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消費者との接点の持ち方が難しくなっている。
(株)電通が毎年公表している「日本の広告費」によれば、マスコミ4媒体のいわゆるマス広告にかける費用は2013年以降やや持ち直しつつあるものの、減少トレンドをたどっている。一方、一貫した増加傾向にあるインターネット広告費は、2009年以降テレビ広告費に次ぐ規模にまで成長しており、2014年には初めて1兆円を超えるなど、存在感を増し続けている1。このことは、多くの企業にとって、テレビは消費者との接点として依然として重要な存在として認識されているものの、インターネット上の接点の拡大がマーケティング上の大きな課題となっていることを示している。
実際に、弊社が2013年1月に実施した調査2から、消費者の日常生活における情報源についてみると、全体では「テレビ番組」が70%と、主要な情報源となっているものの、性別・年代別にみると男性の20~30代では6割に満たず、「新聞(一般紙)」は男女とも20~30代では2~3割に留まるなど、すでに若年層ではテレビ以外のマス媒体は消費者との接点としての地位を喪失しているようにみえる〔図表1〕。一方で、「ポータルサイト・ニュースサイト」は、男性では20~50代で半数を超え、女性でも20~50代では4割を超えていることから、インターネット上の「ポータルサイト・ニュースサイト」は、かつて新聞が果たしてきたニュースなどの情報源としての地位をほぼ奪いつつあるとみることもできよう。これに、「個別企業のサイト」や「まとめサイト」、「ソーシャルメディア」や「動画サイト」などを加えたインターネット全体としてみると、男性では年代にかかわらず、女性でも50代以下では半数を超えて高くなっていることから、消費者にとっても、インターネットは日常生活における情報源として不可欠の存在となりつつあると考えられる。
では実際に、消費者はどのようなインターネットの機能やサービスを利用しているのだろうか。総務省の「平成25年 通信利用動向調査」から、家庭内・外から利用したインターネットの機能・サービスについてみると、いずれの層においても「電子メールの送受信」と並んで「商品・サービスの購入・取引」が上位にあがるほか、男性の30代以下、女性の10代では「動画投稿・共有サイトの利用」が、男性の10代、女性の20代以下では「ソーシャルメディアの利用」が上位に挙がっている。一方、男性の40代以上では「天気予報(無料)の利用」が、女性の60代では「地図・交通情報の提供(無料)サービス」が、それぞれ上位に挙がるなど、性別や年代により、利用する機能・サービスにやや違いはあるものの、総じて商品・サービスの購入や天候、地図・交通情報など、何らかの目的に則した情報の収集や、電子メールやソーシャルメディアなどのコミュニケーションが、主要な目的となっているようである。消費者は、主体的にインターネットを利用しており、テレビなどのように漫然と受動的に情報を受け取るようなことはないといえよう。
このような消費者のインターネットの利用目的に則して、企業側から適時適切な情報を提供できれば、売上などの経営的な成果につながる可能性が期待できるものと思われる。しかし、動機づけられていない状態の消費者に対して企業側から一方的に商品やサービスについて発信しても、消費者への到達はほとんど期待できず、仮に消費者に到達できたとしても、経営的成果にはつながらない可能性が高いのではないだろうか。換言すれば、消費者と接点を持つためには、消費者側が自ら求めて情報を取りにきた瞬間を捉えていくしかなくなっており、ターゲットとする顧客層に向けたマス広告によって、商品やサービスの情報を効果的に届けることができる時代ではなくなりつつあるといえよう。
この点、検索連動広告などのインターネット広告に関わる技術の発達により、消費者が動機づけられた瞬間を捉えることは可能になりつつある。
しかし、ここで重要な事は、消費者の期待に応える情報コンテンツを提供できなければ早晩、離反されてしまいかねないことである。多くの競合する商品・サービスや企業があるなかで、限られた消費者の時間を占有し、コミュニケーションをはかっていくためには、受け手である消費者にとって、良質なコンテンツをどれだけ提供できるかが決定的に重要であるといえるのではないだろうか。
http://dentsu-ho.com/articles/2225
調査方法:インターネット調査/調査対象:全国20~60歳男女個人(調査会社登録パネル)/サンプル数:6,293人
(2015年05月15日「研究員の眼」)
井上 智紀
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