コラム
2012年09月28日

シニア市場をどう開拓するか-シニア市場が迫る「顧客視点経営」への転換

生活研究部 井上 智紀

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「シニア市場の開拓」が消費者向け(BtoC)ビジネスを展開する様々な業界、企業の壁を超えて共通する課題となって久しい。人口減少下の国内市場にあって、65歳以上高齢者となりつつある団塊世代を中心とした当該市場は無視できないということだろう。しかし、「シニア市場」、「シニアマーケット」を冠するセミナーが数多く開かれていることからすれば、今のところこの市場に受容され、ヒットするような新製品の開発は困難を極めているということではないだろうか。

ところで、コトラーによれば、1つの新製品を市場に導入するためには64のアイデアが必要であるという。また、こうしたアイデアの情報源のおおよそ半数は企業の内部情報であり、顧客に起因する情報は3割程度であるという。企業内部にあるアイデアの源泉のひとつには、対象市場と同世代の従業員の生活体験があるが、企業内部に「シニア」に関する情報は十分に蓄積されているのだろうか。

就業者の年齢階層別の構成比および平均年齢を人口全体と比較してみると、就業者の平均年齢は1980年(40.4歳)から2010年(44.5歳)までの30年間に4歳ほど上昇しているのに対し、人口全体では41.2歳から48.6歳へと7歳上昇している(図表)。年齢階層別の構成比に着目すると、就業者全体の平均年齢の上昇の多くが55~64歳層の増加に寄っているのに対し、人口全体では65歳以上の増加に起因しているさまがみてとれる。このことは、シニアに受容される新製品のアイデアを企業内部に求めようにも、社内にはほとんど求められないということを意味している。

消費離れが喧伝されるなど、かつての「若者」とは異なっているとはいえ、かつてきた道である「若者市場」は製品開発担当者が同じ視点に立つことも不可能ではないだろう。しかし、多くの企業人にとって「シニア」はまだ見ぬ地平であり、彼らの生活実感を具体的に想像することは容易ではない。

シニア市場の開拓を目指すためには、従来の製品開発以上に顧客に情報を求め、シニア層の視点について理解を深める努力が必要である。シニア市場開拓の成否は、企業が顧客視点の経営に転換できるかにかかっているともいうことができるだろう。


就業者人口および人口の年齢階層別構成比の推移



 
 P. Kotler(2003)”Marketing Management 3rd Ed.” Prentice Hall

 J.ティッド&J.ベサント&K.パビット(2004)『イノベーションの経営学』(後藤晃・鈴木潤監訳 NTT出版)

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