コラム
2015年11月13日

「高齢者」やめませんか-「高齢者」の再定義こそ高齢者からの支持獲得への近道

生活研究部 シニアマーケティングリサーチャー   井上 智紀

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 総務省統計局が毎月公表している「人口推計」によれば、わが国の65歳以上の高齢者人口は10月1日現在の概算値で約3,386万人、高齢化率は26.7%となっている(図表)。性別にみると、男性では1,465万人(23.7%)、女性では1,922万人(29.5%)と、高齢化の度合いでは女性の方が進んでいることがわかる。
 
図表 性別・年齢階層別の人口分布

 このように、人口の年齢階層別分布からみると、高齢者市場は人口全体の4分の1、高齢女性市場では女性人口全体の3割を占める巨大なマーケットとなっていることから、かねてより、様々な業界、企業において高齢者市場の開拓は重要な課題とされてきた。

 しかし、日経BP社の月刊情報誌である「日経トレンディ」が先日公表した「2015年ヒット商品ベスト301」についてみても、総じて若年層や女性向けの商品が大半を占めているようである。同「ヒット商品ベスト30」について過去数年分を振り返ってみても同様であり、高齢者向けの商品がランキングの上位を席巻する様はみられないようである。「ヒット商品ベスト30」は、“売れ行き・新規性・影響力”の3要素から同社が独自に評価したものであるため、割り引いて考える必要はあるが、拙稿(2012)2において顧客視点経営の重要性を指摘した以降も、多くの企業では未だ高齢者市場への有効な対応策に辿り着けていないものと思われる。

 ところで、前述の「2015年ヒット商品ベスト30」に挙げられている商品では、若年層や女性といっても、「健康や美容に関心が高い女性」に向けた商品(ココナッツオイルやディープセラムなど)や「ゲーム好きな若年男性」に向けた商品(マインクラフトやスプラトゥーンなど)のように、性別や年齢層だけでなく、趣味や志向により細分化された特定のセグメントを狙う意図が窺えるものが多くなっている。従来から多くの企業が得意としてきた現役世代や子ども向けの市場では、このように、世代や性別、趣味・志向など様々な軸により細分化して捉え、ターゲットと定めた特定のセグメントを狙った商品開発やコミュニケーション設計は不可欠なものとなっている。それにも関わらず、高齢者向けとなると一括りに「高齢者」として捉え、セグメンテーションの適切さについての検討を欠いているところが多いのではないだろうか。前掲の図表からも明らかなように、一口に「高齢者」といっても60代から85歳以上まで30年以上の年齢差があり、戦前・戦中世代と団塊世代とでは、過去の生活体験や価値観はそれぞれ異なる。また、各々の志向も千差万別であるといえよう。このような多様な高齢者を一括りに「高齢者市場」として捉えることは、現役世代に置き換えれば20代から50代までの親子ほど歳の離れた世代を一纏めにして眺めているようなものではないだろうか。

 「高齢者」や「シニア」といった表現は、特定の世代を表す上では非常に便利ではあるが、実際の高齢者の多様性について検討することなく、ステレオタイプな高齢者像のみを思い浮かべて思考停止に陥っていては、高齢者のニーズを汲み取り、支持される商品やサービスにつなげることはできまい。実際に、クラブツーリズム社では、高齢者やシニアだからと一括りにすることなく、それぞれの趣味・志向や希望する参加形態にあわせてツアーを選択できるよう、ウォーキング、霊場めぐり、仏像めぐり、三大○○めぐり、健康づくりといった様々な「テーマ」別や、配偶者と死別した高齢者などを対象とした「おひとりさま限定」や「女性限定」のツアーを提供している。このような多様なツアーの提供の結果、同社の国内旅行の毎月の取扱額実績では2015年1月~9月の9か月間のうち、5か月で前年対比増加しており、1~9月累計でも前年比プラスと経営的成果につなげている3。同社の取組が示すように、多様な世代からなる高齢者の多様なニーズを汲み取り、消費につなげるためには、「高齢者」という概念を捨てて虚心坦懐に個々の高齢者の生活や意識に目を向けることこそが肝要なのではないだろうか。
 
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生活研究部   シニアマーケティングリサーチャー

井上 智紀 (いのうえ ともき)

研究・専門分野
消費者行動、金融マーケティング、ダイレクトマーケティング、少子高齢社会、社会保障

(2015年11月13日「研究員の眼」)

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