コラム
2013年05月15日

高齢社会検定試験の薦め ~現代社会に不可欠な基礎知識の習得を~

生活研究部 上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任 前田 展弘

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「高齢社会検定試験」と聞いて、何のことだと思われた人がほとんどではないだろうか。これは、一般社団法人 高齢社会検定協会が今年の9月14日(土)に第1回の試験を東京大学駒場キャンパスで実施する全く新しい検定試験である。この検定試験は、個人の長寿化、社会の高齢化に伴う課題を解決し、より豊かな未来を築くために必要な知識を提供することを企図して創設されたもので、その中身は総論、個人編、社会編の3部により構成されている。受験にあたっては、(1)「総論+個人編」、(2)「総論+社会編」、(3)「総論+個人編+社会編」の3コースが設定され、「総論」(試験時間30分)、「個人編」(50分)、「社会編」(50分)の試験を個々に受験する。総論の合格を前提に、総論に加えて個人編を合格した場合に「高齢社会エキスパート(個人)」、社会編を合格した場合に「高齢社会エキスパート(社会)」、個人編と社会編も両方合格した場合に「高齢社会エキスパート(総合)」の協会認証資格(称号)が付与される。

なぜこのような検定試験が創設されたのか。その経緯を述べると、日本は超高齢・長寿社会として世界の先頭を歩んでいるが、国民の多くは人生90年という長寿に対して漠然とした将来不安を抱いている。社会は人口の高齢化に伴う多くの諸課題に対して、その解決策を模索している。こうした不安、課題を解決するための知識が求められるが、それを提供できる教育素材も学習機会もなかった。ジェロントロジー(高齢社会総合研究)がまさにその知識を提供する素材となるが、日本でジェロントロジーを学ぶには、東京大学や桜美林大学等の一部の大学に通うか、または米国等に留学するしかなく、これでは社会に必要なこの知識が広まるはずがない。この問題を解決するために、東京大学高齢社会総合研究機構が中心となって(筆者も参加)、世間一般に広くジェロントロジーの知識を広め、個人の人生設計課題の解決や、社会の高齢化課題の解決に役立てるために、本検定試験を創設したのである。なお、東京大学高齢社会総合研究機構は、本検定試験の公式テキストの制作・監修、及び一般社団法人 高齢社会検定協会の事業を研究の側面からサポートしている。

一方で、この試験を受けて(合格して)何に役に立つのか、という疑問を抱かれる人もあるかと思う。職業や何らかの技能に直結するような知識を提供するものでなく、個人の人生設計と社会の高齢化の課題解決のヒントを提供する「総合的な知識(総合知)」を提供する性質であるが故に、具体的な効用が見えづらいということはあるかもしれない。しかし、年を重ねると、からだはどう変化するのか、どのような心理過程を辿るのか、健康長寿に向けて何が必要なのか、高齢期の社会・人間関係をどう考えるべきか、お金や住居の対策をどうするか、親や配偶者の介護が必要なときにどう対処すればよいのか、足腰が弱って移動が困難になったらどうすればよいか、人生90年という長寿に対する人生観をどう持つべきかといった個人の問題から、医療・介護・年金等の社会保障制度をどうすれば維持できるか、住宅政策、移動・交通システムを含めて地域社会及びコミュニティをどのようにデザインしていくべきなのかといった社会の問題までを解決するための基礎知識を学べることは大変魅力的ではないだろうか。また、少なくともジェロントロジーを研究している筆者としては、あらゆる日常生活場面、高齢者と接する場面、企業における商品サービス開発場面、行政・自治体における政策立案場面等、多くの場面で検定試験で学んだ知識が活かせられるものと確信する。

総合知の効用の証明は、国語・算数・理科・社会を学んで何に役立っているかを証明する問いに答えるのと等しく難しい面はあるが、今後この検定試験を学んだ方々から、どのようにその知識がどの場面で活かせたか、その具体事例を収集させて頂くことを通じ、本検定試験のさらなる魅力づくりをはかっていきたいと考える。

ぜひ、本検定試験のテキストをお求めいただくとともに、一人でも多くの人が検定試験にチャレンジしていただくことを大いに期待する。

第1回高齢社会検定試験のご案内>

                  https://www.kentei-uketsuke.com/gerontology/



 
 i 塚田典子「日本大学大学院グローバル・ビジネス研究科経営学修士課程における老年学講座の取り組み」(平成21年度総合福祉研究 特集号)によれば、米国ではジェロントロジーに関して264の教育プログラムが設置されている(2009年時点)。プログラムは、大学及び大学院等から、学位を与えるプログラムに加え、単位認定証を出すプログラム、副専攻・専修、関連コース、またはフェローシップ(特別研究員認定)等を指す

(2013年05月15日「研究員の眼」)

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生活研究部   上席研究員・ジェロントロジー推進室兼任

前田 展弘 (まえだ のぶひろ)

研究・専門分野
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)、超高齢社会・市場、QOL(Quality of Life)、ライフデザイン

経歴
  • 2004年     :ニッセイ基礎研究所入社

    2006~2008年度 :東京大学ジェロントロジー寄付研究部門 協力研究員

    2009年度~   :東京大学高齢社会総合研究機構 客員研究員
    (2022年度~  :東京大学未来ビジョン研究センター・客員研究員)

    2021年度~   :慶応義塾大学ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター・訪問研究員

    内閣官房「一億総活躍社会(意見交換会)」招聘(2015年度)

    財務省財務総合政策研究所「高齢社会における選択と集中に関する研究会」委員(2013年度)、「企業の投資戦略に関する研究会」招聘(2016年度)

    東京都「東京のグランドデザイン検討委員会」招聘(2015年度)

    神奈川県「かながわ人生100歳時代ネットワーク/生涯現役マルチライフ推進プロジェクト」代表(2017年度~)

    生協総研「2050研究会(2050年未来社会構想)」委員(2013-14、16-18年度)

    全労済協会「2025年の生活保障と日本社会の構想研究会」委員(2014-15年度)

    一般社団法人未来社会共創センター 理事(全体事業統括担当、2020年度~)

    一般社団法人定年後研究所 理事(2018-19年度)

    【資格】 高齢社会エキスパート(総合)※特別認定者、MBA 他

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