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- 増え行く単身世帯と消費市場への影響(4)-教養娯楽・交際費から見る「自分時間」「人間関係」「自己表現」への投資
2025年09月03日
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3――おわりに~多様な単身世帯、社会変化の先行指標として読み解く新たな消費社会
本稿では、教養娯楽費と、交際費を中心とした「その他の消費支出」を取り上げ、単身世帯の消費行動の特徴を分析した。教養娯楽面では若年層のレジャー志向、高齢層の読書・学習志向、壮年男性のデジタル活用という世代・性別による違いが確認された。また、「その他の消費支出」では、高齢女性に見られる人間関係への投資(交際費)や、若年層で目立つ理美容や身の回り品への支出などが確認され、単身世帯の行動は「自分時間」「人間関係」「自己表現」への投資という三つの軸で整理できる。
四回のレポートを振り返ると、第1回で単身世帯の構造的増加と市場へのインパクトを確認し、第2回では家計収支から若年女性の経済力向上と壮年女性の脆弱性が示された。第3回では食生活や住生活から利便性や住まい方の特徴を確認し、今回の第4回では教養娯楽や交際活動といった「生活の質」に直結する領域を検討した。ここから浮かび上がるのは、単身世帯が決して均質ではなく、年齢・性別・経済状況に応じて多様な姿を見せる存在であるという点である。
特に注目すべきは、単身世帯の消費行動が社会変化の「先行指標」として現れることである。物価高への敏感な反応、デジタル化への積極的な対応、外食から中食への移行など、単身世帯の行動は社会全体のトレンドを先取りする傾向がある。この背景には、意思決定の自由度が高く、個人の価値観や経済状況が直接的に消費行動に反映されやすいことがある。
今後、単身世帯は2050年には全世帯の44.3%に達し、家計消費に占める割合も3割を超える見通しである。こうした中で、単身世帯の多様なニーズに対応した商品・サービスの開発が重要となる。若年女性の体験志向、壮年男性のデジタル活用、高齢女性の人間関係重視といった特性を理解し、きめ細かな対応が求められる。
一方で、政策面では壮年女性の経済的脆弱性に見られるように、雇用の安定化や社会保障の充実などを通じた支援が急務である。特に、人間関係の維持に必要な支出が削減を余儀なくされている層への配慮は、個人の生活の質を守るだけでなく、社会全体の結束力維持の観点からも重要である。
単身世帯の増加は、従来の「標準的家族」を前提とした社会システムの見直しを迫るとともに、新しい市場を切り開く契機にもなる。人生100年時代において、単身世帯は「孤独」や「不安定」の象徴ではなく、個人の自由度と選択肢を最大化した新しいライフスタイルの一つとして捉えることもできる。その多様で変化に敏感な消費行動の実態を踏まえ、誰もが豊かさを実感できる社会を実現するために、データに基づく丁寧な政策設計と市場開発を進めていくことが重要である。
四回のレポートを振り返ると、第1回で単身世帯の構造的増加と市場へのインパクトを確認し、第2回では家計収支から若年女性の経済力向上と壮年女性の脆弱性が示された。第3回では食生活や住生活から利便性や住まい方の特徴を確認し、今回の第4回では教養娯楽や交際活動といった「生活の質」に直結する領域を検討した。ここから浮かび上がるのは、単身世帯が決して均質ではなく、年齢・性別・経済状況に応じて多様な姿を見せる存在であるという点である。
特に注目すべきは、単身世帯の消費行動が社会変化の「先行指標」として現れることである。物価高への敏感な反応、デジタル化への積極的な対応、外食から中食への移行など、単身世帯の行動は社会全体のトレンドを先取りする傾向がある。この背景には、意思決定の自由度が高く、個人の価値観や経済状況が直接的に消費行動に反映されやすいことがある。
今後、単身世帯は2050年には全世帯の44.3%に達し、家計消費に占める割合も3割を超える見通しである。こうした中で、単身世帯の多様なニーズに対応した商品・サービスの開発が重要となる。若年女性の体験志向、壮年男性のデジタル活用、高齢女性の人間関係重視といった特性を理解し、きめ細かな対応が求められる。
一方で、政策面では壮年女性の経済的脆弱性に見られるように、雇用の安定化や社会保障の充実などを通じた支援が急務である。特に、人間関係の維持に必要な支出が削減を余儀なくされている層への配慮は、個人の生活の質を守るだけでなく、社会全体の結束力維持の観点からも重要である。
単身世帯の増加は、従来の「標準的家族」を前提とした社会システムの見直しを迫るとともに、新しい市場を切り開く契機にもなる。人生100年時代において、単身世帯は「孤独」や「不安定」の象徴ではなく、個人の自由度と選択肢を最大化した新しいライフスタイルの一つとして捉えることもできる。その多様で変化に敏感な消費行動の実態を踏まえ、誰もが豊かさを実感できる社会を実現するために、データに基づく丁寧な政策設計と市場開発を進めていくことが重要である。
(2025年09月03日「基礎研レポート」)
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03-3512-1878
経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/09/03 | 増え行く単身世帯と消費市場への影響(4)-教養娯楽・交際費から見る「自分時間」「人間関係」「自己表現」への投資 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
2025/08/28 | 増え行く単身世帯と消費市場への影響(3)-食生活と住生活の特徴 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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