設定して、影響をみている。(以後本稿では、35年のほうを若齢層、5年のほうを高齢層と呼ぶ。)
 
まず現状においては、DCだけの所得代替率は、対象基金合計では、3通りの代表年齢とも15~20%となっている。しかしこれは、国によって大きくばらついており、例えばオーストリアやエストニアのように4%程度の国から、オランダのように45%程度まである。これに関してはどうしても各国の公的年金制度でどれだけカバーされているかも見なければならない。これを合算すると、例えばオーストリアは70%程度、エストニアは90%近くなり、むしろ全体の中でも高い率である。もちろんDCの代替率の高いオランダは、合算でも70%近くまでカバーされているなど、公的年金合算では国毎の差があまりなくなる。ストレスシナリオの試算結果はこの公的年金を含めた所得代替率で示される。
 
そうした現状に対して、ストレスシナリオとして、2つの資産下落シナリオ、2つの金利低下シナリオ、および長寿化シナリオの5つが設定されている。
 
資産下落シナリオ1では、所得代替率が10%程度の下落、シナリオ2では20%弱の下落となった。若齢層、高齢層によってあまり差はない模様である。
一方、金利低下シナリオの影響をみると、シナリオ1では、所得代替率が若齢層で18%、高齢層で5%の低下。シナリオ2では、若齢層で24%、高齢層で12%の低下、と退職までの残余期間により大きな差がでる結果となっている。
退職までの期間が短い高齢層にとっては、一時の資産の下落が大きな影響をおよぼし、もはや回復の時間も残されていないので、大きなダメージとなる。一方、若齢者にとっては、一時的な資産価格下落のダメージもあるが、むしろ、金利低下による長期間のインカム収益の減少のほうが深刻なダメージとなる。
 

3――おわりに

3――おわりに

EIOPAのガブリエル・ベルナルディーノ議長は、以下のように総評コメントをしている。
「退職年金のストレステストは、EU全体レベルでの初めての取り組みであり、これにより、異なるストレスシナリオが年金財政の弾力性にもたらす影響に対する、年金監督官の理解が深まった。
年金の負債が長期であるという性質があることを踏まえ、適切な回復期間、保護スキームの役割、スポンサー企業の拠出金の増加、年金給付額の調整を通じて、監督体制においてはこれらのストレスを、透明性をもって取り扱う準備をすることが重要である。
長引く悲観的な市場状況が、スポンサー企業の行動、財務状況の安定性、および実態経済にどのように影響するか、をさらに分析していく必要がある。
EIOPAは、退職年金の分野にも集中して、さらなる監督に取り組んでいく。」
 
ということなので、今後も前提条件などを変えて、こうした調査が行なわれていくようである。まずは、ストレステストと同時並行的に行なわれた定量調査の結果も気になるところであり、判明次第報告する予定である。ソルベンシーIIのような実際の導入に向けては、まだまだ時間をかけた検討が続きそうである。
 
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2016年03月22日「基礎研レター」)

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