2015年12月21日

先端技術企業が牽引するサンフランシスコのオフィス市場

加藤 えり子

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実際の取引事例を見ると、過去約2年の間に確認された大型取引では、14年はオフィスがほとんどであったが、15年に入るとホテルが増加していることが分かる(図表11)。オフィスの利回りが下がり、市場に出るオフィス物件が限られる中で、次の大型投資の対象としてホテルへの投資需要が高まっている。サンフランシスコは、産業都市であると同時に観光都市であることから、ニューヨークに次いでホテル料金が高額であり、強いホテル需要も投資家を惹き付けている。

取引の中には、大型年金基金、生保会社、政府系ファンド等による直接投資も散見される。ノルウェー政府年金基金は、メットライフ生命あるいはTIAA-CREFFとの共同投資を行っている。15Q3にノルウェー政府年金基金が投資したサンフランシスコのオフィスは、airbnb(エアビーアンドビー)が本拠地オフィスとしているビルでEast SOMA に立地している。日本でも民泊のシステムプロバイダーとして注目されている新業態のテクノロジー企業をテナントとした大型投資であるとともに、開放的でデザイン性の高い先進オフィスであることかも注目を集めている。
図表-11 サンフランシスコ中心地区の大型取引 (14年-15年)

4.今後の開発動向

現在サンフランシスコ中心地区と近郊エリアで進行しているオフィス開発は、図表12のとおりで、大規模なものとしては、2018年に竣工予定のセールスフォース・タワー(SalesForce Tower、以下SFT)がある。SFTは、竣工すれば高さが1,100フィートでトランスアメリカの853フィートを抜いてサンフランシスコで最も高いビルとなる。また現在、SFTに隣接する縦長の敷地では、バス・鉄道用ターミナルと店舗等からなるトランスベイ・トランジット・センター(Transbay Transit Center、以下TTC)の工事も行われている。SFTに先んじて2017年に竣工予定のTTCは、サンフランシスコ・ペニンシュラを経てシリコンバレーの南に延びる鉄道「カルトレイン」が伸延されてできる新駅(地下2階)とバスターミナル(地上3階)、店舗(地上1階の一部)、自転車置場などで構成される交通ターミナル機能を持つ複合施設である。地上3階の屋上は緑豊かな庭園「シティ・パーク」となる。サウス・フィナンシャル・ディストリクトのまさに中心に位置する交通拠点の開業が、地域のポテンシャルを高めることは確実と思われる。
図表-12 サンフランシスコ中心地区で開発中のオフィスビル/写真-2 工事中のトランスベイ・トランジット・センター  図表-13 SFT・TTC配置図/図表-14 トランスベイ・トランジット・センターイメージ図
これらの大型物件以外にも中型ビルの供給は継続して発生している。サンフランシスコ中心地区で15Q4に供給予定のオフィス床は約140万sf(約13万㎡)で、その多くで既にテナントが確定しているため、空室率の上昇には繋がらないと複数の仲介会社がしている。16年以降は、510万sf(約47.4万㎡)が建設中、310万sf(約28.8万㎡)が認可されているとのことであり合計すると810万sf(76.2万㎡)のパイプラインが存在する10。図表7に示すように、上位25位までの大型賃貸契約では、テック・テナントの占める割合が高いが、全体では、法律関係や各種サービス業の需要も底堅く、需要は分散している。全体の需要としては既に600万sf近くが確認されている(15Q3)とのことであり、未着工も含めた供給予定の床面積810万sfは、空室率の著しい上昇には至らない可能性が高い。
 
10 CBREによる

5.テクノロジー企業が牽引するオフィス市場

新聞等でも報じられているように、最近ではシリコンバレーに拠点を持つ当初ベンチャーであったテクノロジー企業もサンフランシスコ中心地区にオフィスを構える傾向がある。また、早い段階からサンフランシスコにオフィスを持つテクノロジー・ベンチャー企業も増えてきており、前述のノルウェー政府年金基金が投資したarbnbなどもその一例といえる。こうした企業はその成長性から、賃料負担力が高く、将来の事業拡大に備えて比較的大規模なオフィスを確保する場合もある。

成長力のある新しいタイプの企業が志向する傾向にあるのは、開放的で創造力を高めるオフィス形態である。高い天上や吹抜けを確保する、ダイニングスペースを作る、ソファで寛げるコミュニケーション・スペースや外気に触れることができるテラスを配置する、といった工夫がなされたものだ。洗練されたデザインも欠かせない。サンフランシスコ中心地区では、リノベーションでこのような価値向上を戦略的に行っている不動産投資運用会社も見られた。SOMA を中心にこうした新しいクリエイティブ・オフィスがリノベーションによるものも含め供給され、オフィス空間の創造という意味でもサンフランシスコの先進性が発揮されている。

90年に創設されたサンフランシスコ・ベイエリアの経済シンクタンク11は、地域経済のレジリエンスについての提言をまとめ地域経済戦略として公表した12。提言ではインフラ投資、住宅開発、ワールドクラスのスキル育成などの戦略を示している。こうした常に先に向かってイノベーションを志向する風土が新しい企業を生む、あるいは呼び込むことになり、地域経済が継続的に活力を持つ礎となっていると思われる。金融危機後の回復期からの数年間、サンフランシスコのオフィス市場は地域経済成長の恩恵を受けてきた。今後は、投資利回りのさらなる低下、取引価格の上昇を懸念する声もあるが、リスクの顕在化を抑制するためにも地域経済の持続力に期待したい。
 
11 Bay Area Council Economic Institute
12 最新の提言は15年11月時点

 
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加藤 えり子

研究・専門分野

(2015年12月21日「不動産投資レポート」)

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