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2025年09月01日

EUデジタル市場法の施行状況-2024年運営状況報告

保険研究部 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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3|モバイルエコシステム等の開放
(1) DMAの規定
DMAでは、スマートフォンやPCを動かす基本となるシステムであるオペレーティングシステム(OS)の提供者(GK)、具体的にはApple(iOS)、Alphabet(Android)、Microsoft(Windows)に対して、アプリのインストールを容易にするなどの措置を求めている。OSの提供者が自社OS上のエコシステム(生態系)を支配することを防止し、イノベーションが活発化することを企図している。

具体的には、GKはプレインストールされたアプリの削除を容易にできるようにし、またデフォルト設定を容易に変更できるようにする(DMA6条3項)。また、GKはアプリおよびアプリストアを容易にインストールできるようにしなければならない(DMA6条4項)。さらにGK は、サービスの提供者とハードウェアの提供者に対して、無償で、効果的な相互運用または相互運用目的のアクセスを提供しなければならない(DMA6条7項)。これは、たとえば他社製のスマートウォッチであっても、自社製のスマートウォッチと同等のデータ連携が自社製スマートフォンとの間で可能になるようにしなければならないということである。

(2) Appleの事例その1
委員会は、GK(Apple)がiOS(ウェブブラウザの選択画面を含む)におけるデフォルト設定の変更をユーザーが容易に行えるよう、またはiOS上でAppleの自社アプリケーションを容易に削除できるようにする義務を効果的に履行していないと判断し、Appleと協議を行った。その結果、Appleは2024年8月に、選択画面でウェブブラウザを選択する際に支障となっていた点を解消した。また、デフォルト設定されているアプリについて、利用者が変更または削除できる数を増加させた。さらに、デフォルトアプリの設定セクションが新設され、デフォルト設定の変更を容易にした。

2024年6月24日、委員会はAppleに対し、同社のApp Storeの方針が、アプリ開発者が利用者に対し外部サービスやコンテンツを宣伝するのを制限することで、利用者が代替的でより安価な購入選択肢を剥奪(アンチステアリングという)しているとして、DMAに違反するとの暫定的な見解を通知した9(図表5)。
【図表5】Appleの事例(アンチステアリング)
 
9 研究員の眼「Appleのデジタル市場法違反-欧州委員会による暫定的見解」https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=79008?site=nli 参照。なお、当案件についてはDMA6条関係ではなく、5条4項(アンチステアリングの禁止)にかかる事案である。
(3) Appleの事例その2
DMA6条4項のもと、AppleはiPhoneデバイスのエンドユーザーに対し、AppleのApp Store以外の方法でのアプリインストールを許可しなければならない。これには例えば、サードパーティのアプリストアのインストールと利用を可能にしたり、ウェブからのアプリの直接ダウンロードを許可したりすることが含まれる。

欧州委員会は2024年6月24日、Appleが開発者に対し、第三者のアプリストアを提供したり、そのようなアプリストアを通じてアプリを提供したりする際に課した契約条件に関するDMA遵守状況について調査を開始した。具体的には、調査は以下の点を対象としている。

1) Appleが提案する「Core Technology Fee」の下で、第三者アプリストアや第三者アプリの開発者がインストールされたアプリごとに€0.50の料金を支払う必要がある点;

2) AppleがiOS上で第三者アプリストアやアプリをダウンロード・インストールするための多段階のユーザーフローを課している点;および、
3) 開発者がiOS上で第三者アプリストアを提供したり、ウェブから直接アプリを配布したりするための一定の資格要件を課している点である(図表6)。
【図表6】Appleの事例(第三者アプリストアからのアプリダウンロード)
4|公正なオンライン検索
(1) DMAの規定
DMA6条5項は、オンライン検索に係る規定であり、要するにGoogle検索に係る規定である。オンライン検索はネット上で事業活動の成否を決めるほど重要な役割を担っている。オンライン検索が公正な検索結果を示さないのであれば競争可能性に大きな影響を及ぼす。

具体的に、GK は GK 自身によって提供されるサービスや製品に関するランキングと、それに関連するウェブサイト索引付与と巡回(indexing and crawling)について、類似する第三者のサービスや商品より有利に取り扱ってはならない。つまり、Googleはそのオンライン検索において、自社サービスを優遇してはならない。

また、DMA6条11項は、GK はオンライン検索サービスを提供する第三者事業者に対して、その要求により、公正かつ合理的、非差別的な条件において、GK の運営するオンライン検索サービスにおけるランキング、検索ワード(query)、クリック、閲覧データを開示しなければならない。

(2) Alphabetの事例
欧州委員会は、Alphabetが宿泊、旅行、EC、コンテンツ作成などの分野で活動する競合他社よりも自社の分野別検索サービスまたは仲介サービスを優遇している疑いがあり、DMA6条5項に違反するとして、2024年3月25日にAlphabetに対する調査を開始した(図表7)。
【図表7】自社検索サービス等の優遇
また、2024年3月、アルファベットは、DMAの義務であるランキング、クエリ、クリック、ビューデータの共有に準拠するためのデータライセンスソリューション(競合検索事業者に対する情報提供の仕様)を提案した。委員会は、このライセンスソリューションがDMA6条11項に準拠しているかどうかを評価中である。
5|オンラインマーケットプレイス
(1) DMAの規定
DMAが定めるのは、いわゆる最恵国待遇の禁止である。つまり、自社のオンライン販売市場よりも他社のサイトで安い価格で商品を提供しないようにすることを禁止する。具体的に、DMA5条3項では、GK は、ビジネスユーザーに対して、他のオンライン仲介サービスやビジネスユーザー自身の販売チャネルで GK の提供するオンライン仲介チャネルと異なった価格や条件で提供することを禁止してはならないとする。

(2) BookingとAmazonの事例
Bookingは、DMAに準拠するため、まず、一般利用規約において価格一致要件(最恵国待遇)の対象地域からEEAを削除し、次に、価格一致に言及しない更新版の利用規約を導入したと表明した。Bookingはまた、プレミアムプログラムの入力データとして外部価格の使用を中止したと表明した(図表8)。
【図表8】宿泊仲介サイトにおける価格統一要件
オンライン検索における禁止措置と同様に、オンライン仲介サービスもDMAの自己優遇禁止措置の対象となる。これは、GKのCPS上でGKの製品やサービスと直接競合する数千の事業者が、公正で競争可能なオンライン市場を享受できるようにするためである。

これにより、利用者もGKのCPS上でより幅広い製品やサービスの選択肢を見つけることができるようになる。2024年3月25日に発表された通り、委員会はアマゾンがDMAに準拠しているかどうかを評価するため、潜在的な自己優遇行為に関する予備的な調査手順を実施している。

4――その他の運営状況

4――その他の運営状況

1|集中報告
DMAは集中についての情報提供義務をGKに課している。具体的にDMA14条は、EC合併規則3条に定める合併や買収による集中によってCPS等のサービスをデジタルセクターに生じさせ、あるいはデータの収集を可能にする場合には合併等の届出義務の有無にかかわらず、欧州委員会に報告しなければならないとする。

2024年に欧州委員会は15件の報告を受けた。特徴的なのが「acqui-hiring」と呼ばれる人材獲得手法である。例としては、他社の専門チームをチームごと取得する取引が挙げられ、専門性を有する人材を一挙に獲得することができる。この取引は株式や資産の取得を必ずしも伴わず、集中報告の対象となるかは個別案件によるとされる(本報告p16)。
2|消費者プロファイリング技術の監査報告
上述の通り、消費者プロファイリング技術を利用するGKは、独立した監査済みの報告を行うこととされている。対象となったのは、Alphabet、Amazon、Apple、Meta、Microsoft、ByteDanceである。このうち、ByteDanceを除く5社は指定日から6か月後の期限2024年3月7日までに提出し、ByteDanceは遅れながらも2024年4月9日に提出された。また2024年5月13日に指定されたBookingは、2024年11月13日に期限通りに提出した。

提出された報告は欧州委員会で検討継続中である。なお、GKは独立した監査済みの報告は毎年更新する必要がある。

本資料記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と完全性を保証するものではありません。
また、本資料は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2025年09月01日「基礎研レポート」)

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保険研究部   研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2024年4月 専務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月 取締役保険研究部研究理事
     2025年7月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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