2016年01月08日

「高齢者」やめませんか

基礎研REPORT(冊子版) 2016年1月号

生活研究部 シニアマーケティングリサーチャー   井上 智紀

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総務省統計局の「人口推計」によれば、わが国の65歳以上の高齢者人口は10月1日現在で約3,386万人、高齢化率は26.7%となっている[図表1]。性別でみると、男性では1,465万人(23.7%)、女性では1,922万人(29.5%)と、高齢化の度合いでは女性の方が進んでいることがわかる。
性別・年齢階層別の人口分布
このように、人口の年齢階層別分布からみると、高齢者市場は人口全体の4分の1、女性に限れば3割を占める巨大なマーケットとなっていることから、かねてより、様々な業界、企業において高齢者市場の開拓は重要な課題とされてきた。しかし、月刊情報誌「日経トレンディ」が公表した「2015年ヒット商品ベスト30」についてみても、総じて若年層や女性向けの商品が大半を占めているようである。過去数年分を振り返ってみても結果は同様であり、高齢者向けの商品がランキングの上位を席巻する様はみられないようである。「ヒット商品ベスト30」は、“売れ行き・新規性・影響力”の3要素から同社が独自に評価したものであるため、割り引いて考える必要はあるが、顧客視点経営の重要性を指摘した拙稿(2012)以降も、多くの企業では未だ高齢者市場への有効な対応策に辿り着いていないものと思われる。

ところで、前述の「2015年ヒット商品ベスト30」に挙げられている商品では、若年層や女性といっても、「健康や美容に関心が高い女性」に向けた商品や「ゲーム好きな若年男性」に向けた商品のように、性別や年齢層だけでなく、趣味や嗜好により細分化された特定のセグメントを狙う意図が窺えるものが多くなっている。このように、従来から多くの企業が得意としてきた現役世代や子ども向けの市場では、世代や性別、趣味・嗜好など様々な軸により細分化して捉え、ターゲットと定めた特定のセグメントを狙った商品開発やコミュニケーション設計は不可欠なものとなっている。それにも関わらず、高齢者向けとなると一括りに「高齢者」として捉え、セグメンテーションの適切さについての検討を欠いているところが多いのではないだろうか。前掲図表からも明らかなように、一口に「高齢者」といっても60代から85歳以上まで30年以上の年齢差があり、戦前・戦中世代と団塊世代とでは、過去の生活体験や価値観はそれぞれ異なる。また、各々の嗜好も千差万別であるといえよう。このような多様な高齢者を一括りに「高齢者市場」として捉えることは、現役世代に置き換えれば20代から50代までの親子ほど歳の離れた世代を一纏めにして眺めているようなものではないだろうか。

「高齢者」や「シニア」といった表現は、特定の世代を表す上では非常に便利ではあるが、実際の高齢者の多様性について検討することなく、ステレオタイプな高齢者像のみを思い浮かべて思考停止に陥っていては、高齢者のニーズを汲み取り、支持される商品やサービスにつなげることはできまい。実際に、クラブツーリズム社では、高齢者やシニアだからと一括りにすることなく、それぞれの趣味・嗜好や希望する参加形態にあわせてツアーを選択できるよう、様々な「テーマ」別や、「おひとりさま」や「女性」などに限定したツアーを提供している。このような多様なツアーの提供の結果、同社の国内旅行の毎月の取扱額実績では2015年1月~9月の9か月間のうち、5か月で前年対比増加しており、1~9月累計でも前年比プラスと経営的成果につなげている。同社の取組が示すように、多様な世代からなる高齢者の多様なニーズを汲み取り、消費につなげるためには、「高齢者」という概念を捨てて虚心坦懐に個々の高齢者の生活や意識に目を向けることこそが肝要なのではないだろうか。
 

 
  1 日本を含む先進諸国では65歳以上を「高齢者」としているが、これは1956年の国連報告での表現を踏襲したものであり、国際社会において公式に定義されたものではない。なお「高齢者」の定義について国内では、見直しの議論も進められている。
  4 出所:KNT-CTホールディングス株式会社公表資料
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生活研究部   シニアマーケティングリサーチャー

井上 智紀 (いのうえ ともき)

研究・専門分野
消費者行動、金融マーケティング、ダイレクトマーケティング、少子高齢社会、社会保障

(2016年01月08日「基礎研REPORT(冊子版)」)

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