2015年12月01日

【アジア新興経済レビュー】内需中心の緩やかな持ち直しが続く

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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7. 11月の注目ニュース、今後の注目点など

(1)マレーシア・タイ・インドネシア・フィリピン・インド:7-9月期GDPを公表

11月はマレーシア(13日)、タイ(16日)、インドネシア(5日)、フィリピン(26日)、インド(30日)で2015年7-9月期のGDP統計が公表された。

7-9月期の実質GDP成長率は、インドが前年同期比+7.4%(前期:同+7.0%)、フィリピンが前年同期比+6.0%(前期:同+5.8%)、タイが前年同期比+2.9%(前期:同+2.8%)と上昇した。インドは個人消費がやや鈍化したものの、政府消費と投資が加速し、フィリピンは堅調な民間消費に政府支出の更なる加速が加わり、景気全体を押上げた。またタイは景気の牽引役である公共投資と観光業がやや鈍化したものの、財貨輸出の持ち直しと輸入の鈍化で景気停滞を免れた。

一方、インドネシアが前年同期比+4.7%(前期:同+4.7%)と横ばい、マレーシアが前年同期比+4.7%(前期:同+4.9%)と低下した。インドネシアは政府予算の執行が加速したものの、個人消費が2期連続で前年比5%増を下回るなど景気停滞が続いている。マレーシアは今年4月のGST導入や急速なリンギ安を背景とした物価上昇、消費者や企業の景況感の悪化などによって、これまでの底堅い内需が弱含み、成長率は2009年以来の5%割れとなった。

 
(2)タイ:クラスター型投資奨励政策を発表(23日)

タイでは23日、政府が新たな投資優遇策として「クラスター型」の投資奨励制度を発表した。昨年まではバンコクから近いほど恩典が小さくなる「ゾーン型」の投資奨励制度を設けていたが、今年からゾーン制を廃止し、重要度の大きい「業種」を6区分に分けた恩典をベースとし、競争力向上や地方振興など「メリット」による追加恩典が付与される制度に変更している。今回の新制度を受けて、特定地域における特定の産業集積の形成に寄与する投資に対して更に手厚い恩典が付与されることになる。

まずバンコク周辺とチェンマイ、プーケットの計9県においては、自動車や電気・電子機器、石油化学・化学品、デジタルなど高度技術を使用する次世代産業は、スーパークラスターとして最も手厚い恩典(税制では8年間の法人所得税の免除とその後5年間に渡って50%減税)が付与される。また所得の低い地方部などでは、農産品加工や繊維・アパレルのその他クラスター対象事業やクラスター開発支援事業に対しても恩典(税制では3~8年間の法人所得税の免除とその後5年間に渡って50%減税)が付与される。

「業種別」の新制度は不評であったことから制度変更前には駆け込み申請が急増し、今年のBOI投資申請額は鈍い動きが続いてきた。今月25-28日にはソムキット副首相(経済担当)と経済5大臣が訪日し、日系企業にクラスター型の新投資奨励策を説明したほか、新制度では2017年中の操業開始を条件に追加恩典を付与するなど、政府は投資誘致を急いでいる。

 
(3)インド:ビハール州選挙で与党連合敗北(8日)

インドでは8日、ビハール州議会選挙(10月12日から5回に分けて投票)が開票され、インド人民党(BJP)を中心とする国政与党連合の国民民主同盟(NDA)の議席数は、現有の93から58へと減少した。同選挙に勝利した地域政党ジャナタ・ダル統一派を中心とする大連合は178議席(全議席の7割)を確保した。今回の敗北を受けて、州議会選挙は今年2月のデリー首都議会選挙に続く連敗となった。

現在、国会の上院はNDAが少数派のために上下院が「ねじれ」状態にあり、モディ政権の構造改革が遅れる主因となっている。上院議員(任期6年として2年毎に3分の1ずつ改選)は各州議員から選出されることから、NDAが上院で勢力を拡大していく上で今回のビハール州選挙は注目されていた。今回の敗北は、先行きの国政の遅れに少なからず影響する。来年以降の州議会選挙で巻き返すべく、今後政策運営の見直しが図られる可能性は高い。
 
(図表9)新興国経済指標カレンダー (4)12月の注目指標:韓国・台湾・タイ・インドネシア・フィリピン・インドで金融政策決定会合

12月は、韓国(10日)・台湾(17日)・タイ(16日)・インドネシア(17日)・フィリピン(17日)・インド(1日)の中央銀行で金融政策会合が開かれる。

各国・地域ともにインフレ率が低く、利下げ余地を残しているが、15~16日に開かれる米FOMC(連邦公開市場委員会)で利上げが決まれば金融市場が混乱する可能性がある。従って、FOMC前に会合を開く韓国・タイ・インド、またFOMC翌日に会合を開く台湾・タイ・インドネシアは、それぞれ過度な通貨安を引き起こす恐れのある金融緩和には踏み切りにくい状況にあると言える。

もっともインドネシアは11月の会合後の声明文において「政策金利を引き下げる余地がある」と先行きの金融緩和の可能性を示しており、今回の会合で記述内容に変更がないかは注目と言える。

 
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2015年12月01日「経済・金融フラッシュ」)

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