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2025年09月01日
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5――検討
1|DMAの適用(GK指定)
DMAは2022年11月1日に施行(entered in force)され、2023年5月2日に適用可能(applicable)とされた10。実際にGKとなる事業者から閾値を越えた旨の通知を欧州委員会が受け取る期限とされたのは、適用可能となった2か月後の2023年7月3日である(DMA3条3項、なお2023年7月2日は日曜日)。
欧州委員会は通知を受けてから45営業日以内にGKを指定するかどうかの判断を下す必要がある。実際には2023年9月5日に上記図表2の通り、GKは6社、CPSは22が指定された。さらに2024年に指定が追加され、結果としてGKは7社、CPSは24が指定されることとなった。後述の通り、GK指定等に関して訴訟は発生しているが、DMAの執行は法律の定めるスケジュール通り進められてきていると言える。
DMAは2022年11月1日に施行(entered in force)され、2023年5月2日に適用可能(applicable)とされた10。実際にGKとなる事業者から閾値を越えた旨の通知を欧州委員会が受け取る期限とされたのは、適用可能となった2か月後の2023年7月3日である(DMA3条3項、なお2023年7月2日は日曜日)。
欧州委員会は通知を受けてから45営業日以内にGKを指定するかどうかの判断を下す必要がある。実際には2023年9月5日に上記図表2の通り、GKは6社、CPSは22が指定された。さらに2024年に指定が追加され、結果としてGKは7社、CPSは24が指定されることとなった。後述の通り、GK指定等に関して訴訟は発生しているが、DMAの執行は法律の定めるスケジュール通り進められてきていると言える。
2|Meta社の事例(個人情報の統合)
DMA5条2項(上記3の2)は異なるCPS間の個人情報を無断で統合することを禁止する。DMA施行前には、このような論点で争われたことはないと思われ、DMAで新たに設定されたルールと言える。
事例としてはFacebook等の利用者のアカウントにかかる個人情報を、Meta社の広告サービスに連動させることでパーソナライズされた(顧客属性を踏まえた)広告の表示がFacebook上で可能となる。この広告表示によりFacebook等の利用は無料でも、広告主からMeta社が収益を得ることができるというビジネスモデルである。
Meta社は広告のパーソナライズ、言い換えると広告サービスに個人情報を連動させるか、あるいは利用料を支払うかという選択肢を利用者に示した。しかし、この広告モデルは、パーソナライズされた広告を表示させない利用者に、同等のサービスを提供していない。すなわち、同意しない場合は有料となるため、自由な選択肢とは言えないと欧州委員会は判断した。加えて、同広告モデルではユーザーが自由に選択肢を選べないと判断した11。
11 前掲注5参照。
DMA5条2項(上記3の2)は異なるCPS間の個人情報を無断で統合することを禁止する。DMA施行前には、このような論点で争われたことはないと思われ、DMAで新たに設定されたルールと言える。
事例としてはFacebook等の利用者のアカウントにかかる個人情報を、Meta社の広告サービスに連動させることでパーソナライズされた(顧客属性を踏まえた)広告の表示がFacebook上で可能となる。この広告表示によりFacebook等の利用は無料でも、広告主からMeta社が収益を得ることができるというビジネスモデルである。
Meta社は広告のパーソナライズ、言い換えると広告サービスに個人情報を連動させるか、あるいは利用料を支払うかという選択肢を利用者に示した。しかし、この広告モデルは、パーソナライズされた広告を表示させない利用者に、同等のサービスを提供していない。すなわち、同意しない場合は有料となるため、自由な選択肢とは言えないと欧州委員会は判断した。加えて、同広告モデルではユーザーが自由に選択肢を選べないと判断した11。
11 前掲注5参照。
3|Appleの事例(モバイルエコシステム等の開放)
上記Appleの事例その1はアンチステアリング(外部サイトへの誘導禁止)にかかるものである。欧州委員会はAppleのアンチステアリング条項が欧州機能条約違反であるとして制裁金を科したことがある12。したがってDMAで新しく導入されたルールではない。
他方、Appleの事例その2は、第三者のアプリストアや外部サイトからのアプリのダウンロード(サイドロードという)を容認することをDMAが新たに求めたルールである。AlphabetのAndroidでは、従前よりサイドロードを認めていた一方で、AppleはDMA対応の一環として認めるようになったという経緯がある13。
欧州委員会はAppleがサイドロードを可能にするにあたって付した条件、たとえばアプリがダウンロードされるたびに€0.5をアプリ開発者が支払うことなどが、DMA違反に該当するかどうかについて、欧州委員会が調査・分析を進めている。
12 基礎研レポート「EUにおけるAppleへの制裁金納付命令-音楽ストリーミングアプリに関する処分」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78251?site=nli 参照。
13 研究員の眼「Appleのデジタル市場法違反-欧州委員会による暫定的見解」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=79008?site=nli 参照。
上記Appleの事例その1はアンチステアリング(外部サイトへの誘導禁止)にかかるものである。欧州委員会はAppleのアンチステアリング条項が欧州機能条約違反であるとして制裁金を科したことがある12。したがってDMAで新しく導入されたルールではない。
他方、Appleの事例その2は、第三者のアプリストアや外部サイトからのアプリのダウンロード(サイドロードという)を容認することをDMAが新たに求めたルールである。AlphabetのAndroidでは、従前よりサイドロードを認めていた一方で、AppleはDMA対応の一環として認めるようになったという経緯がある13。
欧州委員会はAppleがサイドロードを可能にするにあたって付した条件、たとえばアプリがダウンロードされるたびに€0.5をアプリ開発者が支払うことなどが、DMA違反に該当するかどうかについて、欧州委員会が調査・分析を進めている。
12 基礎研レポート「EUにおけるAppleへの制裁金納付命令-音楽ストリーミングアプリに関する処分」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=78251?site=nli 参照。
13 研究員の眼「Appleのデジタル市場法違反-欧州委員会による暫定的見解」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=79008?site=nli 参照。
4|Alphabetの事例(公正なオンライン検索)
上記Alphabetの事例は、一般検索において自社サービスを優先したことである。これは欧州機能条約違反として欧州委員会が制裁金を科したことがあった。これに対し、Alphabetが裁判に訴えたが、敗訴したという経緯がある14。つまりDMAにより新たに課されたルールではない。
なお、上記3の4に記載した競合一般検索事業者とのデータ共有は、DMAで新設されたルールである。DMAの前文61にある通り「GK によるランキング、検索ワード、クリック、閲覧のデータは新規事業者の参入及び拡大に対する重要な障壁となり、したがってオンライン検索エンジンのサービスの競争可能性を阻害する」ことを背景とし、一般検索事業者(Alphabet)にGoogle検索のデータの共有を求める。欧州機能条約からは出てこない、かなり踏み込んだ内容となっているが、Alphabetの準備は進められているようである。
14 基礎研レポート「グーグルショッピングEU競争法違反事件判決-欧州一般裁判所判決」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69734?site=nli 参照。
上記Alphabetの事例は、一般検索において自社サービスを優先したことである。これは欧州機能条約違反として欧州委員会が制裁金を科したことがあった。これに対し、Alphabetが裁判に訴えたが、敗訴したという経緯がある14。つまりDMAにより新たに課されたルールではない。
なお、上記3の4に記載した競合一般検索事業者とのデータ共有は、DMAで新設されたルールである。DMAの前文61にある通り「GK によるランキング、検索ワード、クリック、閲覧のデータは新規事業者の参入及び拡大に対する重要な障壁となり、したがってオンライン検索エンジンのサービスの競争可能性を阻害する」ことを背景とし、一般検索事業者(Alphabet)にGoogle検索のデータの共有を求める。欧州機能条約からは出てこない、かなり踏み込んだ内容となっているが、Alphabetの準備は進められているようである。
14 基礎研レポート「グーグルショッピングEU競争法違反事件判決-欧州一般裁判所判決」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=69734?site=nli 参照。
5|Booking・Amazonの事例(オンラインマーケットプレイス)
DMA制定前の事例として、Amazon自身およびAmazonの保管・運送サービスを利用する販売者をウェブページ上での掲示にあたって優遇しないとする確約計画案の提出を欧州委員会にあたって行い、これが認定された15。なお、米国の事例ではあるが、事実上最恵国待遇を小売事業者に求めたことに対して競争法違反であるとして連邦地裁に提訴したケースがある16。したがって、DMAにより新たに導入されたルールではない。
Bookingの事例も最恵国待遇に違いはなく、それを取りやめたことにより欧州委員会の調査は入らないこととされた模様である。
15 基礎研レポート「EUにおけるAmazonの確約計画案-非公表情報の取扱など競争法事案への対応」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73040?site=nli および欧州委員会https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_7777 参照。
16 基礎研レポート「Amazonに対する競争法訴訟-事実上の最安値要求は認められるか」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=77581?site=nli 参照。
DMA制定前の事例として、Amazon自身およびAmazonの保管・運送サービスを利用する販売者をウェブページ上での掲示にあたって優遇しないとする確約計画案の提出を欧州委員会にあたって行い、これが認定された15。なお、米国の事例ではあるが、事実上最恵国待遇を小売事業者に求めたことに対して競争法違反であるとして連邦地裁に提訴したケースがある16。したがって、DMAにより新たに導入されたルールではない。
Bookingの事例も最恵国待遇に違いはなく、それを取りやめたことにより欧州委員会の調査は入らないこととされた模様である。
15 基礎研レポート「EUにおけるAmazonの確約計画案-非公表情報の取扱など競争法事案への対応」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=73040?site=nli および欧州委員会https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_7777 参照。
16 基礎研レポート「Amazonに対する競争法訴訟-事実上の最安値要求は認められるか」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=77581?site=nli 参照。
6――おわりに
DMAの施行に関しては、2022年9月20日付け基礎研レポートにて解説を行った(2022年11月1日にDMA施行)。その時の感想としては、果たしてDMA適用は円滑に行えるのかというものであった。すなわち、欧州機能条約(特に私的独占の禁止)の適用については、デジタルプラットフォームの提供者(現GK)と欧州委員会の間でこれまで長く争われてきた。ところがDMAの適用が開始されると提供者の規模が閾値を超えるだけで、原則としてDMAの規定が適用されることとなる。それら規定は提供者がこれまで適用されることを拒絶してきた内容を含むものであった。
この点、AppleはGKの指定そのものを訴訟で争っており、現在も係争中である。欧州委員会からDMA違反であるとして課された制裁金についても欧州一般裁判所で争っている。他方、GKへの適用は上述5の1の通り、概ね欧州委員会の予定したスケジュール通りに行われてきており、GKからの報告も期日通り提出されている。
そうするとAppleの訴訟等の動向については依然留意すべきではあるものの、DMAの施行は着実に浸透・定着してきていると言える。
この点、AppleはGKの指定そのものを訴訟で争っており、現在も係争中である。欧州委員会からDMA違反であるとして課された制裁金についても欧州一般裁判所で争っている。他方、GKへの適用は上述5の1の通り、概ね欧州委員会の予定したスケジュール通りに行われてきており、GKからの報告も期日通り提出されている。
そうするとAppleの訴訟等の動向については依然留意すべきではあるものの、DMAの施行は着実に浸透・定着してきていると言える。
(2025年09月01日「基礎研レポート」)
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03-3512-1866
経歴
- 【職歴】
1985年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
2018年4月 取締役保険研究部研究理事
2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
2025年4月 取締役保険研究部研究理事
2025年7月より現職
【加入団体等】
東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等
【著書】
『はじめて学ぶ少額短期保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2024年02月
『Q&Aで読み解く保険業法』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2022年07月
『はじめて学ぶ生命保険』
出版社:保険毎日新聞社
発行年月:2021年05月
松澤 登のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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2025/09/01 | EUデジタル市場法の施行状況-2024年運営状況報告 | 松澤 登 | 基礎研レポート |
2025/08/26 | 芝浦電子に対するM&A攻防-公開買付期間の延長 | 松澤 登 | 研究員の眼 |
2025/08/26 | 相続における死亡保険金-遺留分侵害請求 | 松澤 登 | 保険・年金フォーカス |
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