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- COP21「パリ協定」が日本に迫るもの~原発再稼動・増設の是非と再エネ普及に伴う国民負担増~
(COP21、「温室効果ガス排出削減」が国際的な枠組みに)
協定の条文内に全体の削減量は明記されなかったものの、「世界の気温上昇を2度未満に抑えることを目標にすること、同時に1.5度未満を目指し努力すること」が明記された。各国は事前に自国の削減目標を提出していたが、さらに今後5年ごとに目標に対する進捗状況や現水準以上の新たな目標を国連に報告することが義務づけられた。「温室効果ガス排出削減」が世界的な流れとなったことで、今後日本も他の主要国に劣らぬ責任ある取り組みが求められる。
(日本の削減目標)
26%の削減の内訳は、森林整備やフロン対策で4.1%、そして再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入拡大や原発の再稼動で21.9%削減するというもの。温室効果ガスの排出は化石資源(石炭、天然ガス、石油)を用いた発電時によるものが大部分を占める。化石資源による発電比率を引き下げ、ゼロエミッション電源である再エネと原発の比率を現状よりも大幅に引き上げることで目標達成を目指すというものだ。
削減目標提示にあたり策定された2030年時点の電源構成目標は前ページの図表の通り。再エネは13年度の11%から22~24%に倍増。原子力は重要なベースロード電源と位置付けられ、13年度の1%から30年度に20~22%にまで引き上げる方針だ。
しかし、この再エネと原子力との電源構成比率の引き上げについては実現までの道筋がはっきりと示されていない。
(原子力:見通せない再稼動への道筋、40年廃炉基準問題)
さらに原子力発電所には「40年廃炉基準」があり、原則運転開始後40年経過した原子力発電所は廃炉にするというルールがある。「40年廃炉基準」を適用した場合、すべて再稼動できたとしても電力構成に占める原子力比率は15%程度までにしかならず、30年度目標比率20~22%を達成できない。
目標達成には原発の再稼動状況を踏まえた運転の延長6そして新設について検討を進める必要があるものの、議論は進んでいない。
(再生可能エネルギー:固定価格買取制度による国民負担の増加)
固定価格買取制度は再エネ普及を促した反面で問題もある。
制度導入当初は標準家庭9で月あたりの負担が66円(年間792円)だったものが、2015年度には賦課金の総額が約1.3兆円にまで膨らんだ結果、標準家庭の負担は月あたり474円(年間5,688円)にまでなっている。
さらに制度開始後、設備認定を受けている中で既に運転が開始されているのは約24%10にしかすぎず、既認定分全てが運転開始されると賦課金の総額は2.7兆円になると試算されている。単純計算で標準家庭の負担は2倍近くまで急増する可能性もある11。
仮に年間1万円を超える追加負担が家計に及べば、国民から制度に対する批判が急増するだろう。14年4月の消費増税後の低迷からようやく緩やかに回復してきた個人消費の足かせにもなりかねない。制度への理解はもちろん、国民負担のあり方を問う必要がある。
1 1997年、京都で開かれたCOP3で採択された気候変動枠組条約に関する議定書。
2 国連に加盟する196カ国。
3 (公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)システム研究グループの「日本のエネルギーミックスと約束草案の評価」において、日本の排出削減目標は、他の主要国と比較しても優れたものと評価されている。
4 2009年(当時、鳩山首相)、日本は「2020年までに1990年比で25%削減」という目標を表明していた。2013年のCOP19にて安倍首相は民主党政権下で提出した上記目標を撤回。今回のCOP21に向けてエネルギー基本計画を作成し、電源構成のあり方と温室効果ガス削減目標を策定した。「2013年比26%減」目標は、1990年比では18%減となる。
5 15原発25基が規制委員会に安全審査を申請うち、3原発5基が合格という状況。2015年12月時点で再稼動は2基のみ。
6 原子力規制委員会が作成・運用している新規制基準では、60年まで運転延長が認められるが、新基準を満たす安全対策に多額の投資が必要となる。
7 2009年から固定買取制度導入前までの期間では、再エネ発電設備容量は年平均伸び率は9%だったが、制度導入後から2014年年平均伸び率は33%。太陽光は風力や水力や地熱などに比べ必要な環境調査や初期投資といった参入障壁のハードルが低いためローリスク・ローリターン投資として急増した。制度開始後の導入量、認定量ともに太陽光が9割以上を占める。
8 対象となる再生可能エネルギーは「太陽光」「風力」「水力」「地熱」「バイオマス」。
9 月間使用量300kWhを標準家庭と想定している。
10 平成27年5月時点の数値。経済産業省「総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会 再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会(第1回)‐配布資料」より。
11 現在、入札制度の導入などが検討されており、電気料金の急激な上昇に歯止めをかける一手として期待できる。もっとも、これまでに認定された設備については、これまで通り固定価格での買い取りが続くため、一定期間は賦課金が下げに転じることは考えにくい。
12 首相官邸HP 「平成27年12月13日国連気候変動枠組条約第二十一回締約国会議の合意に関する内閣総理大臣の談話(http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/151213danwa.html)」より
薮内 哲
研究・専門分野
(2015年12月18日「研究員の眼」)
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