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このようにジェロントロジーに関する「社会教育」の機会は存在する一方で、そもそもの「学校教育」においてジェロントロジーに関する教育が進んでいるかと言えば、答えは「NO」だ。大学に絞って話を進めれば、ジェロントロジーを「体系的」に学べる大学は、桜美林大学と東京大学の2校しかない2。桜美林大学は日本で初めてジェロントロジー関連の学位を授与し始めた大学で、当時の東京都老人総合研究所(現在の東京都健康長寿医療センター研究所)の研究者達が教授陣となって、大学院国際学研究科内に「老人学専攻修士課程」を2002年に設置した。また2004年には博士後期課程を増設した(2008年には老年学研究科へ改称されている)。東京大学では日本生命他の寄付によって2006年に設置された「総括プロジェクト機構ジェロントロジー寄付研究部門」(現在の高齢社会総合研究機構に継承)が中心となって、2008年から大学3-4年生及び修士課程の学生を対象にした「学部横断ジェロントロジー教育講座」が開始され、2014年からはジェロントロジーのリーディング大学院3も創設された。ジェロントロジーを学んだことを示す学位を得るには、いずれかの大学に行くしかないのが現状である。
では、大学にとってジェロントロジー教育が必要ではない(ニーズがない)かと言えば、そうでもない。日本学術会議が2010年に全国の大学751校を対象にしたアンケート調査4によれば(アンケートの回答があった大学は361校:国公立106校、私立255校)、3分の2(67%)の大学が、ジェロントロジー教育を「必要」と回答している(図表1)。ではなぜジェロントロジー教育を行っていないのかその理由を尋ねると、「担当する教員がいない」が最も多く、「ジェロントロジーに関する情報が不足している」が次に多い(図表2)。
前述のとおり、「人」がいない、「情報」が少ないということが問題としてある。前者の「人」がいない、という回答には、ジェロントロジー全体を語れる人が少ないということに加えて、高齢者及び高齢社会に精通した教員を束ねる学際的チームが作れないということも含まれていると想像する。確かにジェロントロジー、つまり高齢者や高齢社会のことを体系的に指導するには、医学、生物学、心理学、社会学、福祉学、経済学、政治学、行政学、建築学、工学など、あらゆる専門分野の「知」が必要になる。そうした「知」(人・情報)を集めるためには、まずは東京大学に見られるような「学部横断型の教育プログラム」が一策になると考える。それでも足りない専門分野があるとすれば、自身の大学の垣根を越えて近隣の大学と連携するなかで「大学間連携の教育プログラム」を開発することも可能性としてあるのではないかと考える。ただ、こうしたことを推進するコーディネーター的役割を果たす人が必要である。その人がいなければ話は始まらない。同時にそのコーディネーターが孤立無援にならないように支援する組織も必要となろう。この点、前述した米国のAGHEのような、日本におけるジェロントロジー教育を司る機関(例えば、「日本ジェロントロジー教育協会」のようなイメージ)が創設されると理想的である。“言うは易し、行うは難し”のことではあるが、現代社会に必要とされている「知識」を、未来を支える「学生」に伝えることは社会の重要な役割であろう。ぜひ、今の若者が日本の確かな未来を創造していくために、ジェロントロジー教育が多くの大学で展開されていくことを大いに期待したい。
1 前田展弘「高齢社会検定試験の薦め ~現代社会に不可欠な基礎知識の習得を~」(ニッセイ基礎研・研究員の眼、2013.5.15)
http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=40735
2 特定の学部や専攻の中に「科目」(高齢社会論など)として、ジェロントロジーの一部の内容を伝える教育は多くの大学で実施されている。
3 文部科学省リーディング大学院プログラム「活力ある超高齢社会を共創するグローバル・リーダー養成プログラム:Graduate Program in Gerontology : Global Leadership Initiative for an Age-Friendly Society(GLAFS)」を指す
4 調査実施主体は日本学術会議内に設置された「持続可能な長寿社会に資する学術コミュニティ構築委員会」
5 塚田典子「日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科経営学修士課程における老年学講座の取り組み」(平成21年度総合福祉研究 特集号)より引用
生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任
前田 展弘 (まえだ のぶひろ)
研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン
03-3512-1878
(2016年02月15日「研究員の眼」)
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