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世帯年収別に見たコロナ禍の家計収支の変化-中低所得層の現役世帯で夫の収入の減少幅大、給付金が家計を下支え
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
- 2020年の二人以上勤労者世帯の実収入は、給付金や妻の勤め先収入が増えたことで、収入階級によらず増え、増加幅は上位20~40%を含む比較的高所得世帯を中心に大きい。妻の勤め先収入は、コロナ禍で飲食業等のパートは減る一方、需要の増す医療・福祉業等の正規雇用者が増えたことで、押し上げられた可能性がある。しかし、雇用形態や業種によって状況が大きく異なることに留意すべきである。
- 夫の勤め先収入は下位20%を除く全ての階級で減っており、特に下位20~60%層で減少している。また、当該層では妻の勤め収入の増加幅も小さい。なお、下位40%以下(特に現役世帯の多い20~40%)では給付金を含む他の特別収入が実収入の増加幅を上回るため、コロナ禍の就労収入の減少を給付金によって支えられている。
- 実収入の増加幅は上位20%の層より上位20~40%の層で大きく、より高所得層ではコロナ禍の就労収入への影響が小さいようだ。個人年収1,000万円以上では800~1,000万円未満よりコロナ前と就労収入が変わらない割合が高いが、800~1,000万円では増加の割合も減少の割合も高く、良くも悪くもコロナ禍の影響を大きく受けている。
- 消費支出は収入階級によらず減り、減少幅は支出額の多い高所得世帯ほど大きい傾向がある。いずれの階級でも実収入が増え、消費支出が減ることで預貯金純増は増え、増加幅は実収入の増加幅の大きな上位20~40%を中心に大きい。全体的に消費余力があるようだが、月別に夫婦の勤め先収入の前年同月比を見ると、おおむね低下傾向にあり、特に低所得世帯や子育て中の現役世帯などでは慎重な消費態度が根強いだろう。
- 消費者の経済不安にはコロナ禍によるものだけでなく、コロナ前から若い世代を中心に雇用不安や社会保障制度の持続可能性への不安などが見られてきた。ワクチン接種が進み、行動制限が緩和されれば、旅行や外食などの外出型消費を中心に消費は大きく動き始めるだろう。一方で、それは継続するものなのか、一時期の盛り上がりの後は再び将来不安による消費抑制という動きへと変わっていくのか、注視していきたい。
■目次
1――はじめに
~低所得層ほど就労収入は減少、世帯年収200万円未満の約4分の1で1割以上減少
2――家計収支の変化
~中低所得層の現役世帯で夫の収入の減少幅大、給付金が家計を下支え、貯蓄増
1|家計収入の変化
~特別定額給付金や(正規雇用)妻の収入増加で収入階級によらず実収入増加
2|コロナ禍の影響の小さな高所得世帯
~年収1,000万円以上の7割超がコロナ前と就労収入の変化なし
3|消費支出と貯蓄の変化
~給付金と消費減少で貯蓄は増加、就労収入は足元で前年同月を下回る
3――おわりに~ワクチン接種で消費は大きく動く可能性が高いが、その後は?
03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
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